『ばかのハコ船』をはじめ「刑事まつり」シリーズの一編『汁刑事』をはじめとする山下敦弘監督作品の常連俳優の山本剛史。彼のスクリーンデビューといえる『ばかハコ』で演じたスーパーオザキのひとり息子の尾崎役では、その挙動不審なひとりよがり暴走キャラクターで、ほわほわ&だらだらした山下映画の世界に初めてイライラした笑いをもたらす異分子として多くの映画ファンの脳裏に強烈にこびりつく名演をみせた。つづく『汁刑事』でも、独特のテンションを保ちながら崩壊していく男(童貞で汁男優でなおかつ刑事)をコミカル&クレイジーに演じてみせた。
 その彼が今回初主演をつとめたのは、山下敦弘をはじめ、熊切和嘉、本田隆一など多くの才能を輩出している大阪芸大出身の元木隆史監督による『ピーカン夫婦』だ。ばかハコ・尾崎や汁刑事のキャラクターを踏襲しつつ、皮肉屋でとっつきにくい人間的に未熟な主人公・尾崎が、1人の女との出会いから少しずつ成長していく姿が描かれていく。

※『ピーカン夫婦』は2005年7月2日〜15日アップリンクXにてロードショー!
 2005年8月19日VHS&DVDレンタル開始!8月26日セルDVD発売!

 




山下敦弘監督とは高校時代からの友人で当時から一緒にビデオ制作をしていたとか。
「彼も僕も映画好きで、彼は監督志望で僕は役者志望だった。偶然彼の父親がビデオカメラを購入したので、じゃあなにかこれで作ろうかということになったんです。でも作るといっても、編集もなにもなく完全な順撮りでした。その当時作った作品は「刑事まつり」で作った『汁刑事』のような感じのものですね。『汁刑事』よりもっとヤバイ感じです(笑)。あんなような感じのものを、僕だけじゃなく友達何人かと山下とで作ってましたね。アイデアとかもみんなで出し合ってて。僕もカメラマンやったりしていました。」
実際どんな作品だったんですか?
「うーん、ちょっと話するのも恥ずかしいくらいなんですけど(笑)。ロボコップをやりましたねぇ。僕がロボコップなんですけど、原付のシルバーのヘルメットをかぶって、ナイロンのジャケット着て演じてました(笑)。」
山本さんといえば『ばかのハコ船』の尾崎に代表される独特の暴走キレキャラだと思うんですが、そういうキャラクターというのは山下さんと一緒に作る作業だったんですか?
「そうですね。『ばかのハコ船』の時はちゃんとした脚本があったんですけど、僕と山下で昔のノリで現場で勝手に作ってったところが大半ですね。8割ぐらいがアドリブですね。」
その後、また『汁刑事』でもまた尾崎さん的なキャラが暴走しますが…
「あれもまったく台本ない分、『ばかハコ』よりも完全に高校の時のノリです。全部思いつきでやってます。山下が僕が何がどこまでできるのかっていうのをわかってくれてるので、それほど話さなくても大丈夫ってところもあります。」
尾崎にしても『汁刑事』にしても別の人物なんだろうけど、人付き合いが下手で童貞っぽくてイヤミっぽいという同じニオイはしますよね
「いや、あれ同じ人物の設定なんですよ。『ばかハコ』の尾崎のその後という形でできたのが『汁刑事』なので。まあ、どうでもいいですけど(笑)。」
今回初出演した『ピーカン夫婦』の尾藤も『ばかハコ』の尾崎の路線のキャラクターですよね。
「監督の元木さんは、大阪芸大出身で山下を介してもともと知りあいだったんです。『ばかハコ』のラインプロデューサーをしていたのが元木さんだったので、一緒に仕事をするのは今回で2度目です。」
初めて山下さん以外の監督とお仕事をされてどうでしたか?
「撮影中僕はほとんど何もいわれませんでした。監督はのはらさんの演出につきっきりで、ちょっと放っておかれてました(笑)。僕のキャラクターはあて書きだったというところもあるし、もうこれまでにも出来上がってしまっているところがあるので、監督はきっと大丈夫だと思っていたんだと思うんですけど。山下からは、しっかりしてていい先輩だったという風に聞いていたので、本当に現場でも頭の回転が速い方だなという印象です。」
出演の経緯は?
「フルモーションというレーベルの作品なんですけど、この作品の前作にあたる『脱皮ワイフ』の時に本田隆一監督によばれてちょっと出演させてもらったのがきっかけです。次の作品では出演してた別の登場人物が主人公になるというチェーンストーリーという形式で、そのまま『脱皮ワイフ』の尾藤が今度は主役でというのが今回のストーリーなんです。『脱皮ワイフ』に出たときは、まさか自分が次主演するとは思ってませんでした。」
ある種これまでのキャラクターは瞬発力の演技で勝負するところが大きかったと思いますが、今回は同じラインの役でも人間的な成長過程が描かれていたり、若干情緒的な芝居も要求されていましたよね。
「そういわれてみればそうなんですけど、撮影は4日でしたし、すごくハードで、とにかくセリフを覚えて頭に入れることに専念していました。これまではずっと脇だったので今回みたいに出っぱなし、ということは初めてですし。絡みのシーンも初めてだったので、体力的にも精神的にも疲れました。」
『汁刑事』でもかなりきわどいことしていますけど、やはり絡みのシーンは大変でしたか?
「やっぱり相手がいるので、のはらさんの肌に触れるので指先に力が入っちゃって…。後半やっと慣れてきたかな。と思ったんですけど観たらやっぱり自分ではいまいちカナ・・・なんて思ってます。」



今回の『ピーカン夫婦』の尾藤によって、一連の尾崎キャラクターはなんとなく幸福な終焉を迎えたかな?という気がするんですが、今後も機会があればこのキャラクターが出てくる可能性は?
「いや、もういいかなという気もしています。機会があれば是非これまでと違ったまったく別の役にも挑戦してみたいんです。この暴走キャラは好きなんですけど、やっぱり自己満足でしかないような気がして…。画面でみると落ち込むんですよ(笑)。だから本当にやってほしい!と言われれば喜んでやりたいところではあるんですが、内心は他の役もやってみたいと思っているんですよ。」
他の役を演じるシリアスな山本さんも見てみたいですが、やっぱり尾崎にはフォーエバーでいていただきたいですけど。実際お会いしてみた印象と役のあの印象はまったく違いますよね
「それはよく言われるんですけど、でも地元の友達に言わせれば一緒だよと言われるんですよ。不思議ですよね。演じているときは別に自分でも変身している気もなく、あんまり考えないで感覚で演じているんですよね。やってて気持ちいんですよ。」
演じているときはどこか知っている人とか何かをモデルにして演じたりしているんですか?
「それもあんまり自分でははっきりとわからないですね。なにかしら無意識のうちに色々と出てしまっているのかも。『ピーカン夫婦』の時は演技は田村正和さんで、と監督に言われました(笑)。あと人の癖とか観るの好きなので、そういうところが芝居にも何かしら影響しているのかもしれないですね。」
普段の会話でも、「この人よくこのフレーズ使うな」とかそういうことに気づくと可笑しくなってきますよね
「そうそう。「いかんせん」とか「このご時世に…」とかそういう言葉をきくと、うわー!と思ってうれしくなりますね。特殊な言葉ではないけど癖のある言葉の積み重ねで今までのキャラクターは出来上がっているのかもしれないですね。」
なるほど、怪優・山本剛史の秘密の一端がちょっと明かされた感じですね。どうもありがとうございました。

執筆者

綿野かおり

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作品紹介『ピーカン夫婦』