“僕の中のサブストーリーでは、竹田の親父は菅原文太なんですよ”『ポチの告白』主演、菅田俊インタビュー
昨今多発する日本の警察犯罪事件の数々の実例をモデルに、良識ある巡査が警察の犯罪機構に巻き込まれながら悪徳に染まり、やがて自滅するまでを描いた社会派エンターテインメント大作。警察問題ジャーナリストとして海外でも著名な寺澤有の資料と原案協力を得て、実際に起きた警察犯罪事件に正面から切り込むストーリーは、警察犯罪を報道できない日本の記者クラブ制度の問題をも照射しながら、映画本来の娯楽性を損なうことなく、同時に日本の警察、検察、裁判所、報道の癒着による国家ぐるみの犯罪が現実に存在するという警察支配社会の恐怖を描き、ラスト6分では観客の誰もが震撼する衝撃を与える。
脚本・監督・編集・製作を兼務する高橋玄は、80年代インディーズ映画シーン出身。1992年にカルト的人気を博した『心臓抜き』で劇場監督デビュー。数々の映画、Vシネマを手掛けた後、2004年『CHARON』で国際映画市場デビューを果たし、同作は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ファンタランド大賞(作品賞)受賞、マンハイム・ハイデルベルグ国際映画祭インターナショナル・コンペティション招待、同じくコンペティション招待のドーヴィル・アジア国際映画祭では異例の追加上映が組まれるなど大きな話題を集め、国際的な映画作家として各国映画祭で高く評価されている。
主演に『キル・ビル』『ラストサムライ』『SAKURA』などで、ハリウッドにも進出する実力派俳優・菅田俊。野村宏伸、井上晴美、川本淳市など、個性的で確実な演技を誇る俳優陣が映画のリアリティを裏打ちし、オーディションを経て決定した出演者は台詞のある役だけで延べ140名を越えるという見ごたえ十分のドラマとなっている。
今回はこの野心的な映画に主演した菅田俊さんにインタビューを敢行した。
———この映画に関わった経緯は?
『ラストサムライ』の後に、香港で映画を撮るはずだったんですが、サーズ(SARS)の問題があって、時間が空いてしまったんですよ。その時にこの映画のお話をいただいたんです。
それが『友へ〜チング』(01年 クァク・キョンテク監督/チャン・ドンゴン出演)のラストの雨の中の殺戮シーンから始まるような台本でね。僕もアクションが好きですから、かっこいいなと思いました。それと『愛より早く撃て』(95年 トニー・オウ監督/レオン・カーフェイ主演)という香港映画のようでね。これは本当に好きな映画なんですけど、おまわりさんが賄賂をとりながら、女の人をスパイにして、闇の組織に送り込んでいくという話なんです。そういったイメージが膨らみましたね。
台本をいただくと、ついつい自分なりに頭の中でストーリーを組み立てていくもんですから、本当にそういう台本だったかどうかは定かではないんですが(笑)。でも面白い台本だなと思って、それでやらせていただいたわけです。
———悪徳警官が出てくる映画は『県警対組織暴力』(75年 深作欣二監督/菅原文太主演)など名作が多いわけですが、またひとつすごい作品が出来ましたね。
今おっしゃった『県警対組織暴力』でも、視点をずらして描いているわけですけども、『ポチの告白』の場合、もっと中に入り込んで描いていますからね。ものすごいリアリティを持っていますよね。
———警察役ということでリサーチはされたんですか?
特にリサーチなどはしてないんですが、若い時にはずいぶんお世話になりましたからね(笑)。ただそれは昭和のおまわりさんで、平成のおまわりさんはどうかは分からないですけど。絶対権力の中で、彼らはサラリーマン化してますからね。
日常生活において人間がまったく罪を犯してないなんてありえないですから、そこを突っついてきて別件逮捕で中に入れればどうとでもなりますよね。そういう意味では叶わないですよね。
———映画の中でもえげつないことをしてましたね。
それはもうしょうがないですよね。自衛隊もそうでしょうけど、警察官自身もサラリーマンみたいなものですから。上に押さえつけられながらやっていかなければいけないということですよね。そういう意味では、警察官の方に共感していただけたらいいんですが(笑)。
———最初は朴訥(ぼくとつ)としていた男が、5年で見事に悪徳警官として変貌していったわけですが、その変わりざまが怖かったですね。
最初はじんわりと変えていけたらと思っていたんですけどね。撮影の期間があまりなかったものですから、その中で変わっていくというのがちょっとあざとくなってしまったかもしれないですが。自分の中ではそういう変遷を作り上げていけたらと思っていたんですが。
———ただ5年後にガラッと変わってしまったからこそ、組織に染まってしまった怖さみたいなものがものすごく良く出ていたと思います。ところで台本は読みこむタイプですか? それともどうせ現場で変わるんだからとサラッと流すタイプですか?
僕の中では両方あるんですよ。例えば(マルチェロ・)マストロヤンニ(1924-96 イタリアの名俳優)は一回台本を読んだら捨てちゃうというんですよ。それでフェリーニとの即興芝居の中で芝居が出来るというのが頭の中にインプットされてて。
もうひとつが三國連太郎さんで。三國さんにどうやって台本を読んだらいいですかと聞いたことがあるんですよ。そしたら「僕は500回は読みます」と言って。いやぁ、さすがに500回は読めないなと思ってるんですが(笑)。
———菅田さんが師事していた菅原文太さんはどうだったんですか?
菅原のオヤジも若いときは台本を読まないんですよ。パッと読んでそれだけ。鶴田(浩二)さんもそうでしたけど、(台本の)号外が出る時でも、号外をパッと読んで、点丸まで間違えないんですよね。で、それなのに市川崑監督とやったときは、台本を何回も読んでいるんですよ。菅原のオヤジが。最初は何でなんだろうなと不思議でしたね。
僕としては、初見で感じたことが一番インパクトがありますからね。先ほども言いましたけど、僕は台本を読むと勝手に自分の好きな方向でドラマを作り上げてしまうんですよ。読書感想文を書いた時もそうなんですけど、僕の場合、その本と全然関係ないことを書いてしまうんですよ。それで賞をもらったこともあります(笑)。だからそういうもんでいいのかなと。(『ポチの告白』監督の高橋)玄さんにこういうところが良かったですね、と言っても、いや書いてないよと言われたりして。
———この映画で菅田さんの作り出したドラマってどんなものだったんですか?
僕の中では、僕の演じる竹田には田舎に親父がいるんですね。竹田の親父は警察官なんです。彼は正義を貫いたために、漁村の片田舎の巡査で終わっているんですね。それが菅原文太なんです(笑)。
それで竹田は一回は挫折して、田舎に帰ったことがあるんですけども、父親から正義を説かれるんですね。するとなぜ親父が片田舎の巡査でいたのか、その答えが見えてくるんです。だから自分では正義を貫くか、というところで悩むんですね。それが後半に繋がっていくんだと思うんですね。僕の中のサブストーリーでは、漁村の家で木を見ながら、縁側で語る菅原の親父がいるというわけです。
———でも確かにそれがあると、堕落した後の竹田の行動にも納得できますね。ところで竹田の上司・三枝を演じた出光元さんが強烈でしたね。
いい役者さんですよね。校長先生と先生みたいな感じで、僕はテレビで共演する機会が何回かあったんですけど。出光さんは映画俳優でもありますからね。素晴らしい方ですね。
———嫌な感じがすごくすごく出てましたね。
ああいう感じを出すのって難しいんですよね。
———それでいて『仁義なき戦い』の金子信雄さん的なチャーミングさもありますね。
そういう面も盛り込んでましたね。リアリティがありますよね。カッコつけて演技をする俳優が多い中、ああいう芝居というのは、映画にとってとてもいいバランスになりますよね。
———野村(宏伸)さんのキャラクターと菅田さんのキャラクターの対比が良かったですね。
やっぱりカッコいいですからね(笑)。同質になるのが一番つまらないじゃないですか。野村さんが主役みたいなものですから。軸は野村さんにあるような気がしますもんね。
———野村宏伸さんの目線で見るとまた違って見えそうですね。
そうすればふたりのいびつ感というか、そういうのも出てくると思うんですよね。
———ふたりの軸があるからこそ、友情だったり裏切りだったりという軸が両側にふれるんでしょうね。ところで資料によると、キャストが140人くらいいたとか。
僕の後輩なんかも10数人くらいノーギャラで出てくれまして嬉しかったですね。川本(淳市)さんの地元で撮ってるんで、川本さんがいろいろと声をかけていましたね。
———千葉の柏ですよね。
そうですね。ですから本物の不良の方が(笑)。
———映画に出てくるものを食べるシーンがものすごく印象的でした。
(高橋)玄さんは食べるということに関しての欲望にこだわってましたね。最後の台詞もそうですからね。
———それに食べるところで密談がなされるんですよね。
お風呂で牛丼を食べるところもありましたけどね(笑)。
———あれは性欲と食欲が一緒になったいいシーンでした。
でも裸を見せるのは恥ずかしかったものですから、薬局に行って、泡の出る入浴剤を買ってきました。分からないように風呂の中にいれておいたんですよ。それで自分で風呂をいれますからといって。泡が出てくるんです。
———では最後に、これから映画をご覧になる方にメッセージをお願いします。
3時間以上ある映画ですし、映画館で、心地よくこの時間を共有してくださったら成功かなと思うんですが。説明的に描いた映画ではないので、この映画の流れにのってくださればと思うんですが。
———最初は3時間以上ということで身構えたんですが、一度観てしまうと、あっという間の3時間でした。それに何といっても菅田さんの主演映画ですからね。
ええ、数少ない(笑)。是非とも楽しんでいただきたいですね。
執筆者
壬生 智裕