ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ショートフィルムショーケース部門の中でも、パニック特撮人形活劇で一際異彩を放っていたのが飯塚貴士監督の『ENCOUNTERS』だ。

2008年の大学卒業と同時に人形の映画制作を始めたという飯塚監督。
好きな映画は、日本と海外のミニチュアを使った『サンダーバード』『ウルトラマン』『ゴジラ』といった特撮ものやアメリカのB級アクション映画とのこと。
『ENCOUNTERS』はまさに2つの要素に飯塚監督のセンスがうまく融合されたような作品だ。怪しい無国籍風な人形が繰り広げるゆるーいアクション。素朴な人形に酷い展開が絶妙な台詞の数々。ミニチュアの造りこみから画面のこだわりまで、観れば観るほど制作の楽しさに満ち溢れ、“映画制作とはこういうもの”といった概念を一蹴するような快作となっている。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭では、
「どこでどんな風に作っているの?」
「なんで1人でこんなことやろうと思ったの?」
「どうしてあえてむやみに時間がかかるやり方をするの?」
といった質問が多かったとのこと。
一度観れば誰もが質問攻めにしたくなる飯塚監督にインタビュー敢行!










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■根気強い飯塚監督の飽きっぽい性格
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——卒業と同時に映画制作を始めたそうですが、大学では映像の勉強などされていたんですか。

飯塚:ビジュアルデザインの勉強をしてたんですけど挫折して、2年生の時にはデザインを辞めようと思っていました。

——ずいぶん早く見切りをつけたんですね。

飯塚:飽きっぽくて集中力が続かなかったんです。あと、授業でクライアントを想定してデザインをするものがあったんですが、コミュニケーションが上手く取れなくて、相手が望んでいるものを上手く出せないというのもありました。

——根気強さの塊のような作品を作られているので飽きっぽいというのが不思議ですね。

飯塚:2年間の間に好きで打ち込めるものを探そうと、色々洗っていったんですね。1人っ子だったので、子供の頃ウルトラマンと怪獣を戦わせたり茶筒を怪獣に見立てたり、話を勝手に作って遊んで興奮したことに思い至って。そんな怪獣人形遊びの興奮をそのまま何かにできないかなと。最初は絵でやりたくて漫画を描いたりしていたんですが、根気がないので最後までできずで(笑) 映画なら続けられそうとなって、卒業と同時に制作に入って今に至ります。

——卒業して映画制作を始めたのは何故ですか?大学在学中の方が時間はありそうですが。

飯塚:自分の大学に映像の学科や教官がいなかったことが1つ。セットや機材に初期投資が必要だったのでバイトして資金を貯めようと思って。卒業までに準備をしたかったんです。

——地元の茨城でスタジオを作ったと聞きました。

飯塚:バイトは、大学でデザインの授業の手伝いと工事現場で1、2年の間に200万円くらい貯めて。中古のプレハブ小屋、カメラ、三脚など揃えました。
父が建築関係の仕事をしているので、プレハブ小屋の組み立てをはじめ色々と手伝ってもらいました。「デザイナーにはなれないかもしれない」って、最初に伝えたのが1年生の終わりぐらい。「打ち込めるものが見つかったら就職しないでやろうと思っている」というのを3年間かけて伝えていきました。父は最初戸惑ってましたが段々分かってくれて、スタジオのスタート時には「自分の人生なんだから野たれ死ぬのも勝手だし、好きにやんな」って言ってくれたのが有難かったですね。

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■プレハブスタジオ始動から1人体制になるまで
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——根気がないといいながら、お父さんを3年かけて説得したり、スタジオ開設のためにバイトして資金を貯めたり、驚くくらい根気強いですね(笑)

飯塚:最初は小学校時代からの遊び友達と投資も折半して、2人で“ワッヘンフィルムスタジオ”をスタートしたんですが、大学を卒業したら何の保障も肩書きもない。よく分からないことをプレハブ小屋でやっている人になったとき、不安になったみたいで「オレ無理だわ」って。就職先を探すために離れて行ったので必然的に1人でやることになりました。

——2人のときは脚本や作品の形は見えていましたか。

飯塚:『ブルーインパルス』のストーリーは主に2人でやっていました。話を彼が作って、僕が補佐してって感じで。抜けられた時は取りあえず『ブルーインパルス』は完成できるかも知れないがこの先自分で話を作れるのかなって不安になりました。

——人形の動かし方で、今主流のCGでやっちゃおうとか滑らかに動かそうというのとは対極のやり方に至ったのは何故ですか。

飯塚:CGはCGでかっこいいんですけど、本物が爆発しているとほこりぽいし、「ああいうのいいよね」って話をしていて。今は特撮、ミニチュアがメインストリームではないので、「今やったら素敵だよね」って言ってたんです。

——1人になってどれくらいで完成しましたか。

飯塚:それからひどく落ち込んで続けるか続けないかって期間が2、3ヶ月あって、やるって決めてから半年くらい。2009年の2、3月に完成したから8、9ヶ月ですね。20分の作品になりました。

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■あっと驚く1人撮影技法から映画祭へ
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——さて誰もが一番気になってると思いますが、どうやって人形を動かしているのか教えてください。

飯塚:『ブルーインパルス』では人形は買ってきたあやしいおもちゃをそのまま使っています。カメラを回して紐でつったり、手で動かしたり人形遊びと一緒(笑)。セットはカット割りやシーンのつなぎを考えて合わせてセットを作るといった感じです。

——声も全部自分でしようと思ったのは何故ですか?

飯塚:抜けた彼が言った「1人になっても完成させてくれよな!」って話があって。声を出すのは得意じゃないし恥ずかしかったんですけど、ここまで1人でやったんだから声もやってしまおう!という後ろ向きな気持ちでやり始めました。

——1人で撮り始めて一番大変だったのはどんなことですか。

飯塚:技術的には手が2本しかないってことで(笑)。全部カメラをFIXしたまま撮るばかりでは嫌だからカメラを動かす一方で、人形を1体動かす。2体以上のときは肘の関節と二の腕とその先で距離が詰まるようにして動かします。試行錯誤で見つけていったので、制作に時間がかかっているのはそのせいです。

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■『ENCOUNTERS』制作開始
・無国籍手作り人形の味・1人モブシーンの技!
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『ブルーインパルス』はふかや・インディーズ・フィルム・フェスティバル2009、小阪本町一丁目映画祭vol.9、ドリームボックス フィルムフェスティバル2010で上映。
同時に『ブルーインパルス』で見えた課題を元に2作目『ENCOUNTERS』の制作に入った飯塚監督。手探りのストーリー作りに遅い歩みの日々が続いたという。

——1番の課題、脚本は他の人にアドバイスをもらったりしましたか。

飯塚:高校の同級生で美術をやっていた友達が、僕が1人でしょげているのを見かねて手伝いを申し出てくれました。その人に逐一相談はしていて、価値観も趣味も違っているんですが、僕とは違った視点で観てもらえるのがいいですね。
平行してバイトもやりながら4、5ヶ月かかって脚本ができました。無国籍の雰囲気を出したかったので、日本の山村に外国人の様な主人公たちが失恋旅行でやってくるといった展開にしました。一通り話を作ったあと、細かいところでいくつか選択肢を用意してバランスを調整して道筋を作って行きました。犬を犬にするか、おじさんにするかとか(笑)

——人形はやはり買ってきたものですか。前回は眉毛を描いてりキャラ分けの工夫はされてましたね。

飯塚:今回は全部自分で作りました。人形自体は頑丈に出来ているアクションフィギュアの素体で、その上に自分で作った布の服を着せて。顔は樹脂粘土。オーブンで焼くと固まるものです。

——モブ(群集)シーンがありましたが、撮影で一番苦労したのはどんな点ですか?

飯塚:『ブルーインパルス』のアップグレードをやりたかったので、登場人物の多さや動きをコントロールするのが大変でした。新たな器具も開発しましたよ!(笑)
棒状の定規みたいなものをプラスティックの板で作って、動かすと登場の順番に合わせて順繰りに人形が出てくるものです。
撮影は半年。前回より少し早くなりましたね(笑)

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■映画祭連続ノミネート
・絶妙脚本は創始当時の相方とのやり取りから
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『ブルーインパルス』より反響があったという『ENCOUNTERS』。
第15回水戸短編映像祭、ショートピース!仙台短篇映画祭2011、福岡インディペンデント映画祭2011、ふかや・インディーズ・フィルム・フェスティバル2011、小阪本町一丁目映画祭vol.10、したまちコメディ大賞2011、シネ・ドライヴ2012で上映された。

——『ENCOUNTERS』は脚本が絶妙のコメディセンスが光ってますが、これはどう培われたものですか。

飯塚:抜けてしまった友達とのやり取りがベースになっています。学生時代、土日が大学休みなので、金曜の晩になると地元に帰ってきて合流して。レイトショーを観て朝までしゃべってという遊び方をずっとしてたんですね。深夜のトークになると、つまんない変な言い廻しや古臭い言い廻しでずっとしゃべってみたり。そんな彼との会話や楽しかったことが下地になっています。

——彼は『ENCOUNTERS』をご覧になりましたか。

飯塚:まだなんです。その友達とは今も仲良く友達づきあいしてますが、映画に関しては不可侵領域でお互い触れないようにしていて。抜けなきゃ良かったとか抜けてよかったとか思うところが色々出てくるのが心配でまだ。いつかはそんな話もして、観てもらいたいと思っています。

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■ワッヘンフィルムスタジオの今後
・下手でも愛される下手さを目指して
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——商業ルートに乗せるようなことは考えていますか。

飯塚:制作で精一杯で、そこまで頭が廻ってなくて、映画祭に行くと「ちゃんとしないとダメだよ」ってアドバイスはいただくんですが。その辺はこれからの課題ですね。

——今は新作に入っていますか。

飯塚:はい、入ってます!日本の田舎を舞台にした忍者もの(笑)。人形はやはり外国人風で、現代の忍者にしています。今は人形が出来上がって最初のシーンを撮り始めた段階です。

——それは楽しみ過ぎます(笑)!更にスケールアップした内容ですか。

飯塚:2作作って思ったのは、ただエスカレートさせればいいというものではないってことです。エスカレートのさせ方、盛り上げ方、要素の増やし方は『ENCOUNTERS』くらいで限界で、あれ以上増やすと観る人が混乱するなぁと。もう少し原点に立ち返ってシンプルな話にしようと思っています。
技術的にもまだまだ問題点があります。カットのつなぎが緩慢とか。素敵な編集されているプロの方より時間の感覚が遅いみたいです。ダラダラするのが好きなのもので。
ポイントは押さえて、ダラダラさせるところはして、緩急つけてより楽しんでもらえるようにしたいですね。

——カメラにこだわりはありますか。使っているのはどんな機種でしょう。

飯塚:『ブルーインパルス』は普通のハンディカムだったんですけど、『ENCOUNTERS』で使ったのはSONYのHVR-Z5Jです。買ったときは40万くらいでした。
ミニDVのテープを使う機種で、今普及しているはデジタル一眼はフォトリアルな感じですが、それとはちょっと違っていてザラッとした画質なんです。ザラザラしたノイズが結構好きで(笑)。セミプロ用の機種で細かく設定ができるので、感度を上げてわざとノイズを出して撮っています。

——画面作りで一番のこだわりどころは何ですか。

飯塚:人形もちょっと不出来なところを残したいですね。素朴さを失わないで、下手でも愛される下手さになるよういいバランスで。
背景や色味もそうなんですけど、ただ駄目な部分は改善して、いい駄目な部分はそのまま残していけたらいいなと思っています。

★この春、色々な映画祭に出没中の『ENCOUNTERS』!
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執筆者

デューイ松田

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公式サイト★ワッヘンフィルムスタジオ
3月27日 (火)、3月28日(水)『cinema hunting ! vol.1』(福岡)
3月31日(土)『シネ・ドライヴ2012』(大阪)
4月4日(水)、4月25日(水)『Indies Short Film スイッパチ』(東京)
5月2日(水)〜5月6日(日) 『ニッポン・コネクション』(ドイツ)