まきの・えりの小説「ラブファイト 聖母少女」(講談社文庫・今秋発売)が原作の映画『ラブファイト』は、いじめられっ子の稔と、幼い頃から稔を守り続けてきた幼なじみの女の子・亜紀との不器用な恋をボクシングを通じて描いた青春ラブストーリー。

亜紀に助けられてばかりのヘタレ男子・稔に林遣都(『バッテリー』『ダイブ!!』)、成績優秀で容姿端麗、アイドル的な存在にも関わらず実はケンカが特技のパワフル少女・亜紀に北乃きい(『幸福な食卓』『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』)。
フレッシュな二人がW主演を果たした本作は、俳優の大沢たかおがプロデューサーに初挑戦したことでも話題となっている。

「現場ではあまり主演の二人とは会話を交わすことはなかったが、二人がこの映画の運命を決めたとも言える」と語るのは、『フライ、ダディ、フライ』や『ミッドナイトイーグル』など話題作の監督として活躍してきた成島出監督。
林と北乃のキャスティングについて、またプレイベートでも映画仲間だという大沢たかおのプロデューサー業進出についても話を伺った。







脚本を5年かけて127回も書き直したそうですね。これは稀なケースですか?

ケースバイケースですね。これは原作がすごく長かったので、どうしたら映画的によくなるか、何を絞り込むべきかというところで作業がいったりきたりしていました。そこが固まるまでにけっこう時間と回数がかかったんですよね。たぶん自分が関わった作品の中で一番書き直しが多かったです。

まきの・えりさんの原作を映画化するにあたって。
原作のクセは愛しつつも若い人にも楽しんでもらえるようにと、さわやかな青春ものという着地点はずっと探していました。あと、遣都ときいちゃんが主演に決まってから数ヶ月ボクシングのトレーニングをしてもらったんですけど、そこで感じた二人の性格を脚本家と相談しながら役柄に反映させていきました。

林くんも北乃さんもハマリ役でした。なぜ二人に決めたのでしょう?

最初にお会いしたときから “いいな”と感じていたんです。普通は台本を見てからイメージに合った人を選ぶんですけど、今回は二人の素材がすごくよかったんです。だからあとは二人にしか演じられない<稔>と<亜紀>になってもらうだけでした。通常はこれまで演じてこられた役を基準に判断したりするんですけど、今回は自分の直感を信じて二人の素材そのもので勝負しようと思ったんです。

撮影前、林くんと北乃さんとは何かお話をされましたか?

撮影前に話し合いを設けたりはしませんでしたね。ボクシングのトレーニングをしている二人を見ればどのような子か大体わかるんです。そういった面でボクシングってすごく人間性が出るんですよね。

キャスティングで一番重要視されていることは?

全体のキャスティングとしてはやっぱりバランスを考えますね。あとは組み合わせです。いい素材同士でも組み合わせが悪いということがあるんです。食い合わせみたいに。個々はおいしいけど、一緒にしてしまうとうーん・・・という。だからバランスには気をつけています。

ボクシングシーンはすべて吹き替えなしで役者さんたちが実際にされたということですが、基礎から一通りトレーニングされたんでしょうか?

チャンピオンになるのではなく、入門して数ヶ月という設定でしたが、もう少し本気でやったらプロテスト受かるだろう・・・くらいのレベルまでにはいきたいねと話していました(笑)。できることをヘタに見せることはできるけど、できないことは本当にできませんから少しハードルを高く設定していたんです。ボクシング指導をしてくれた田端信之さんのおかげでもありますけど、何と言っても二人ががんばってくれましたからね。

大沢たかおさんは今回出演もされているし、プロデュース業にも初挑戦されていますが、どのようないきさつで大沢さんがプロデュースすることになったのでしょうか?

大沢さんは最近主役が続いているけど、元々この原作を僕と脚本家の安倍照雄さんが知っていたので大沢さんに読んでもらったところ、「すごくシナリオがおもしろかったからぜひ協力したい」と言ってくれて。しかも、俳優だけでなく、この作品に関わる以上は広めたいということでプロデューサーに名乗り出てくれ、きちんと自分の足で歩いていろいろな人とコミュニケーションをとって予想以上のがんばりを見せてくれました。本当に感謝しています。

本作『ラブファイト』に関して、大沢さんとはどのような話し合いを?

もちろんいろいろな話はしましたけど、やっぱり大沢さんも僕も遣都ときいちゃんがどこまでがんばってくれるかが勝負点だと思っていたので、大沢さんは俳優兼プロデューサーということもあって黙ってお手本を見せている感じでした。二人が悩んだときには相談にのってあげていたので、二人も助けられていたようです。

大沢さんは<稔>と<亜紀>が通うボクシングジムのコーチということもあり、まるで二人を見守る親のようでしたね。

そうですね。僕は監督としてあまり二人を甘やかしてはいけないので(笑)、大沢さんやボクシング指導の田端さんが助けてあげていました。遣都ときいちゃんは内面が強いけど、ハードな撮影だったのでやっぱり折れそうになることもあったと思います。だからその辺をサポートしてくれる人たちがいたことでうまくバランスが取れていたんです。

監督が父親だとしたら大沢さんたちが母親のようで、何だか大きな家族みたいですね。

そうそう、本当にそうだった(笑)。僕が怒れば大沢さんたちが慰めてっていう感じで。

劇中で大沢さん演じる大木が放つ「ボクシングは会話だ」という言葉がとても印象的でした。監督は本作に関わってからボクシングのイメージは変わりましたか?

ボクシングはやったことはないけど、昔から見るのは好きでした。僕らの時代というのは最初の格闘技ブームがおこった時代だったんです。大場政夫や、劇中でもポスターが貼ってあるんですけどモハメド・アリとかね。「あしたのジョー」は僕がちょうど小学生のころにやっていて熱中しましたねぇ(笑)。ボクシング映画も好きでしたけど、ボクシング映画ってもう普遍的な名作と呼ばれているものも多く、チャンピオン云々で……という話はやり尽くされている感じだったんです。話は戻りますが、そこで僕はこの原作に出会ったことで入口の部分を描こうと思ったわけです。ボクシングを始めたばかりの少年少女、そして二人を巡る大人たちという。この切り口なら、ボクシング映画でありながら青春映画も撮れるかな?と思い、挑戦したいと考えるようになったんです。
ただ、最初はこの少年少女の役をやれる子なんていないだろう、と思っていましたよ。だからボクシングシーンは不服だけど吹替えでやることを考えていたんです。でも、遣都ときいちゃんの二人にこのタイミングで出会えたことが全てを決定づけた感じがしますね。この映画の運命は二人が決めたようなものなんです。

北乃さんは意外にも格闘技ファンらしいですね。

そうなんですよ、初めて会ったときに「私、ボクシング好きなんです!」って言っていましたから(笑)。

では、もうすぐ公開となりますが公開を待ち望んでいる方々にメッセージをお願いします。

この映画のテーマが「拳と拳の会話」。恥ずかしくて照れくさいけど、不器用ながら相手にぶつかっていく、それがやっぱりいいじゃん!ということをすごく描きたかった。だから観てくださった方々が劇場を後にするとき、少しでも元気になってくれていたらうれしいです。

執筆者

Naomi Kanno

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