1998年公開の今村昌平監督作品『カンゾー先生』のヒロインとして一躍脚光を浴びて以来ひたむきに映画女優として成長してきた麻生久美子。
これまでに数々の映画に出演し、日本映画界には欠かすことの出来ない女優の一人とされている。近年ではTVドラマ『時効警察』に出演し今までの大人しかったイメージから一転しコメディタッチの演技を披露。新たなる新境地を開拓したことでファン層を増やした。また2008年に、ヒロインとして出演する公開待機作品は6作品と精力的に活動している。

そして1月19日より公開されるイラン映画『ハーフェズ ペルシャの詩』は麻生久美子にとっては初の海外進出作品。

今までの女優人生をいったんリセットして新たな気持ちで望んだという本作。
1ヶ月におよんだイランでの撮影話を中心にお話を聞きました。




——麻生さんとジャリリ監督の出会いとお仕事をすることになったきっかけについておききします。
ジャリリ監督は、今村昌平監督の『カンゾー先生』をご覧になって、麻生さんの中にものすごいエネルギーを感じられ、出演オファーに至ったと伺いましたが。

最初にジャリリ監督作品への出演のお話をいただいたのは7〜8年前でした。実際に具体的な作品内容についてのオファーをいただいたのが3年前で、『ハーフェズ ペルシャの詩』は2年前に撮影を行いました。もう運命みたいな時間の流れなんです。
私は監督の人柄にまず惹かれました。誠実そうな印象を受け、人を惹きつけるオーラを持った方だと思いました。最初に会った時からジャリリ監督自身をすごく好きだな、って思ったんです。映画を観て監督の作品のファンになって、この方といつ仕事が出来るのかと、ずっと機会を待っていたんです。ですから、この作品が(海外初進出)1本目になったことは、とてもうれしいです。

——日本映画ともハリウッド映画とも違う独特のテンポの作品に仕上がっていましたが、映画の撮影中に今までとは違うと感じたエピソードなどがあれば教えてください。
今回の作品は美術からカメラ、照明にいたるまで全部監督がご自分でやられていました。現場の中で監督が一番忙しそうで、他のスタッフたちは昼寝している人たちもいて、自由で良い現場だなと感じながら私も寝ていました(笑)

——衣装をまとって現地の砂漠に足を踏み入れたときの感想をお聞かせください。また、現場ではどのようにして、ナバートの気持ちをご自身へと繋いでいったのですか?
私が着た衣装はイランの南の方のチャーバハールという所の人たちが着ている衣装なんです。メイド役の方がその地方の出身だったので、すべてお借りしました。色も刺繍も凄く綺麗でした。このあいだ日本で衣装を着た時は凄く湿気があって暑かったんです。やはり気候に合ったように作られているんですね。
ナバート役に関しては、途中までは話の流れを予測しながら演じていましたが、途中からかなり変更があったので気持ちをきりかえました。ナバートの好奇心旺盛なキャラクターをしっかり持つように努力しました。イスラム教の厳しい宗教についても調べてからイランへ行きました。そんなに詳しくなくても、知識があるだけで多少違うかなと思いましたので・・・

——本作は表情で語る部分が多い作品ですね、表情だけで語るのは難しいと思います。麻生さんは「時効警察」のようなはじけた役柄もやられていますが、今回のナバート役と比べるとどちらの方が演じやすいのでしょうか?
やり易さは役によって違うわけではなくて、その現場の雰囲気やどれくらい周りに慣れているかが私にとって大切な部分ですね。「時効警察」も今回の映画もどちらもやり易かったです。良い現場でした。どちらも私なんですよ。どちらも素に近くて・・・。どの役でもどこか私っぽい所が出てくるんです。
この作品に限っていうと役作りはほとんど何もしていないというか、ただその場にいることを目標にしていました。空っぽでいたいと思ってやりました。

——ジャリリ監督の現場で新たに発見できた部分などはありますか?
今回は、撮影に入る前凄く怖かったんです。初めての海外の作品ということもありましたし、ジャリリ監督はいつも素人の方を使っている方なので、私みたいに女優を職業としている人を使うことで、もしかしたら思い描いていたものとは違ってがっかりさせてしまうのではないかと思ったんです。でも今までのジャリリ監督の作品を見ていても、みんなただそこにいることが当たり前のようで、カメラを特に意識していなかったので、私もあまり考えないようにしようと思いました。

——ハーフェズのように愛する人に詩を詠む男性をどう思いますか?
日本ではあまりそういう男性をお見かけしませんが、イランだとキュンと来るというか純粋に素敵でかっこいいと思います。そういう形で表現しなくても、熱い思いを持っている男性は一番かっこいいと思います。

——実際に詠んで欲しい気持ちはありますか?
きっとシュチェーションによると思うんです。詩は声に出して詠まなくても、そういう気持ちを持ってくれているだけでとても幸せです。

——麻生さんが考えるこの映画を読み解くためのキーワードは何ですか?
本当は私が隣で解説したいくらいです。場面が早く切り替わるので、これはどういう意味なんだろうとか、習慣の違いでいくつかわからない部分があると思うんです。例えば結婚式のシーンで、誓いの言葉に対して3回目の返事で「YES」と言わなくてはいけないとか、普通に見ていたら流してしまう部分がありますが、頭で考える映画ではなく、詩のような映画だと思っているので、観て感じて下されば嬉しいです。

——映画の仕事の魅力はどのようなところですか?
毎回作品ごとにスタッフやキャストが代わって、環境が一本ずつ違うのが自分にとっては性格的に向いてると思っています。好きなところを挙げていくときりがありませんが、やはり今村昌平監督の『カンゾー先生』という作品に出させていただいた事が私にとってとても大きいですし、あの作品から映画でやっていきたいと思うようになりました。

——今後、海外から出演のオファーが来たらどうなさいますか?
海外からオファーがあったら、とても光栄なことだと思います。
ただ、日本もすごく良い作品がたくさんあるので、今までやったことのない役や興味を惹かれる作品に出会えたら国籍を問わず出演させていただきたいと思っています。

執筆者

大野恵理

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