原作は文庫本20万部を早々に突破した人気作家・奥田英朗の同名ベストセラー。そして脚本は『下妻物語』『嫌われ松子の一生』『パコと魔法の絵本』で大ヒットを飛ばした鬼才・中島哲也。
このゴールデン・コンビが生み出した『ララピポ』を監督したのは、中島哲也が太鼓判を押す期待の新人・宮野雅之監督。

これまで様々な監督の現場につき、着々とキャリアを築いてきた宮野監督の長編第一作目となった映画『ララピポ』は、社会の底辺で蠢いている6人の男女がそこから抜け出そうと、必死に這いつくばって生きていく姿を、全編アッパーでキラキラした70年代のディスコ調音楽に乗せて、明るく楽しくポジティブに描いた作品だ。

本作で<野心家の風俗専門スカウトマン>役をノリノリで演じた成宮寛貴をはじめ、<デブ専AV女優のアニメ声優>という難役に挑戦した森三中の村上知子、<ゴミ屋敷の主婦にして淫乱熟女>という汚れ役には濱田マリなど、一癖も二癖もある強烈なキャラクターたちに実力派俳優たちが挑み、確かなリアリティを与えている。

宮野監督にはそんな個性溢れるキャストの方々について、師匠とも言うべき存在・中島哲也とコラボレーションしてみての感想、そして映画『ララピポ』の世界観について語っていただいた。



本作は豪華なキャストが魅力の一つだと思いますが、キャスティングはどのように行なったのでしょうか。特に、「風俗専門のスカウトマン」を演じた主演・成宮寛貴さんがハマリ役でしたが。

脚本を読みながらいろいろな人を候補で挙げていたんですけど、“難しいなぁ”と正直思いました。でも、成宮さんにオファーしたら「やりたい」と即決してくださったので、「やってもらうしかない!」とお願いしました。他のキャストの方々も引き受けてくださってよかったです。

なぜ難しいだろうと考えたのでしょう?

単純にこれお下品な話じゃないですか(苦笑)。結果としておもしろ可笑しい映画にすることはできたけど、台本上ではSEXシーンなど激しい描写のシーンも多々あるので、それを引き受けてくれるキャストの方というのはなかなかいないかもしれない……と思って。でも、実際このオファーを受けてくださるキャストの方々がいることには驚きましたね。すごいなぁって(笑)。

その中でも「デブ専AV女優のアニメ声優」を演じた森三中・村上さんは、オファーを引き受けるまでにかなり悩んだと伺いましたが……。

村上さんは最初から候補に上がっていたんです。でもオファーしたとき「やってみたい」とは言ってくれたけど、なかなかいい返事がもらえなくて。“エッチできわどいシーンに躊躇いがあるんだろうな”と僕は思っていたんですけど、実際に会ってお話したら“男性経験がないからよくわからない”ということだったんです。それをとても心配されていたんですけど、「それは大丈夫ですよ!」って説得して(笑)。1〜2ヶ月ずっと悩まれてようやくOKの返事をくださったんですけど、ご本人は現場に入る直前まで悩まれていたそうです。

「大丈夫だよ」といった反面、やはり不安もあったのではないでしょうか?

この映画をどういう方向性に持っていくかといった問題でした。エロの部分はリアリティを持ってやるのか、それとももっと別な描き方があるのか……とかね。普通に淡々と人を追っていくのがリアリティだと思うんですけど、こういうはちゃめちゃな物語でもリアリティを感じる人はいると思うんですよね。だからリアリティだけを求めてやたら生々しく見せるのではなく、とにかく楽しんでもらうため、村上さんには「SEXシーンですけどギャグですから!相撲ですから!」とお話させていただきました(笑)。

他にも濱田マリさんや中村ゆりさんが、今まで演じたことのないAV女優、しかも親子で・・・というめずらしい役柄に挑戦されましたが、監督は演技指導などされましたか?

何しろ僕は長編映画の監督をするのは初めてだったので、最初に彼女たちとお会いしたときにあらかじめ「こうしてほしいんだ」と伝えておいたんです。そうしたら後はおまかせというか、僕はほとんどノータッチでしっかりキャラクターを作り上げてきてくれましたね。

お二人が作ってきたAV女優像は監督のイメージしたものと一致していましたか?

僕はAV女優像というのがどういったものなのかよくわかってないんですよ(苦笑)。だからそれは二人と話し合いながらできていけば問題ないかなと思っていました。実際のAV女優ってそこまでAV女優、AV女優しているわけじゃなく、例えば「え、そういう仕事しているの?」というような人が多いと思うんですよね。だからイメージどうこうと言うのはあまり意識していませんでした。

先ほど監督自身もおっしゃっていたが、本作が監督長編第一作目ということで、それまではずっと中島哲也監督の助監督などをされていたそうですが、今回脚本を担当された中島さんとのコラボレーションはいかがでしたか?

助監督時代、中島さんから教わることはとても多かったんです。当たり前のことですけど、“映画は観ている人のためにある”とか、“ではその人たちに向けてどのように作るか・・・それが一番大切なんだ”とか。たぶんこの作品だって自分で脚本を書いていたらそれこそ生々しく暗い話になっていたと思いますけど、中島さんの脚本には僕自身にはない奇抜さだとか、そういう要素がすごく含まれていました。だからこの映画は空振りになったとしても振り切って撮った方が映画にも、そして観ている観客にとってもいいのではないかと思っていましたね。

中島さんが脚本を書く上で何か話し合いはされましたか?

そうですね、希望だけは伝えました。でも話し合いをしたのは2、3回です。

どのような希望を伝えたのですか?
「救いのある映画にしてください!」と伝えました(笑)。

「宮野のためなら書くよ」と言ってくれた中島さんに対して、多少なりともプレッシャーを感じたんじゃないですか?

まぁ、ないということはないですけど、監督としては新人なので現実を目の前に作業をこなすので精一杯でしたね。立ち止まって自分の状況を考えるほどの余裕はありませんでしたね。

では、撮り終えた今、振り返って客観的に見るとどうですか?

とてもよく振り切れていてよかったと思います(笑)。今まで観たことのない作品を作れればいいなと思っていたので。これまでの日本映画と比べて、“これに似ているね”とか“これに近いんじゃない?”ということがない、いい意味でとても変な映画に仕上がったことはよかったです。

確かにとても重い題材なのに、何も考えずに見られるような楽しい映画でした。

基本的に観終わった後に何か感じてくれたらいいと思っているんです。だから映画を観ている最中はただ楽しんでほしいですね。

脚本の中島哲也さんは本作をもう観られましたか?

ええ、観たと聞きました。感想自体はまだ聞いてないんですけど、もうどんな反応でもできあがってしまったので、仕方がないというか(苦笑)。でも、原作者も含めて皆さん「とてもよかった」と言ってくれているので、うれしい限りです。

重くダークな題材を、このように全体的に明るく希望のある描き方にするためにした工夫とは?

中島さんには「暗い話を暗く描いてどうするんだ」と言われていて、原作自体ダークはダークなんですけど、書き方としてはポップに描かれていましたし、そこのラインは外さず、つらく暗い部分をいかにおもしろおかしくするかといった感じでした。人生で失敗しても後から思えばくだらなくて可笑しかったりするので、そういった部分を描いたんです。とにかく暗い部分は持ち込まないようにしました。だって重く暗い気分で劇場を出るの嫌じゃないですか。だからいくら重くて救い様のない人たちの物語だとしても、そこに一縷の希望がある映画にしたかったんです。

劇中で男性器はパペットで表現されていますが、そのアイデアはどこからきたのでしょうか?

最初は男性器をCGで作ろうか、もしくはアニメで作ろうかと迷ったんですけど、「それじゃあ観たことあるな」と思ってしまって。そこで、もっとくだらなくてかわいいのがあればいいんじゃないかと思ってパペットにしてみました(笑)。成功しているかどうかはわからないけど、人間の手なので温もりがあっていいかなと思いました。

本作には所々で70年代のディスコ調音楽が使われていますね。そこには宮野監督のどのようなこだわりがあったのでしょうか?

以前、僕は短編を監督したことがあって、そのときに何か一曲テーマみたいなものを決めたら楽だったので、今回もどんなテーマ曲がいいかずっと考えていたとき、ちょうどラジオからディスコソングが流れてきたんです。それを聴いたとき「これだ!」と思いましたね。すぐにCDショップに行って「ディスコ100選」みたいなものを借りてずっと聴いていました。音楽ってやっぱり映画には必要不可欠なものなので、そのテンポやにおいのようなものを感じながら繰り返し聞き、映画のシーンを考えていました。でも、僕は全くディスコ音楽詳しくないんですよ。本当に何も知らない(笑)。ディスコソングって暑苦しくてくだらなくて〜みたいな印象で(笑)。でもそれが逆にいいなって思ったんです。

シーンに渋谷や原宿が多く登場しますが、あの人ごみはゲリラ撮影ですか?

いや、一応ちゃんと許可とって撮影しました。ゲリラで行こうという話も最初は出たんですけど、今まで助監督をやってきたなごりで、どうしても生々しく考えてしまうんですよね。そこでもリアリティを追求してしまうと言うか……。でも“そういうのは捨てよう!”と。例えば、原宿を切り取っても渋谷切り取っても同じじゃないですか。どこか別の場所を切り取ってそれを渋谷だと言っても渋谷になる。だからその分エキストラも多かったし、キャストも落ち着いてできるところでやろうとなったんです。まぁ、許可とってやるにしてもギャラリーもたくさんいたので半分ゲリラみたいなものでしたね。渋谷とかは特にそうです。

中島哲也さんのほかにも、これまで宮野監督は様々なタイプの監督たちとお仕事されてきましたが、そこから学んだことで一番今のご自身の基盤となっていることとは?

やはり一つではないと思います。監督ごとに作品つくりに対しての姿勢や方法は多種多様なので、それぞれの監督のよい部分を見て複合的に勉強した感じです。

宮野監督は助監督になる前は映画の専門学校に行かれていたそうですが、長編映画を撮り終えて、やはり実践で教わったことの方が大きかったですか?

そうですね。作業的には社会に出てきて学んだことの方が大きいと思うけど、クリエーティブさで言えば学校で学んだことも大きく活かされているかなぁと思います。例えば、“地底人が地上に現れる”とか、何も束縛がなかったので奇想天外なことをいくらでも考えることができたんですよね。いきなり社会に出るより、そういった経験があってよかったなと思いますよ。発想力と、社会に出てどう見せるか、といったことを3年も学生やって学べたのでいい経験になりました。でも、本当は監督志望じゃなかったんですよ、僕。ずっとカメラマンになろうと思って映画学校に行っていたんですけど、自主映画を学生って撮るじゃないですか。そのときにカメラを担いでいると監督がいちいちうるさく言ってくるんですよね。それで”自由にできないんだったら監督のほうがいいや”と思い、監督業へチェンジしたわけです(笑)。

撮影中に一番苦労した点、またはこだわった点はどこでしょう?

皆さんの笑顔です。わがままを言って何度もキャストの方にはやっていただきました。映画の最後に全てを帳消しにするくらいの笑顔がどうしてもほしくて、何度も何度もいろいろなバーションで撮らせていただきました。スタッフ、キャストには呆れられましたけど(苦笑)。

本作は撮影、音楽、編集を全て中島組が担当されたそうですが、慣れ親しんだスタッフとの現場はいかがでしたか?

やりやすかったですね。やっぱり監督(自分)をわかってもらえているということが一番重要だと思います。“この人はこれが好きなんじゃないだろうか?”とか、“こう思うだろう”とか、“こういう考え方を持っているんだ”とか、そういったことをあらかじめ知ってもらえているというのはとても安心でき、気が楽でした。

では、もし本作が中島組でなかったら『ララピポ』はどのような作品になっていたと思いますか?

当然キャストも代われば違うだろうし、スタッフも変われば同じように違ってくるだろうし、監督が僕じゃなくても違っていただろうし……全然違う作品になったと思いますよ。この映画が最終的にこのような形でできあがったのは、スタッフやキャストがこのメンバーだったからだとすごく思いますね。

公開が迫っていますが、もうすでに「絶対観る!」と決めている方、そして「まだこの映画を知らない」という人へ向けてメッセージをお願いします。

今まで観たことのない楽しい映画に仕上がっていますので、ぜひ観ていただければと思います!

執筆者

Naomi Kanno

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