震災をきっかけに再会を果たしたある三姉妹。彼女たちは、精神的にも肉体的にもギリギリの状態だ。家族との絆を見失い、傷つけ合ってしまう。不器用に生きる彼女たちにとって、幸せとは? 愛とは?

『ギリギリの女たち』は、それでも女たちはたくましく強いという揺るぎない真実を写しだす。泣いて、笑って、喧嘩したら、再び立ち上がれる。これは今を強く生きている女たちの“愛の叫び”だ。

『愛の予感』『春との旅』等、国際的な評価の高い小林政広監督の最新作『ギリギリの女たち』は、冒頭の35 分間をワンカット、全編をわずか28カットという、実験的かつ大胆な手法で構成された意欲作。昨年3月11日に起きた東日本大震災の被災地となった気仙沼市唐桑町に居宅を持つ小林監督が、2006年に書かれた脚本を再構成し、昨年8月に唐桑町で撮影した。

長女に『愛の予感』に主演した渡辺真起子、次女に河瀬直美監督『火垂』などで評価が高い中村優子、三女に山口智監督『代行のススメ』など主演作が多い藤真美穂。今回は、瓦礫の山を目の当たりにしながらも、極限状態の中で土壇場を演じた3人の女優たちにインタビューを行った。





−−3人の女性のヒリヒリした感情のぶつかり合いが印象的でした。今回の役作りはどのようにやられたんですか?

渡辺:私は素直に台本を読みました。自分が長女であるということ、そして3人の立ち方を想像しながら役に入りました。

中村:私は、自分の役があの場所で過ごした過去の記憶なんかを作りました。たとえば思春期になったときに、姉がダンサーになりたいと打ち明けてくれた、とか。そういった(台本にはない)過去の記憶を想像で埋めていきました。いろんなエピソードがあればあるほど、人間像が立ち上がってくると思うので。

−−確かに画面では多くは語られませんが、3人の姉妹の過去にはいろいろとあったんだろうなと想像させられますね。

渡辺:観ているお客さんはきっと何かがあったんだろうなということでいいと思うんです。(演じる方は)それを具体的にしていくのも役作りの方法という気がします。

藤真:私はまともに台本を読めませんでした。まずは読んでからひとしきり泣いてしまって。この役に感情がスポッとはまって、入り込んでしまったんですね。だからとにかく強い気持ちを持とうと思いました。

−−この映画は、脚本を書いた小林政広監督という男性の目線から描いた3姉妹の話になるわけですが、女性の目線から見るとこの物語はどのように映ったのでしょうか?

渡辺:男の人には(女性が)こういう風に見えてるんだなと思いましたね。台本について監督に聞いたときにも「(女の人って)急に笑ったり怒ったりするじゃない」と言われて。男の人にとっては、さっきまで笑っていたのに、急に怒り出したりするように見えるようで。本人にとっては急でもないんですけどね。

中村:でもそれは監督もそうだった。

藤真:作品そのものが監督みたいな感じで、監督そのものが天性の女優という感じでしたね。普通に話していたと思ったら、3秒後にはかみなりが落ちることもありましたから。

中村:監督にピッと否妻が走るのは、その役柄としてのトーンにのってなかったり、動きが結びついてなかったとき。「それじゃ他人事なんだよ」と言う感じなんですよ。気持ちの揺れと、声や動きなんかが相対的に結びつく瞬間を具体的に示してくれるんです。

藤真:確かに監督の指示があった部分は確実に良くなっているのが私自身、よく分かる。

渡辺:だからこそ信頼がおけるんだよね。

中村:たとえばオープニング。お姉ちゃんと会って息が詰まりそうになるシーンがあって、その閉塞感を突破するために突発的に窓を開けに行くという動きがあるんです。居心地が悪くて小走りに行く感じってすごくよく分かるんですよ。そういう心と身体が結び付く瞬間を、電光石火の小林演出で導いて下さるんです。その感覚ってやっぱり(小林監督が)ミュージシャンだからなんですよね。音楽のリズムのように気持ちがのってくるという。

藤真:それ分かります! たとえば声なんかもワントーン高くとか言われました。

−−3姉妹のやりとりの陰には、ミュージシャンならではの小林演出があったわけですね。では最後に、この映画をこれから観る人にメッセージを。

藤真:人と人とのつながりを改めて感じる人が多い今だからこそ見てほしい作品です。一緒に頑張って生きていこうよといったそんな美しいものではないですが、結局、人は生きていかなきゃいけないし、明日はまた来るし、生きていくぞという力が湧いてくると思うんです。

中村:震災があって、土地に対する思いを改めて感じることになったと思いますが、この映画は家族の物語であり、土地と人間との関係を描いています。故郷という一定期間過ごした土地というものは、頭で考える以上に人の心の中にあると思うので、それを五感で感じていただけたらと。それこそ、突発的な、生きることへの渇望といったそういうエネルギーの塊を体感していただける映画だと思います。

渡辺:311以降、やはり明日へ向かいたいと思っている、とても不格好な家族ではありますが。この映画が、それでも生きていくといったような、何かの活力につながるものになればいいなと思います。

執筆者

壬生智裕

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