人と人とを繋ぐ絆はこんなにも温かく、優しい。

誰にも真似できない奇抜で繊細なタッチで物語を紡ぐ作家・乙一。ファンも、そして彼自身も代表作だと認める作品が映画化され、この秋遂に公開される。それが『暗いところで待ち合わせ』だ。

目の見えないミチルが一人で暮らす家に、ある日警察に追われる男・アキヒロが忍び込む。そうして始まった奇妙な共同生活。しかし2人には心に抱える”孤独”という共通点があった—。

ミチルとアキヒロを演じたのは田中麗奈とチェン・ボーリン。彼らは2人の複雑な状況をただリアルに感じさせる演技をしただけではない。人が抱える淋しさ、孤独、そして優しさといった表面では見ることのできないものを体現しているのだ。それはもう”見える、見えないの演技”というレベルではない。

静かに心を響かせる『暗いところで待ち合わせ』で私達に温かな希望を見せてくれた田中さんとチェンさんにお話を伺いました。




——乙一さんの原作を元に作られた映画でもありますが、最初にこの物語を読んだ時の印象を教えてください。
田中麗奈(以下:田中):「『暗いところで待ち合わせ』の原作を読んでみたら作品の持つ独特の世界観がすごく好きだったので、すぐに”やりたい!”という気持ちになりました。ミチルの心の動きを表現するのがすごく難しいだろうなと思ったことも私にとってはすごく興味深かったです。実は乙一さんの存在は脚本を貰った時に知ったんですが、それから小説を読んでみたらすごくおもしろかったんです。ミチルの考えてることや思っていること、外の世界にいかない理由などといった彼女の孤独な部分をつらつら書いているところがおもしろかったですね。」

$darkcyan チェン・ボーリン(以下:ボーリン)$:「脚本を読んで、難しいと思うことが2つありました。まずアキヒロの性格は自分の性格と全く逆だということ。自分に彼のような役ができるのかすごく心配でした。そしてもうひとつはこの映画が純・日本映画だということ。日本語のセリフも結構あったので、僕にとってはチャレンジし甲斐のある映画だと思いました。」

——お二人は2度目の共演ですよね。
田中:「一緒にお仕事をするということでは不安は一切なかったです。ただ現場で、チェンにとっては日本語でセリフを言うことが大変だというのがわかりました。現場に入る前から一緒に練習もしてたんですが、チェンは乗り越えなきゃいけないんだというのがすごくわかりました。」

——お二人が最初に会った時の印象と、今回再共演してお互いのイメージで変わったことがあれば教えてください。
$darkcyan ボーリン$:「最初に田中さんに会った時は自分より年下の方のように見えて、すごくピュアな女の子だろうなと思いました。一緒に仕事をしてみるとすごく賢明な女性人で、演技に対しても自分のこだわりがある人でした。普段はすごく優しい人です。」

田中:「最初に会った時は”少年”という印象を持ちました。すごく純粋な感じだったんです。無邪気で素直だし、良い子供らしさみたいなものがあってかわいらしいところもありました。今は、現場なんかでチェンが考えていたことがわかるようになりました。お芝居に対してのアピールの仕方だったり、考え方や注目する場所が鋭いので刺激を受けることもあります。今もこれからもいろんなことを吸収して、どんどん成長していくんだろうなという予感がしますね(笑)!」

——田中さんが目の見えないミチルの世界を理解するためにされたことを教えてください。
田中:「撮影の前に盲目の方が生活をしている施設に行きました。そこである女性の部屋に入らせて頂いて、お洗濯や掃除から引出しを開けたり薬を飲んだり・・という日常的な動作を実際やってもらって、それを見て自分でもやってみました。何回か通いながらいろんな動作の練習をしていったんです。お家に帰ってからは電気を消したままアイマスクをして家の中を歩き回ってみたり、日常動作をいろいろやってみたりしました。後はピアノを弾く役なのでアイマスクをつけたまま弾いてみたりしました。」

——休憩中に外に出て叫ばれたようですが、ストレスは感じてましたか?
田中:「映画の撮影の時って一番自分らしくいれると思うし、すごく幸せだと思っているので変なストレスはありません。キツイとか辛いとかは思わないんですが、どこかにプレッシャーが常にあったりするみたいです。それにミチルは最初はすごく無防備だけど、だんだん誰かに見られてるっていう緊張感も持ってくるので。そういうところでやっぱり体が固まっちゃうことがあったのかな。それを発散するために叫んだりして全部をほぐして、ゼロに戻って現場に行ったこともありました。」

——ボーリンさんは日本語のセリフが不安だと言われてましたが、反対に言葉があまりないことで不安は感じられませんでしたか?
$darkcyan ボーリン$:「この映画がもし台湾映画だったら、私はたぶん目で演技することにだけ気をつければよかったんだと思います。でも今回は純粋な日本映画で、目で演じることも日本語のセリフをしゃべることもとても大変でした。役に入るためにわざとテンションを低くしたりもしました。でもやっぱり私にとっては長くて意味深い日本語のセリフが一番大変でした。一つ一つの単語やセンテンスを理解した上で話さないと丸暗記だけになっちゃうから。」

——この映画にはサスペンスや友情、愛情などの要素がたくさん含まれていていますが、全ての要素が見事に生きている作品でした。演じる上で気をつけられたところはありますか?
田中:「やっぱりシーンには役割があるので意識はしますね。そのシーンで出したいミチルの心情だとか、このシーンでちょっと気持ちの変化を出したいな、とかは毎回考えましたね。全体を通しては”ミチル”という一人の人物なので、シーンによって全てを変えることはできませんでした。一人の人間なんだということはブレさせずに、気持ちの変化を自然に演技に反映させていたと思います。後はもう現場で感じたものをやってました。」

$darkcyan ボーリン$:「それぞれのシーンによって、アキヒロの感情を自分で想像したものを役者として演じていました。特に今回、ミチルとアキヒロには孤独感という共通点があります。よく知っている友達でも理解できない部分があるのに、逆に初めて会った人に共感を感じたりもしますよね。私は役者として、場面によって変わるアキヒロの考えや表情をそのまま出しただけです。」

——田中さんはノーメイクで出演されてますよね。何か美しさを保つ秘訣などあれば教えてください。
田中:「普段はお化粧をしないようにしてます。お化粧するとお化粧した顔が自分の顔になっちゃう気がして。お化粧すると顔が固まっちゃう感じもするし(笑)。ナチュラルメイクの自分らしい表情のまま映画に出るのっていいことだと思います。」

執筆者

Umemoto

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チェン・ボーリン公式サイト

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