2004年、新人監督イ・ジョンチョル監督の『ファミリー』が公開された。
この年、韓国では『ブラザー・フッド』『シルミド/SILMIDO』『オールド・ボーイ』と、男くさい映画が大ヒット。そんな中、父と娘の絆というな一見地味に思えるテーマを真正面から描いた本作が、公開されるやいなや観客の口コミによって200万人を動員する大ヒットを記録した。

翳りのある娘・ジョンウンを演じたのは、ドラマで”涙の女王”と称されていたスエ。初の映画主演となった本作で、新人賞を総なめにし、イ・ビョンホン最新作『夏物語』のヒロインに抜擢されるなど、今後の飛躍が期待される。
父親役は、『友へ チング』のユ・オソンの父親役としても印象深く、韓国映画、ドラマで著名なチュ・ヒョン。
また、天真爛漫でサッカー好きのジョウウンの弟には、『ファミリー』の後に主演した『奇跡の夏』でニュー・モントリオール国際映画祭主演男優賞を受賞という快挙を成し遂げた、パク・チビン。

韓国の200万人が涙した父と娘の、切なく激しい10日間を描いた『ファミリー』のイ・ジョンチョル監督に映画製作の経緯、作品に対する想いを語ってもらった。







—— 初長編映画ということでしたが、特に気を遣った点は何でしたか?
「俳優には一人一人違った長所短所があるので、それぞれの良い点を引き出すところに気を使いました。絵コンテを書くのを先延ばしにしても、俳優とのコミュニケーションをとることを優先しました。当時スエさんを含め俳優が有名な方ではなかったので、コミュニケーションをとりながら彼らの隠されている魅力をどのように映画の中で引き出すかということに力をいれました。」

—— 苦労した点は。
「新人俳優と新人監督だったので、経験不足のため低予算の中で作品を作り上げることに苦労しました。ストーリーの中で描ききれない所もあったので、もっと経験があればもっといいものが作れたかもしれないと後悔する部分もあり、今作品を見返すことが正直辛い部分もあります。初めての作品なので、もちろん意味のあるということもあると思いますが、やはり、不足していた部分も多かったと思います。具体的には、父の友達から昔どういうきっかけで父が目に怪我をしたということを聞いて、スエさんが父のところに打ち明けにいくシーン。本来は撮影の後半で撮るべきだったものが、クランクインしてから間もない頃に撮影してしまったので、あとで全体を見たときそのシーンだけ違和感があります。」

—— とても寒い中での撮影だったそうですね。
「一番寒い時期に行われたので、撮影は寒さとの戦いでした。風も強く零下10度になるなど最悪の天候で、撮影を中断することもありました。」

—— 主役のスエさんは、映画初出演の作品ですが、映画での演技の経験「はないということで、懸念はありませんでしたか。実際に演出してみていかがでしたか。また、スエさんの魅力は何だと思いますか。
スエさんが出演していた「ラブレター」というドラマを見て、この脚本を演じてくれるのは彼女しかいないと思っていましたし、自然な涙を流す、何より目に惹かれましたので、キャスティングできて幸運だと思い、それほど心配はありませんでした。撮影時は、そのシーンがどういう状況なのかなど、細かいところまで話し合いながら進めていきました。彼女は若いですが、色々苦労をしてきたので、経験豊かで人生の深みを持った女優だと思います。」

—— 家族愛をテーマに選んだ理由は。
「知り合いの女の子が大学入試に失敗し、浪人する為にもらった費用で、父に内緒で会計の専門学校に通い、会社に勤め始めました。そして、初めて貰った給料を病気のお父さんのところへ持っていき驚かせようとしたところ、本作に出てくるチュソク(父)のように厳格なお父さんは、大学に通わなかったことに対してとても怒り、厳しい対応をしました。しかし、そのお父さんが亡くなったあと、人づてに実はすごく喜んでいたことを聞き、素直になれない「父と娘」という関係について描きたいと思いました。
また、自分の姉が結婚する前日に、姉は母の胸では泣かずに、父の胸で泣いていた姿を見て、「父と娘」の間には、強い絆があると実感したのも一つのきっかけになりました。」

—— 父と息子の話にすることも考えたとのことですが、息子と娘で大きな違いは何だと思いますか。
「息子の場合は父親と距離があって、口数が少ないと思います。それと娘は結婚してからも親孝行をする気持ちが強いと思います。私自身、子供が出来てからは親よりも子供に対する思いが大きくなりました。ただ、先ほどお話した結婚前日の私の姉と父親の様子や、知人女性の話を聞いて、父親と娘の関係には切ないものがあるのではないかと思い、父と娘の話を書くことになりました。」

—— スエ、パク・チビンは、この映画に出演後、大活躍することになりましたが、監督には人選の才能があるのでしょうか。
「才能があるとは思いません。(笑)それぞれの俳優が努力して勉強していた丁度良い時期に、この作品に出演してもらうことが出来たのだと思います。」

—— 大学時代はSFが好きだったとのこと。娯楽作品がお好きだったようですが、軍隊に行った経験から、今回のようなテーマを選ぶことになったのでしょうか。また、韓国では、一作目が失敗すると次の作品を撮るのは難しいようですが、その第一作目でこのテーマを扱うことに不安はありませんでしたか。
「高校時代からジョージ・ルーカスが好きでしたが、SF映画=商業的とは言えないと思います。学生時代、アニメーションと実写の混ざった映画で賞を受賞しました。その賞金で長編映画を作りましたが、映画は失敗し、私にはものを書く才能がないのではないかと悩みました。その後、軍隊に行き、その間色々な本を読んだり経験したことで、成長できたのだと思います。デビュー作で失敗すると次がないというのは確かにありますが、それは映画に限らずどの世界でも言えること。ただ、感性に関しては自信がありました。この映画を通じて韓国の中高生、大学生達と対話をすることができました。」

—— 韓国でクチコミで200万人を動員するに至りましたが、他の映画にはない、この映画の最大の魅力は何だと思いますか。
「徐々にストーリーに引き込まれていく点だと思います。始めは単調な展開も、途中からスピーディーになってきて、感情移入しやすいのだと思います。映画を観た女性からは『ジョンウンの立場でチュソクをみるのではなく、ジョンウンの立場で自分の父親と重ねて観る事ができる』ということ多く言われたので、この映画はそのように自分の父親と重ねて考えることが出来る作品なのだと思います。」

執筆者

Tomoko Suzuki

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=45100