2001年、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』で世界的に一大ムーブメントを巻き起こしたジョン・キャメロン・ミッチェルと、音楽プロデューサー、クリス・スルサレンコ。そして多数のミュージシャン達が一堂に会して、ニューヨークに住むレズビアン、ゲイ、トランスジェンダー、バイセクシャルの青少年が通う学校「ハーヴェイ・ミルク・ハイスクール」の為に立ち上がった!

「”違い”というものは尊ばれるものであり、あらゆる生徒には安全な教育と”ホーム”と呼べる場所があるべきだ」というハーヴェイ・ミルク・ハイスクールの基本理念に賛同したのはオノ・ヨーコ、シンディ・ローパー、ヨ・ラ・テンゴ、ベンフォールズ、ベン・リー、ベン・クウェラー、フランク・ブラック、ブリーダーズ、ルーファス・ウェインライトなどの一流ミュージシャンたち。

『ヴォイス・オブ・ヘドウィグ』は、ミッチェルとミュージシャンたちの1年にわたるチャリティ・アルバム『ウィッグ・イン・ア・ボックス』制作を軸に、4人のLGBTQの生徒たち(2人のレズビアンと、1 人のゲイと、1人のトランスジェンダ)にスポットをあてたドキュメンタリー。「自分は人とは違う」という葛藤、家族や周りの人々との関係、そして自分という存在を肯定する様子を映し出す。

今回は本作の監督であるキャサリン・リントンにインタビューを行った。




ゲイのコミュニティにとって、ジョン・キャメロン・ミッチェル、あるいは彼が演じたヘドウィグというのはどういう存在なのでしょうか?

「もちろんアーティストとして尊敬されています。もちろんヘドウィグとして知られているわけですが、新作の『ショートバス』も公開されましたし、そちらのイメージもあるのではないでしょうか? 彼は政治的な活動家ではないですが、芸術家として尊敬されていると思います」

とはいえ、子供たちがジョンに会ったとき、あまり熱狂的ではなかったような気がします。子供たちがシャイだったのでしょうか?

「いえ、子供たちの中で『ヘドウィグ〜』を観ていたのはひとりだけだったからです。それと同時に、子供たちは黒人であり、ラテン系が多い。彼らが知っているのはむしろジェイ・Zであり、ビヨンセであると。『ヘドウィグ〜』は白人文化での物語ですからね。あのリアクションはジョンのことをまったく知らなかっただけで、シャイだったわけではないんです」

サントラの中でヘドウィグがリスペクトしていたオノヨーコが実際にこのトリビュートに参加したのは驚きでした。監督は実際にそばにいて撮影をしていたわけですが、いかがでした?

「とても大きな人物だというイメージがあるので、緊張しました。
 でも実際はものすごく優しくて、とても謙虚な人だったんです、。小さいブースにカメラを持って一緒に入ったんですが、彼女は全然カメラを意識してなかったですね」

この映画では、子供たちが登場するシーンと、アーティストのレコーディングシーンが交互に登場するわけですが、これらのバランスは?

「それは本当に気を付けなければいけないと思っていました。どうしても音楽が強力なので、音楽が前面に出やすい傾向になる危険性がありました。だからこそ必ず子供たちのシーンを大きくフィーチャーして、音楽がそれをサポートするという形にしたかったわけです。編集者と一緒に作業をしているときにも、ミュージシャンをたくさん出し過ぎないようにというのは気を付けました」

子供たちとのコミュニケーションはどのようにしたのでしょうか?

「まず一番最初に、彼らの信頼を勝ち取ることです。彼らのことをすごく心配をしているし、一番に思っていると伝え、彼らのストーリーを聞きたいと言いました。彼らから物語を引きだすというのは、普段彼らの話を聞いてくれる人がいなかったというのもあって、そんなに大変なことではなかったです」

ゲイの子供たちにとって、ハーヴェイ・ミルク・スクールはパラダイスのように映画では描かれていましたが、監督にとってはどうでしたか?

「まず私が学校で最初に会ったのが、映画に出てくる4人でした。すごく強い個性を持った子供たちだったわけです。私も彼らの世界に属しているわけではない。白人の女性だし、しかもカメラを持って入ってくるので、自分を信頼してくれというのは、逆に不安がありました。
 彼らはニューヨーカーなので、外側はすごくタフなわけです。でも中に入って彼らを知るようになると、繊細なんだと気付きました」

ドキュメンタリーとは成長の記録でもあると思います。特に子供たちの顔つきがどんどん変わっていったのが印象的でした。

「自分が親になったような気持ちですよ。彼らが自分自身を見つけていく過程が、ものすごく誇らしい気持ちになりました。特にエンジェルがプロムクイーンに選ばれたのはすごく嬉しかったですね。卒業式にも参加したし、一緒になって泣いてしまいました。メイがタイムスクエアのビルボードに現われた時もすごく嬉しかった。彼らの成長を見届けることが出来たのは誇らしく思います」

この映画はゲイ・レズビアンのコミュニティの人も観ると思いますが、そうではない人々も観ることになると思います。最後にそういう人たちにメッセージをお願いします。

「確かにこの映画にあるのはゲイのメッセージだけではありません。自分自身の声を見つけていくことが大事だということを説いているんです。他人から社会の中でどういう風に生きるべきか、たとえば結婚すべきだとか、会社で働くべきだと言われたとしても、自分自身を見つけていけば、ちゃんと生きていけるんです」

執筆者

壬生智裕

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