8月18日(土)を皮切りに、モダンホラーの帝王・スティーヴン・キング氏原作の『骨の袋』がスターチャンネルで無料放送される。テレフィーチャーのミニシリーズで前後編の構成で、日本ではソフト未発売のため、キングファンにとっては貴重な機会となる。

『骨の袋』は、ピーアス・ブロスナン演じる妻を突然失った作家が主人公。別荘のある田舎町で、出会った若い母娘二人に固執するソフトウエア王との戦う中で、過去にまつわる住人との確執やゴースト現象に苛まれながら、殺人と呪いの系譜の謎に迫っていく。作品を貫くのは深い妻への愛で、キングらしい複雑な要素が絡み合った見ごたえたっぷりの作品に仕上がっている。

監督を務めたのは、『スリープウォーカーズ』、『ザ・スタンド』『シャイニング』などキング原作の映画やテレフィーチャーを多く手掛け、『マスターズ・オブ・ホラー』の仕掛け人でもあるミック・ギャリス氏。プチョン国際ファンタスティック映画祭に登場した監督のミック・ギャリス氏にインタビューを行った。

◆放送日程◆
【前編】8月18日(土)21:00/8月24日(金)21:00/8月29日(水)11:30
【後編】8月19日(日)21:00/8月24日(金)22:30/8月30日(木)11:30







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◆“モダンホラーの帝王”スティーヴン・キングとのタッグについて
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——ミック・ギャリス氏はスティーヴン・キング氏の小説の映像化をたくさん手がけていて、いいコンビだと思いますが、一番最初に『スリープウォーカーズ』で仕事をした時の印象はいかがでしたか?

ギャリス:彼は私が今まで会った人の中で最も親切で面白い人。最初に会った時からいい友人になることができたよ。

——最初から彼の小説をうまく映像化できる自信はありましたか?

ギャリス:それはYesともNoとも言えるね。制作者として最も大切なのは本の内容を忠実に再現することだと思ったんだ。僕は彼のことをすごく好きだし尊敬していて、彼はホラー作家として有名だけどホラーだけでなく作家としても素晴らしい人。彼の作品を映像化する上で一番大切なのは本の基調を保つことだと考えた。ストーリーテリングも素晴らしいけど、内容を伝える上でキャラクターの深みを忠実に再現することが一番大事だと考えたんだ。私自身も作家で、小説や映画のスクリプトを書いているけど、彼の本の中で一番大切な要素はキャラクターの深み。そういったことが理解できたから、我々二人は最初に会った時から意気投合できたんじゃないかな。

——キング氏から特に信頼を受けていると思われる点は?

ギャリス:『スリープウォーカーズ』を映像化したときに、シニカルな映画ではないけど、彼は非常に満足してくれたんだ。期待に応えることが出来たのが大きかったんだろうね。彼と私は非常に生い立ちが似ていて、小さい頃親が離婚して共に母親に育ててもらったんだ。同じ映画、本、TV番組を観て来て育っていて、彼の方が年上だけどほぼ同じ世代なんだ。
彼は元々小説を書く作家に対して映画のスクリプトを書く作家をあまり評価していなかったらしいけど、私と一緒に仕事をして、プロらしく表現してくれたということで信頼を得たんだ。
面白い要素を的確に生かすことで、作家と制作者お互いに満足できることが大事だと思っていて、お互い意見が一致したね。

——『骨の袋』の話に入る前にギャリスさんのキャリアについてお尋ねします。元々批評家からスタートして脚本、監督とキャリアを重ねていきましたが、元々監督になりたい、映画を作りたいという夢はあったんでしょうか?

ギャリス:私は元々ロックスターになりたかったんだ(笑)。the Horsefeathers Quintetというバンドでシンガーとして数年活動していたよ。小説は元々書いていたし、12歳の時に8ミリ映画を作ったり。ただ一度も映画の制作者になれると思ったことはなかったんだ。ただ、世間知らず的に純粋だったかもしれないけど、チャンスがあるなら何でもやってみようと思ったんだ。1985年にSFアンソロジー・シリーズ「アメージング・ストーリーズ」でスピルバーグに作家として起用され、その後監督になることが出来たんだよ。

——現在は監督であり作家として小説も書いておられますが、創作の面白さはどんなところにありますか?

ギャリス:作家と監督は役割そのものが全然違うのでどちらが面白いと比べられるものではないし、両方できるのは果報者だと思うね。
作家はたった一人で仕事をする。自分の想像したものを全て描くことができるのは好きだよ。監督は数百人のスタッフと仕事をする訳で、監督の面白さは数百人の才能あるスタッフとアイディアを共有しつつ一緒に仕事ができること。俳優、デザイナー作曲家、技術スタッフたちと一緒にやる中で、私は彼らに刺激を与えていい作品を仕上げる役割なんだよ。社会性や技術面で求められるものが多いので、ハードだけどそこが面白い。

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◆『骨の袋』は“人間の喪失”を描いた作品だ
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——それでは『骨の袋』に話を移します。この小説は亡くなった奥さんへの愛からゴースト現象、ヘイトクライム、小さな町のコミュニティ全体の差別行動といった人間の闇の部分も含めて様々な要素が入っており、キング氏の小説は常に複合的な要素が絡んでいる点が面白いのですが、ギャリス氏はこの物語をどんなものとして理解されましたか?

ギャリス:彼がいかに“人間の喪失”を伝えたかったのか、そこに注目したね。この物語が単に10代の男女が森の中で殺されるような単純な話ではなく、非常に人間的な面を描いているんだ。私は父親と2人の兄弟を亡くしていることもあって、よく理解できたよ。
この映画は人間の喪失、愛、ロマンス、ヒューマニズム、様々な要素が描かれていて、愛する人を亡くした後に他の人を愛することができるのか?複雑かつ深みのあるテーマを描いているんだ。
もちろんゾンビが出てくる映画も好きだけど、そういった作品とは又別だよね。
ゾンビと言えば、実は私はマイケル・ジャクソンのスリラーにゾンビ役で出演しているんだ(笑)。踊っているゾンビではなく、最後の最後に出てくるゾンビ。髪型も当時と変わらないのですぐ分かると思うよ!

——確かめてみます!(笑)それでは、ギャリス氏はたくさんキング氏原作の作品を映画化されてますが、ギャリス氏のディレクションのいい点は、普通の生活や日常の愛の描写がホラー的表現と同じ比重で描かれている点にあると思います。今回もそうでしたが、ご自分で一番上手くいったと思われるのはどのシーンですか?

ギャリス:この映画で注目して欲しいのは、主役のピアース・ブロスナンが自分の妻を亡くしてどういうリアクションをしたかということ、少女が登場するシーン、
彼の奥さんが・・・するシーン(ネタバレになるので省略)、。元々怖い映画は好きだけど、この映画の中で過去の殺人のシーンは非常に暗いし不快な感じに仕上がっていて、撮影の日はとても憂鬱で、作業するのも大変だった。

——映画の中でとても重要なシーンであるとともに衝撃的なシーンでした。

ギャリス:25年間仕事をしてきて、これだけはやりたくなかったというシーンだったね。

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◆こんなピアーズ・ブロスナンは初めて観た
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——次は俳優について伺います。ピアース・ブロスナン氏との仕事はいかがでしたか?007のイメージが強く、愛妻家で子煩悩な姿が似合うのは意外でした。

ギャリス:私は彼のことが大好きだけど、私もその点は興味深かったな。彼がこういった芝居をするのは初めて観たような気がするよ。ピアース・ブロスナン自身、こういう役を演じたことがなく出来るという確信が持てなかったらしいけど、妻を亡くした夫の感情をうまく表現してくれたね。愉快な人なので彼との仕事は楽しかったよ。妻を亡くして喪失感に浸って切なく泣くシーンもあったけど、007の彼が老婦人にパンチを食らわされて倒れるシーンが面白かった(笑)。あれは私のアイディアなんだ。

——あのシーンは思わず笑ってしまいました(笑)。あと、その他のキャストもはまってして魅力的でよかったと思います。キャスティングはギャリス氏も係るのですか?

ギャリス:実際この映画で登場した俳優たちとは以前一緒に仕事をしていて、キャストに関してはとても満足しているんだ。上手くいかざるを得ないキャスティングだったね。この映画は人手が不足している中でやったから、気心の知れたキャストでできたのは救いだった。キャスティングにはもちろん係っているよ。会社は大物俳優を配して興行成績を上げることを望むし、私は役にぴったりの人を求めるから、とても複雑な作業と言えるね。

——時間がないので最後の質問ですが、タイトルの『骨の袋』の意味は、ラストに係る重要なものを指しています。加えて、人間も死んでしまえば所詮は骨の袋に過ぎないけども、だからこそ、憎しみあったり愛し合ったりする様々なことを含めて日常を大切なものとして生きることが重要であるとタイトルに込められているようにも思いますが、ギャリスさんはどう解釈されましたか?

ギャリス:もちろんそういったことも含まれていると思うよ。それから、映画の中で作家であるピアース・ブロスナンに言わせたとおり、“慎ましい人の一生に比べても、作家が作り出せる登場人物なんて何者でもない、ただの骨の袋だ”。つまり、作品を通じて作家が描くどんなものよりも、現実に生きる人々の人生が、どんなに豊かで事細かな出来事により成り立っているかということ。失ったものの大きさ、妻を失った夫の人間性、人生がどんなに大切なものかということだ。それは象徴的であり、特定的でもあるんだよ。

執筆者

デューイ松田

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