9才の女の子・アンナの目線から、1970年当時の激動の社会と、ちょっぴり理不尽にも見える大人たちの変化を、ユーモアを交えてリアルに描き出した『ぜんぶ、フィデルのせい』。大人への一歩を踏み出す仏頂面がよく似合うヒロインを演じるニナ・ケルヴェルは、この作品が初めての演技ながら抜群の存在感を見せる。

ヒロインの母に、ジェラール・ドパルデューを父に持つジュリー・ドパルデュー、父に『息子の部屋』のステファノ・アコルシ、ガヴラス監督があまりのかわいさに一目惚れして起用されたバンジャマン・フィエがアンナと対照的に純粋無垢な弟を好演している。

社会派の監督として知られるコスタ=ガヴラス監督の娘であるジュリー・カヴラスは、今フランスで最も期待されている女流監督の一人。本作はイタリアの女優作家ドミティッラ・カラマイの「Tutta colpa di FIDEL」を原作に自伝的な要素を加えて脚本を執筆、チェ・ゲバラと並ぶ著名な革命家であるフィデル・カストロの政治的思想とそれらが当時の欧米諸国に与えた影響を、ひとりの少女の目を通して描いた。

2007年サンダンス映画祭のワールド・シネマ・コンペティションで上映され、大きな反響を呼んだ作品でもある。






——政治的なテーマを取り上げつつ子供の視線で描くという面白い手法ですが、なぜこういう撮りかたをしたのでしょうか?
ジュリー・ガヴラス(以降ジュリー):政治的な、あるいは社会的なテーマを取り上げる際に、作品として新しい視点で描きたかったんです。自分の中で面白いと思ったのは、映画に出てくる少女は、裕福で、ある種反抗的な部分をたくさん持っているんですが、そんな少女が今まで生きていた世界の中で問題にぶち当たっていくストーリーです。大体の場合、子供が革命的で大人が保守的というパターンは多いけれど、この場合は子供が保守的で大人が革命的だという構図なんですね。そういうところが面白いと思いました。

——原作者のドミティッラ・カラマイさんとはイタリアで知り合ったそうですが、どのようなシチュエーションでお知り合いになったんですか?
ジュリー:93年に一年間ローマに住んでいたんですが、作家のお父さんが住んでいた家が空くというのを聞き、ヴァチカンの方向に向いている植物に毎日水をやるという条件でそこに住むことになったんです。ある日、家でパーティを開いた時にカラマイさんが来て、そこで彼女と偶然知り会うことになったんです。

——原作を元に脚本を書くにあたっては、監督の思いを重ねている部分はありますか?
ジュリー:この原作は作家の自伝的な作品であって、その作品を読んで感動したから映画にしようと思ったんですけど、それは物語に登場する人物たちの感情と自分が抱いていた感情が似ていたからだと思うんですね。シナリオを書きながら自分自身にあるものが投影されたと思っています。具体的な出来事ではなく、キャラクターや感情の部分で自分に似ていると感じました。映画を見たたくさんの人達が私に会いにきて、「まさしく自分が投影されている映画だ!」とおっしゃった方がたくさんいたんです。ですから多くの方に共通することかなと思いました。

——この映画は現代の社会に対する批判を含めているのでしょうか?
ジュリー:いいえ、全然違います。そういう風な批判的な意味は込めていません。これは成長が描かれていると捉えていますし、70年代も面白い時代だと思います。大人が与える影響が変化する状況というのはあると思います。当時は大人達の思想的な心情が子供たちに影響を与え変化を与えたと思うけど、現在はそうではなくて、むしろ外的な失業や離婚という部分で両親が子供に影響に与えていると思うんです。両親というのは、子供にとって共鳴する存在だし、親になるのは難しいこと。子供を育てるにあたって、いろんな心配はあるけど責任があるわけだから難しいことだなとは思っています。

——ジュリー・ガヴラス監督にとっては初めての長編映画ですが、大変だったところは?
ジュリー:初めてのフィクションは、それまでのドキュメンタリーと違って、新しい世界であると感じました。私にとって難しかったのは子供も含めた俳優の演出です。それから、現場に常に人が大勢いて自分に一日150もの質問がくるんです。その中で重要な質問を逃さないように集中するのがとても大変でした。今までのドキュメンタリー3人位のチームでしたから比較にならない人数での仕事でした。

——社会に向ける眼差しはお父様から影響を受けたと感じていますか。
ジュリー:今回は自分が初めての作品だったので自分ひとりの力でやり遂げる必要があった。父親は監督ですし、母親はプロデューサーですけれど、そういうところで彼らからの助けは一切受けずに一人でやろうと思いました。テーマ性がしっかりした作品作りに興味があるところは明らかに父親からの影響だと思います。

——初めてお会いして監督とニナさんの雰囲気が似ていると思ったんですが、監督はご自分に似ているところを見出して選んだのでしょうか?
ジュリー:自分の子供の頃をよく知っている人は、ニナと自分がすごく似ているといいます。でも自分がニナを選んだ時は、全然似てないという確信を持って選んだんですね。でも仕事をしてみて、お互いを知っていく上で自分に似ている部分もあるなという風に感じてはいます。

——ニナ・ケルヴェルさんは、この作品が初めての演技でしたが、面白かったところ、大変だったところは?
ニナ・ケルヴェル(以降ニナ):仕事そのものはすごく楽しく感じました。やっぱり本当に本当に大変だったのは集中を持続すること。集中しないと終わらないし(笑)。

——ニナさんはアンナさんと似ていると思ったところ、考えで分からなかったところはありますか?
ニナ:身体的には分からない。でも精神的にはアンナと似ているところはありました。特に怒りっぽいところなど(笑)。アンナに対して理解できないところはないです。映画でアンナが疑問をぶつけていたところは、私も同じ状況だったら同じ事を言っていると思います。

——大人に対して不満はありますか?
ニナ:タバコを吸いすぎるところ!

——アンナが良く理解できたのは、監督の演技の引き出し方が適切だったからと思うんですけど、どういう風に導かれたんですか?
ジュリー:ニナに関してはセリフや時代背景について自分が説明したことよりも、ニナのおばあちゃんがニナに対して説明したことが大きいんです。そのおばあちゃんは70年時代に青春を過ごした人で政治的にも社会的にもアクティブな女性だったんです。ですから具体的に彼女からニナに説明してもらったのが大きかったです。全体的な流れはニナが理解して臨んでいたんですけど、その都度、明確にシーンを示して説明して彼女が演技しやすいようにしたつもりです。

——原作者の方はこの映画をご覧になって、何と言っていましたか?
ジュリー:彼女は素晴らしい裏切り方をしてくれたと言いました。本のベーシックな部分は生かされていますが、原作では4年間の少女の人生を描いているんですね。最初8歳で最後が12歳。男の子にも興味を持ってというところまで及んでいる。物理に大きくなっていく様ではなく精神的な成長を見せているので、本の描き方とすごく違うんです。その部分について彼女は裏切りだと言ったのだと思います。

——近年フランスの女優の中でも特に人気のあるジュリー・ドパルデューさんをキャスティングした理由と彼女の魅力を教えて下さい。
ジュリー:すごく魅力的な人でした。古典的な感じではなくて、独特な美しさを持っている人で、今回の母親役にピッタリ合うなと思いました。彼女自身がボルドーの保守的な家柄の出身でそこを飛び出したところも役柄にピッタリでしたね。

——ジュリー・ドパルデューさんは撮影中にはどのような存在でしたか?
ニナすごく優しかったです。私だけじゃなくて他の子供たちに対してもすごく優しくしてくれて仲良くしていました。

——監督はこの映画を作るということが観客にとってどのようなものであって欲しいと思いますか?
ジュリー:知的なエンターテイメントと捉えてほしいですね。私は伝えたいものがはっきりしているので、観ている人が考えされるものになってほしいと思います。

執筆者

Miwako NIBE

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