2004年に誕生した『ソウ』、翌年に『ソウ2』。そして今年、2006年11月、いよいよ待望の『ソウ3』が公開する。新たな謎、トリック、そして深まる人物描写が前作までのストーリーと絡み合い、より加速したスピードは観客に一瞬のスキも与えない!そんな映画が誕生したのだ。

こんなにも観客を衝撃と恐怖に陥れる作品を作る監督は、いったいどんな人なんだろう?
爽やかな笑顔が印象的な若干27歳のダーレン・リン・バウズマン監督は、以外にも怖がりで血を見るのも嫌なのだそう。インタビューの合間には愛犬の写真を見せてくれたり、記者にも気遣いをしてくれる紳士でした。

そんなバウズマン監督に『ソウ3』の経緯から、見どころ、今後の予定まで、気になるところを伺いました。






——『ソウ2』からの経緯について
『ソウ2』を監督した後、実は違う作品を作ろうと思っていました。ところが『ソウ』シリーズの生みの親といっても過言ではないプロデューサーが突然亡くなってしまいました。彼は自分やオリジナルの監督であるジェームズ・ワン、オリジナルで主演と脚本を手がけているリー・ワネルとも非常に親しい方だったんです。それまで僕ら3人は『ソウ3』製作に積極的に関わろうとはしていなかったのですが、彼が亡くなったことを聞いた時、3人で集まって話をして、彼がいかに自分たちにチャンスを与えてくれたか、『ソウ』というものはいかに自分たちの人生を変えたか。そして『ソウ3』は自分たちが関わらなくてもどのみち製作されることを話し、それなら一緒にやろうという話になったのがきっかけです。

——再び『ソウ3』の世界に戻った感想を教えて下さい
まるで自分の家族の元に戻ったような最高の気分でした。というのも『ソウ2』と『ソウ3』のスタッフがほぼ一緒で、同じホテルのベッド、ケータリングも一緒でした。ですからどちらかというと二本の作品を作ったというより、一本の作品の間にミニホリデーを取ったような感じでした。

——『ソウ3』を監督するにあたって、プレッシャーや不安、期待はありましたか?
今回も『ソウ2』同様、製作日数が少なくて、撮影期間はなんと28日間でした。トロントに飛行機で飛んでから完成までたった6ヶ月間、そういうスケジュールだと自分を疑っている暇はありません。ただし、プレッシャーはたくさん感じました。『ソウ』シリーズにはカルトなファンがたくさんいるし期待度も大きいので、それを裏切ってはいけないというのがプレッシャーにつながりました。また作品としては、よりドラマティックで、よりエモーショナルな作品にしたいと思っていました。ゴールでもあり、バイオレンスやキャラクター造形、ストーリーもしっかり描きたいと思っていたんです。それが今回自分に期待していたところかな。

——一般公開のバージョンはいくつも存在しているのでしょうか?
『ソウ3』を製作するにあたり、ただのホラー映画ではなく、よりスケールの大きいものにしたいと思いました。『ソウ』、『ソウ2』から色んな物語を交差させたかったのです。ですから、ものすごい量を撮影しました。最初のラフカットがなんと3時間!だけど拷問満載のこの映画を観客に3時間も見せるわけにはいかないので短く編集しました。クールなシーンもだいぶ落とさなければいけなかったのですが、それがあるがためにペースダウンすることもあったので、もちろん今のバージョンで満足していますが、DVDでそれらが入ったバージョンもリリースしたいと思っています。

——『ソウ2』で瀕死だったジグソウをなぜ『ソウ3』で登場させたのでしょうか?
それはジグソウとアマンダの物語が終わっていないと自分が感じていたからなんです。『ソウ2』でジグソウは瀕死の状態ですが、わざとあれは曖昧にしてあって、ラストをよく見ていただけると分かるんですが、最後ジグソウは笑っているんです。もし『ソウ3』でジグソウが登場しなかったら、観客ももっと見たかったと思うでしょう。『ソウ』のゴードン医師のように、いったいどのようになったのかと。だけど『ソウ3』を見ていただければ2人の物語はある程度完結したと思ってもらえると思います。

——スタッフの結束を感じましたが、撮影現場の雰囲気は?
この映画から想像も出来ないような、すごく楽しくてリラックスした現場でした。毎日誰かがイタズラしている。特にトビン・ベルさん(ジグソウ)とショウニー・スミスさん(アマンダ)でした。撮影中、撮り始めるときも誰かが笑いやむのを待つような状況で、全然シリアスでも陰鬱でもありませんでした。まさに結束が固くてお互いを知っていることもあるし、歴史があるからなんですけど、みんなで毎晩飲み食いしにも行っていました。
実際のセットは大きな倉庫の中にあって、色んな機具が置いてあるジグソウの住処の隣に病院のセットがある。そういうのも不思議な感じがしました。

——『ソウ2』では脚本の全てを出演者に見せなかったそうですが、今回も出演者に見せなかったのでしょうか?
関わっている俳優もみんな80ページまでしか台本をもらっていません。映画の最後まで生き残った数名だけが結末を知っていました。

——『ソウ3』の拷問の自信作は?実現しなかったものは?
見ていて面白いトラップ、革新的な人の殺し方を考えなくてはいけないので、うまくいかなかったものも多い。ビジュアルで却下されたのはドアがあって釘が出ていてそこを通ると裂けるというもの。誇りを持っているのは、焼却炉でジェフの息子の遺品を焼くトラップです。他人の命を救うために自分の息子の遺品を燃やせるのか?バイオレンスというよりエモーショナルの選択を迫られます。彼の気持ちを思えばトラップ自体苦痛を伴うものに変わる。シンプルなところも気に入っています。

——監督自身が一番味わいたくないトラップはどれでしょうか?
どれも嫌です!自分は何もできないけど間近に死に向かっている感覚ほど怖いものはないと思うんですね。中でも個人的に怖いと思うのは冷凍室に鎖につながれて、凍え死にするしかない。というのも雪が降るカンザス出身で、実は雪かきするのが大嫌いなんです。雪かきをしていると手も口も凍ってきて、このまま凍死したらどうしようと思ったことがある。ですから僕はこれが一番嫌です。

——ホラー映画は社会の不安を映し出すという見方もできますが、より過激に残虐になっている現実をどう思いますか?
現代を反映しているところは確かにあります。テレビをひねればいつでもニュースで誰かが撃たれた、刺された、殺されたと流れている。我々は暴力に慣れ過ぎていて全く何も感じなくなっているという警告があると思うんです。観客の方の反応を得るためには、映像を作る方もどんどん過激にならざるを得ないところがある。つまり人を殺すのであれば、以前は人を撃てばいいだけだったのに、今は人を撃って、首を切って、その首を蹴って路地にゴロゴロって転がすところまで撮らなくてはいけないような状況です。

——ジグソウとアマンダの関係と感情について
二人の間には非常に深い愛があります。それを師弟関係と見るのか、父と娘、性的な関係と見るかは観客にまかせたいと思います。ラスト15分でジグソウのアマンダに対する気持ちは分かると思います。ジグソウはアマンダがああいう選択をしたことによって打ちのめされてしまい、涙が出てしまう。そこから見て取れるシンパシーを持っている。アマンダはジグソウに対して、お茶を持ってきたり、注射したり、行動を見れば深いリスペクトも持っている。この関係を自分が説明するなら愛情かなって思うんです。
特にジグソウは自分の人生、人生をかけた仕事、遺産を全てアマンダに与えようとしていた。リスクをとったけどああいう結果になった。悲劇ですよね。自分の期待に添えなくてものすごく傷ついた。二人の関係には欠けているものも多いが愛情もあったんです。

——『ソウ』の監督のイメージが定着していますが不安はないのでしょうか?
自分は27歳、倍の年齢で監督できない人のことを考えれば、この2本を監督できて幸運だし、これからどんな荷物を背負おうが構わないし、受けて立つつもりです。

——今後、監督自身がつくりたい作品は?
次回作はロックホラーミュージカルを予定していて、キャラクターは殺し合いがあって急に歌ったりします。これから作る作品も「居心地が悪くなるような作品」を撮っていきたい。スリラー、サスペンス、ホラーだけでなく、ドラマでも可能ですよね。そんな映画を作りたいと思っています。

——映画を見る人たちへメッセージをお願いします
『ソウ3』では今までと全く違う『ソウ』をお目にかけられると思います。ストーリーもより豊かでトラップもよりすごいことになっているので、バイオレンスもエモーションも両方とも楽しんでもらえればと思います。これだけ見ても楽しめると思いますが、できれば『ソウ1』、『ソウ2』を見ているとより楽しめるんじゃないかな。もしよかったら準備して見てください。

執筆者

Miwako NIBE

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=45157