ベルリン国際映画祭で「見逃してはならない3本」としてマスコミが絶賛した『千年火』の監督・瀬木直貴をはじめ、主要スタッフが再結集して作られた映画が「Watch with Me 〜卒業写真〜」だ。

がんを患い、余命半年と宣告された元報道カメラマンが故郷に戻り、失いかけた自身の思い出を辿る道程と、それを見守る妻や友人達。看取る側、看取られる側の心のきびを情感豊かに描き出すヒューマンストーリー。上野和馬役には津田寛治。和馬の妻、由紀子役には羽田美智子が演じている。

そして少年時代の和馬が淡い恋心を寄せる転校生の少女、ひとみを演じるのは、ミスフェニックス2005で審査員特別賞に輝いた高木古都。彼女は映画のイメージソングである『卒業写真』でCDデビューを果たしており、伸び伸びした歌声を披露している。

今回はフレッシュな魅力に溢れる高木古都さんに、映画についてお話を伺った。







高木さんは角川映画とソニーミュージックが主催するオーディション、ミスフェニックスの出身ということで、原田知世さんとか薬師丸ひろ子さんのような、主題歌も歌える映画女優を目指すのかなと思うのですが、ご自身ではそう呼ばれるのはどうですか?

「そうですね。映画を大事にしたいという気持ちは強いです。これからも女優と歌手と両立させていけたらと思ってます」

さて、この映画の役はオーディションで決まったとのことですが、オーディションの様子はどうでしたか?

「監督からすごいオーラが出ていて、オーディションに来ている人たちを無言でジーッと見ているんですよ。それに圧倒されました」

オーディションでは何をしたんですか?

「自己紹介と演技と質疑応答と、監督から振りかえってくれというリクエストがありました」

撮影中も振りかえったときにフワッと風が吹いたそうで。監督から風に守られた少女と呼ばれたそうですね。

「自分はそういう意識が全然なくて。すごく照れ臭いですね」

今回の撮影現場はどうでしたか?

「でも現場は全然ピリピリしたイメージがなくて。回想シーンが夏の撮影で、現代のシーンが冬の撮影だったんです。夏の方が子役の方が多くて、ワイワイ明るい感じでしたね。夜のシーンもあまりなくて、時間的にもゆったりと撮っていました。
 冬の病院内の撮影は、俳優さんもすごい方ばっかりだったので緊張してたんです。冬の撮影現場に入る前にピリピリしてるよ、と言われていたんで」

それはスケジュールが押していたということですか?

「そうですね。結構ハードだったみたいで。でも実際に入ってみたら、全然そんなことなくて、皆さん温かく迎えてくれて。共演者の皆さんもスタッフの皆さんもみんな優しくて、本当にあったかい人ばかりでしたね」

実際に脚本を読んだ印象は?

「最初はやっぱり普通に感動しましたね。でも自分の役として考えると、どうなるのか想像がつかなくて。まだまだ演技初心者なので、少し不安がありましたね」

役作りはどうしましたか?

「ほぼ自然体で演技をしていたので、役作りというのはあまりしなかったですね。なかなか感情を表に出さないというか…」

謎のある女の子ですよね。

「ちょっと不思議な感じですよね。でも私は結構ハッキリ言う方なので(笑)」

監督から言われたことで印象に残っていたことはありますか?

「演技初心者ということで、演技レッスンを監督と子役のみんなでやったんです。
 そのときに監督が言っていたことが、『演技というのは、もうひとりと会話をするんだよ。ただ単にセリフを言うんじゃなくて、その人が言ったことを聞いて、それから返すと自然とセリフが出てくるから』と。そういえばそうだなと思ったんです。そこからはだいぶリラックスして演じることが出来ましたね」

監督はどんな人でした?

「オーラが本当にありましたね。厳しいときは本当に厳しいんですけど、優しいときは本当に優しい人で。
あとは、ご飯を一緒に食べたときに自分のお話をしてくれるわけです。そのときに、あそこの山でUFOが見えるんだと和馬が言うシーンがあるんですけど、あれは監督が実際に見たところなんですよね」

見たんですか?

「はい。見たらしいですよ(笑)。
 あと、現場でも、これをやれと言うんじゃなくて、たとえばこれセリフが変だけど、自分だったらどう言う? とか、私が納得いくまで話しあってから、決めるという感じでした」

そうすると最初のシナリオからどんどん変わってきますよね。

「そうですね」

変わった部分で印象に残っている部分はありますか?

「和馬の部屋にいるところは、けっこう変えてますね。細かいところはちょっと思いだせないんですけども。
 それと夢の年表のところですね。監督が、15歳の女の子の気持ちは分からないから、私に書いてくれと言われたんです」

じゃ、あの年表の部分って自分で?

「もちろん基本的な部分は台本に書いてあったんですけども、自分らしく変えました。窓から和馬の部屋に入るシーンがあるんですけど、あそこも監督と相談しながら、いろんなバリエーションを撮りました」

窓から入るのは結構大変だったんじゃないですか?

「そう。あの窓がけっこう小さかったんですよ」

そうなんですか。スクリーン上ではけっこう大きく見えましたが。

「実は小さいんですよ。最初は引っかかって全然入れなかったですね。あと、スカートで入るので、『見える! 見える!』とスタッフさんに言われたり。もちろん見えても大丈夫なようにしてはあるんですけど(笑)。屋根の上がけっこうミシミシいってたので、少し怖かったですね」

冬のシーンで共演した津田寛治さんはどうでしたか?

「一番最初に現場に行ったときに、ちょうど津田さんが和馬になりきって病気の演技をしてらっしゃったんですよ。でも休憩のときにお会いしたら全然別人なんですよね。それは羽田(美智子)さんもそうなんですけど、現場に入った時から別人になりきっていて、すごいなと思いました」

津田さんや羽田さんはどういう人でした?

「津田さんも羽田さんも意外に天然なんですよね。羽田さんなんて控え室にいらっしゃったときに、かばんから果物を出して、これ美味しいんだよって。その話し掛け方が面白くって(笑)。
 冬の撮影のときに、バレンタインデーと重なったので、スタッフの皆さんと津田さんにチョコレートを作っていったんですけども、ちょうど休憩の時間に渡したら、津田さんがすごく感激してくれて。『ありがとう、撮影頑張るよ!』 と言ってくれたんですよ(笑)。映画の中では全然そんな感じしないじゃないですか。それがすごく面白くて。二人ともとてもいい方でしたね」

この映画では写真がモチーフになっているわけですが、興味は持ちました?

「あのクラシックのカメラを小道具さんからいただいたときは、まずどうやって扱ったらいいか分からなかったんです。撮っていいよ、と言われたんで、練習用にたくさん撮りましたね。
 暗室のシーンで、後ろの方に写真がかかっているんですけど、その中に私が撮った写真がまざってたりしています」

その中で自信作はありますか?

「自信作ですか? 葉っぱが手前にあって、後ろが空になっている写真ですかね(笑)。最初の方に撮った写真なんですけど」

では、暗室のシーンをよく見れば、その自信作が見られるかもしれないというわけですね。

「でも奥の方にかかっていたかもしれないですけどね(笑)」

ところで、ひとみちゃんのファッションが、東京の子にしてはちょっと野暮ったい感じがしたんですが、ご自身ではどうでしたか?

「20年前の役ですからね。衣装合わせで衣装を着たときは、ちょっと恥ずかしい部分もありましたけども、でも現場に入ったら、ひとみちゃんになりきってましたね」

そうかと思うと、現在のシーンでは今どきの女の子といった感じのファッションになっていたんで、ひとみちゃんのファッションの野暮ったさはわざとだったのかと思った次第だったんですが。

「現場に入ったときは、服はブレザーで決まりだったんで派手に出来ないけども、メイクさんと一緒に髪の毛にメッシュを入れてみたり、メイクはギャルみたいに派手にしたりしたんですよ。一度それを監督に見せに行ったら、え、そんなもんでいいの? と言われて」

まだ足りないということですか?

「そうですね。だからメイクさんと悔しいね、とか言いながら(笑)。派手にしてみたんですけども。あれはあれで面白かったですね。でもあんな子はいないですよね(笑)」

あそこで明らかにひとみちゃんとは違う反応を示すじゃないですか。そこが思い出はもうないのだという残酷さを感じてしまったんですが。

「そうですね。夢の年表をテストで読んだ時に、自分がどういう風に演じてきたか、というのが次々と頭の中に蘇ってきちゃって」

夏の回想シーンを振りかえるシーンですからね。

「ここはこうだったな、なんて思いだしたりしながら、泣きそうになったりしましたけども。
 実はテストの時に、本当にポロッときてしまって、トイレに行って気合を入れ直してきたんですよ。それからは淡々と読んだんですけども、やっぱりあれはグッときましたね。そこでクランクアップだったので、余計きたんですよね」

執筆者

壬生智裕

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