映像と音楽の新たなカタチを創造する〝cinemusica〟シリーズの第3弾は、最愛の家族を失ったことで未来を見失ってしまった男と、唯一の肉親である祖父を日本で亡くしたロシアから来た女が出会うロードムービー。

『White Mexico』の主演を務めるのは、ミュージシャンのみならず、俳優としても評価の高い大江千里と、映画出演4作目にして初主演となる人気モデルのティアラ。二人の心の軌跡を繊細かつコミカルに演じ、絶妙なコンビネーションで観るものを世界に引き込む。

今回はそのお二人にお話を伺った。



——大江さんは今までにない感じの役どころですが、自分の役はいかがでしたか?

大江千里(以下大江)「やっと自分を出せる役に出会ったなと思ったんですよ」

——素に近い感じですか?

大江「近いですね。僕が実際に曲を書いているときも、モードが変なところにあるんですよ。出来あがったら、いきなりはじけたりするんですが。そこを行ったりきたりしているから、自分のダークな部分に非常に近いところがありますね」

——僕らは大江さんの曲しか知らないわけですが、その創作過程の一部分が垣間見えるかもしれないということですね。

大江「ある種、人には見せたくない部分ですよね(笑)」

——ティアラさんは、大江さん演じる佐藤をどう思いましたか?

ティアラ「佐藤さんくらいの年齢の人は好きなんですよ。やっぱりいろいろ経験していていますからね。駄目な人間を装っていても、やっぱり厚みがあるような気がするんですよね。そういうのが魅力的だと思います。
 逆に仕事とかで若い人に会うと、どうしたらいいか分からなくなるんですよ。年齢が近い人の方が逆にやりにくかったかもしれなかったですね」

——では、ご自身のパステルという役はどういう風に?

ティアラ「台本を読んでいて、パステルという女の子に対していろんな感情が湧いてきたんですよ。同情だったり、そこは違うなと思う部分だったりとか。
 普段の私は、いろいろと我慢していることが多いので、パステルの無鉄砲なところはすごく自分と遠い感じがしたんです。
 でも演じてみると、意外に自分もこんな部分を持っているかもしれないと思って。友だちになりたいタイプの女の子ですよね」

——僕はティアラさんの素に近いのかなと思ったのですが、役作りについて、監督とのディスカッションはあったんですか?

ティアラ「映画は一番ナチュラルなものだと思っているんですよ。だから、もしかして地なの? と思われたというのは、すごく嬉しいです。ロードムービーだったので、役柄にすんなり入りこめて。自分でも素だったのかもしれない…。いや、それはないか(笑)。
 監督は私が何かを聞いても、間違ってない、それでいいと言われて。こんなに好きにさせてもらっていいのかなと思いつつも、自由にやらせてもらいました」

——大江さんはパステルはどう写りましたか?

大江「どん底に落ちて、虚無感がある男の役だから、パステルに迷いがあると、上がって行けない。バンと背中を押されたり、一緒の方向を向いて座っていたり、へなちょこと言われて落ちこんだり。ひとつひとつエピソードを重ねていくことで、這いあがらせられた感じがありますね。
 ある種リアルなロードムービーでしたね。」

ティアラ「疲れてポカーンとしてしまっているところもピックアップされてました(笑)。ちょっとしたアクシデントもうまくいかされているような気がします」







——お茶漬けや釜飯など、食べ物のシーンが印象に残っています。そういったシーンで何か思いだすことはありますか?

ティアラ「お茶漬けのシーンの前におにぎりを食べるシーンがあったんですけど、クマさんがもう入らないよ、と言っていたのが面白かったですね。それはすごくよく覚えている」

大江「クマさんはおにぎりを食べるのもムシャムシャとやるから、すぐに食べられなくなるんだよね。芝居だからちょこっと食べるふりをすればいいんだけど、いつも本気でやってるから(笑)」

ティアラ「それと釜飯は美味しかったです」

大江「夕ご飯は別に出ていたんだけど、ふたりは釜飯を食べるから、食べないように待ってたんだよね」

ティアラ「だから空腹と、待ってました!というのがあって」

——だから美味しそうに見えたんですね。ところで資料には親子のような関係とあったんですが、実際はそれを越えた絆を持った不思議な関係性だったと思います。いわば恋人とも同士とも呼べるような。おふたりはこのふたりはどのような関係性だと考えていますか?

ティアラ「不思議な関係と言われるのは嬉しいですね。私は、佐藤のことが好きなんだけど、まだ自分ではその気持ちに気付いていないという風に演じたかったんですよ」

大江「娘と3歳くらいしか違わない女の子と一緒に旅をするということは、観る側からすると、親子のように見えてしまうのかもしれないんですけど、でも男はいつも恋愛をしたい生き物なんですよ(笑)。
 引っ張り上げられていくうちにどんどん惹かれているという。40代なかばでも、ひょうひょうと少年の気持ちでいいんだという気持ちで演じていました。だからちょっとしたことでがっかりしたり、釜飯をまた一緒に食べたいと照れずに言ってみたり。中年だけど、(未)中年なんだよ。という気持ちでやっていましたね」

——この映画は映像と音楽のコラボレーションを主体としたシネムジカというシリーズですが、出来あがった映画を観てどう感じましたか?

ティアラ「ものすごくいいタイミングで曲が入ってくるし、ものすごく情景を盛り上げてくれますよね。音楽って、ただあるだけじゃなくて、本当に大事なんだと思いましたね」

——大江さんも一曲参加されてますね。

大江「映画は音とセリフと映像とSEと全部が、映像であり音でもあるわけですからね。
 音が目から入ってきたり、映像が耳から入ってきたりと、五感がごちゃまぜになった瞬間に、持っていかれるというのがあるじゃないですか。『父親が昔〜』というフレーズのところで娘役のはねゆりさんの顔がきて。ピアノの鍵盤を叩いた瞬間に何かが起きるという、音と映像の絡みの応酬ですよ。
 井上さんは監督、脚本、編集と全部自分で手がけてタイミングを合わせいるわけですから、かなり心地よかったですね」

——大江さんは17年ぶりの映画主演作ということですが、どういう部分に気をつけましたか?

大江「表情の変化というのが、大きい画面になると、ずいぶんビビッドに伝わるので。芝居ではなく、そのものになりきって、その場でどれだけ気持ちの変化を見せるかということにチャレンジしました。
 僕を初めて演技の世界に引き連れてくれた大森一樹監督に『また小芝居をやるようになって。下手なままでいいのに、つまらない』と言われたんです。
 小芝居って、たとえば電話を置いたあとにふっとカメラに目を向けたりとか、そういう技術的なことなんですけど、でもそこには真理があるなと思って。もちろん下手じゃ駄目なんだろうけど、気持ちを入れるというか。ずっと黙ってるんだけど、その7,8秒の中に佐藤の気持ちの変化というのがあるから、それをちゃんとタイミングよく、与えられた時間の中で一発で決めるというのは頑張りました。出来てるかどうかは分からないですが(笑)」

執筆者

壬生智裕

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