江戸川乱歩の少年向け探偵小説『少年探偵団』シリーズに登場する大怪盗「怪人二十面相」。狙ったものは必ず手に入れ、素顔は誰も見たことがないという。本作は、”第二次世界大戦”が起こらなかった”架空の都市を舞台に、「怪人二十面相」に間違われた一人の男と華族の令嬢との恋、名探偵・明智小五郎、小林少年らと二十面相との対決のシーンなどを描いた一大スペクタクル映画だ。

 物語の舞台は、1949年_架空都市《帝都》。19世紀から続く華族制度により、極端な格差社会が生まれ、帝都の富の9割は、ごく一部の特権階級に集中していた。そんな中、富裕層のみをターゲットとし、次々と武術品や骨董品を魔法のような手口で盗んでしまう《怪人二十面相》の出現が世間を騒がせていた。人は彼をK-20と呼ぶ_。

 キャストは主人公のサーカス団員・平吉を金城武、ヒロインの令嬢・葉子を松たか子、そして明智小五郎を中村トオルが演じる、豪華な顔ぶれ。

 そして、監督を務めたのが、ドラマ「アンフェア」や、「鬼武者」、「バイオハザード」といった人気ゲームのオープニングやイベントムービーの監督も担当し支持を集めている佐藤嗣麻子監督である。

斬新な世界観で描いた映画『K-20 怪人二十面相・伝』の監督と脚本を担当した映画監督・佐藤嗣麻子さんにお話を伺った。

 
 
 






——佐藤監督は、本作で脚本を手がけております。主人公の話し方など、従来のヒーローとは違うユーモアあふれるセリフが多いかと思いますが、脚本作業はいかがでしたか?

「脚本作業はとても大変でした。一年位、脚本作業は続いていて、最初に作った脚本なんかはほとんど破棄してしまった。準備が間に合わないっていうギリギリの所で作りました。」

——主人公のキャラクターとして、鳩を愛する青年、という設定は魅力的ですね。鳩に聴診器をあてるシーンなどは笑いを誘いますが、このような鳩を使ったユニークなシーンはどのように生まれたのでしょうか?

「あのシーンは本当は平吉が白衣を着て聴診器を持っているだけだったんです。だけど、いきなり金城君が「ちょっとハトない?」って言って自分でアドリブをしたシーンなんです。」

——主人公である平吉は二十面相に間違われて警務局から暴力を振るわれたり、サーカスを焼かれてしまったり、とても不幸な状況です。しかし、どこか前向きで、映画をみている私たちも”平吉なら大丈夫だ”という安心感を感じます。平吉のこのポジティブにモノを考える姿勢は監督の意図があったのでしょうか?

「やはり世界は自分の思考の反映であると思います。人からのリアクションをどうとらえるのか…自分で解釈することが大切。だから、なるべくいい方向に物事を解釈した方がその人は幸せになれると思います。もし、イジメられていたとしても、イジメとして受け止めないで、別の考え方をすればその人は幸せじゃないですか。それをイジメと思って受け止めてしまうから不幸になる。平吉はどんな不幸が起きても、それを不幸と受け取らない性格で、今っぽくていいかなと。」

——つまり、平吉は佐藤監督にとって理想とするキャラクター像ですか?

「そうですね。平吉みたいに生きていけたら幸せだろうなって思います。」

——全編にいたって画面全体がセピア色のような独特の質感の映像となっています。どのような工夫がありましたか?

「あまりにそのまま撮ってしまうと、生々しく現代っぽくなってしまう。だから、なじませる感じで、少し昔っぽくしています。今回、Blue-rayで映画をご覧になると、一番製作側が目指していた色に近くなると思います。」 

——パート2を期待しているファンも多いかと思いますが、続編を作るとしたら、どのような内容にしてみたいですか?

「続編を作るとしたら、サスペンスが強いというか、謎解きが多いものにしたいですね。平吉と源治2人のバディー感を強めて、例えば「ミッション:インポッシブル」のような、エンターテインメント性の高い映画を作りたいです。」

——この作品をDVDやBlue-rayでこれから見られる方に、伝えたい事、感じてほしい事は何でしょう?

「やはり隠しテーマとしては悪い事に対して、許さない!っていうだけじゃなくて、平吉のような、相手を許してまた受け入れる姿勢を感じてもらいたい、ということがあります。今はやられたらやり返すのが当たり前の世の中です。しかし、それだけではいつまでたっても不幸は終わらない。もうちょっと前向きに生きていくうえで参考になる映画になるといいなと思います。そういう所を見てほしいですね。」

——佐藤監督にとって、映画というエンターテインメントはどのような存在ですか?

「やはり、映画は娯楽であると思うので、気楽に見れる一つの気分転換であるとは思います。日常に苦しいことはあるけれど、映画の中では楽しいことをしたいなって思います。」

——佐藤監督の座右の銘を教えてください。

「座右の銘…”漁夫の利”とか、”棚から牡丹餅”でしょうか(笑)

——佐藤監督は映画製作の勉強をするためにロンドン・インターナショナル・フィルム・スクールへ留学しておられます。お一人で海外へ行かれた時の意気込みはどのようなものだったのでしょうか?

「私は”漁夫の利”も好きだけど、”一石二鳥”という言葉も好きで(笑)海外へ行って、映画の勉強と英語の勉強、両方を時間を短縮して勉強したかった。一個ずつやっていたら何年たっても終わらないと思って。監督の勉強だけではなく、映画製作全体の技術的な面を教えてくれる所だったので、カメラや録音の人が何をやっているのか、という事を自分で体験し、操作は全てできるようになりました。」

——佐藤監督の映画を作る原動力は何でしょうか?

「やっぱりモノを作るのが好きっていう気持ちですね。毎日楽しい、好き、という気持ちが映画作りの原動力です。」
 
 

執筆者

椎名優衣

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