実の父親を殺したヤクザ・ピストル愛次郎と共にアウトローの世界で生きる男・暗雷、そして暗雷への愛を心のうちに秘める月音。地下賭博“殴り場”で繰り広げられる縄張り争いの中、彼らの想いが交錯し、意外なクライマックスを迎える『殴者』。人気俳優・玉木宏主演のほか、プライドの人気格闘家たちが“殴者”として登場し、戦う姿を披露することでも話題となった本作を、『けものがれ、俺らの猿と』の須永秀明監督が手掛けた。
「僕みたいなのが映画となると、ちょっと違った視点みたいなのが期待されていると思います」と監督自身が語るように、『殴者』はいままでにないタイプの新しい時代劇映画となった。





どんな経緯で『殴者』の監督をすることに?
最初はプライドを音楽のライブっぽく撮ってもらえないか、プライドの選手を使って映画を撮れないかと。最初のオファーがそれでした。原作の方のアイデアもあって、時代劇みたいなことをやろうということになたんです。僕に依頼が来るのは変わったものが多いので、今までの型というか、そういったものがない作品を期待されているというのはありましたね。

戦うシーンになると音楽がなくなって、選手の息遣いが聞こえたりするのがとても印象的でした。
一応全曲用意して、いい曲ばかりだったんですが、実際に当ててみると臨場感みたいなものが弱くなってしまって。迷ったんですけど、あえて音楽を外すことにしました。

選手はどこまで本気で戦ったんでしょう?
基本的には当ててくださいとお願いしました。もちろん怪我しない程度に。なので探り探りやっていたりするんですけど、そのうちテンションが上がってきちゃって(笑)。メリハリをつけたかったので大きな流れの指示もしました。たとえば、1ラウンド目は桜庭さんが優勢、2ラウンド目はクイントンが優勢で、最後は……というようにお願いしました。現場も盛り上がりましたね。1ラウンド終わるごとに「おおーっ」と歓声があがって。本当の試合を見ている感じで、スタッフも見入っていました。

選手の皆さんから「俺が負けるのは嫌だ」なんて意見はでなかったんでしょうか?
確かに、当時シウバとか一回も負けてなくて。だから負けちゃたらやばいんじゃないですか、と言ったことはありますね。周りのみんなは「映画だしいいんだよ」と軽く言っていたんですが(笑)。本人には撮影当日のほかに1回くらいしか会ってないんですけど、「俺は何でもやるよ」と言ってくれてたみたいです。

人気俳優・玉木宏さんが、これまでの爽やかなイメージと違ったアウトローの世界で生きる男・暗雷を演じています。玉木さんに決まった経緯は?
とてもやる気のある方で、こちらからおねがいするような感じで決まりました。玉木さんは眼力というか、そういうのがいいなと。でも玉木さん、かっこよすぎですよね(笑)。月音役の水川あさみさんとのツーショットも絵になっていて。玉木さんも水川さんも真面目で、透明感があるんですよね。

陣内孝則さんの存在感もすごかったです。
世の中の陣内さんのイメージって軽い役というか、はじけた役陣内さんっていうイメージがあると思うんですが、それを壊してもらいたいなと。陣内さんにもそういう覚悟でやってもらったというか。その反対に、いつものトリッキーな感じを出してもらったのが篠井英介さんですね。陣内さんがイメージを壊す感じでしたので、逆に篠井さんはそういうふうにお願いしました。

唯一、虎牙光揮さんがプロの中に混じって戦っています。
虎牙さんは一番苦労したと思います。格闘家と役者をつなげる人が必要だなと思っていて。そこで格闘家でもあり、役者でもある虎牙さんがいいなと。戦う当日は一番ナーバスでしたね。声がかけられないくらい。すごい集中してたと思うんですよ。実際の戦闘シーンでは、何度か真っ白になって落ちかけたといってました。シウバは本能でかわしてしまって。本人も気がついて、途中から自分から当たりにいっていました。

物語は、登場人物たちが抱く想いが交錯していきますね。
テーマとしてはいろいろな想いのすれ違いを見せたいなと考えていました。そのすれ違いによって、どんどん事態が急転する様を描けたら、と。たとえば暗雷には暗雷の気持ちがあって、月音は月音で暗雷との愛を閉じ込めておきたかった。ここでもすれ違いがあるんですよね。女性にとってこういう顛末の強い気持ちが愛や恋だったりすると思うんですけど。

映像の面でこだわっているのは?
こだわているというか、ごちゃごちゃしてるものが好きですね。いろんな要素がつまっているものというか。『殴者』も戦いあり、愛あり、裏切りあり、男と女あり、師弟関係ありでいろいろ楽しめると思うので。強いて言えば笑いが足りなかったかな(笑)。

最後にメッセージをお願い致します。
プライド好きな人には戦いを楽しんでもらいながら、ストーリーも追ってみてください。プライドを知らない方にはこれを通してプライドの魅力を知ってもらえればと。いろんな楽しみ方ができる作品ですね。

執筆者

yamamoto