学校帰りに拾った木片で自分を絶対に裏切らない友達「モクメ」を作った少年。「モクメが本当に動いたらいいのにな…」と願いをこめる毎日だが、いつしか本当の友達ができ、少年がその人形をすっかり忘れてしまったころ、怪異はやってくる!!
 友達のいない孤独な少年と彼がつくった人形・モクメの悲しくも切ない友情と裏切りをリリカルに描いた清水厚監督の『ねがい』。
 ブキミ人形・モクメのその気持ち悪すぎる造型と、「友達になろう」といって主人公の少年を追って夜中に窓をたたくその健気な姿は、恐ろしくもあまりに悲しい。「楳図かずお恐怖劇場」の6作品の中でも、もっとも原作漫画を忠実に再現した本作は、大人には計り知れない(忘れてしまった)子供世界の摂理と、孤独や裏切りといった誰もがもつ人間感情を「恐怖」という視点から描き、作品のエッセンスを拡大し映画としての世界観を作り上げることに成功している。

 主人公の少年は、少年であるからこそ最も人間の本質に迫った行動をとり、そして彼を襲うモクメの恐怖は大人になった私たちをじわじわと子供世界の愛憎へと引き戻す。

※『楳図かずお恐怖劇場 ねがい』は、2005年6月26(土)より渋谷ユーロスペースにて公開!(同時上映は井口昇監督『まだらの少女』)






すごく忠実な作りでしたね。個人的には少年が窓に「ともだち」って指で書くあのシーンが再現されていたところが嬉しかったです。原作は映画にする前からご覧になってました?
「もちろん。僕らの時代は小学校のとき「まことちゃん」が流行ってましたからね。「ねがい」も読んだことがりました。当時、「まことちゃん」が異様にこわかった。楳図さんにはいえないけど、ギャグものなのに絵のタッチとかあのシュールな展開が少年の心には恐怖で・・・(笑)。すごい表情したりするじゃないですか、過剰な感じの。他には「漂流教室」とか楳図さんの怖い漫画はいろいろ読んでいましたけど、ギャグものの「まことちゃん」が一番怖かったなぁ。」

「まことちゃん」のあのハイテンションぶりにたじろぐのはわかる気しますが、具体的にはどういうところに恐怖を感じたんですか?
「「ひょえー!」とかいちいち反応が過剰なところとか、お母さんが化け物のような格好をして驚いて走って逃げていくところとかはよく覚えていますね。なんでしょう、漫画としてのギャップですかね。恐怖ものはこわいと思って覚悟してみているけど、「まことちゃん」はそうじゃないと思って読んでいるところからくるギャップでしょうね。ショッキングでした(笑)。」

いつもほとんどご自分で脚本も書かれていますが今回は村井さだゆきさんが担当されたものを映像化していますね。いかがでしたか?
「うーん、むずかしかったですね。村井さんの脚本は、セリフまわしも漫画に忠実で、漫画が描かれた当時の言い回しで書かれていたんですが、現代に生きる現代の男の子の話にしたかったので、それを成立させるためにはテイストが変わってしまうような部分もあったのでそこには気をつけて演出しました。脚本にない部分で僕が脚色したところは、漫画の原作にもなかった箇所で、主人公の男の子が学校からの帰り道にモクメを拾うっていうくだりの部分を膨らませたところです。帰り道に歩いていくうちに、いつもの帰り道とは違う路地に迷い込んでしまって、そこからだんだんと異世界に入っていって、そしてモクメに出会って…という不条理世界へ入り込んでいくみたいな。そういうのが好きなんです。」

あの流れははじめ淡々と撮っていますが、いつもと違う道を通ってからだんだんカメラの構図も不思議な感じになっていきますよね
「短編だったらもっとテンポよく見せたり、違う見せ方もできると思うけど今回は50分の作品なのである程度の世界観をみせないと観ている人に伝わらないかなと思いました。だんだん現実世界から人形が怪物化してしまう異世界にいくまでの「間」を丁寧に描きたいと思ったんです。」

異世界っぽい世界に入ってしまってからの主人公が帰る家は上空に暗雲がたち込めているというあの妖しさがいいですね
「ありがとうございます。今回CGの使い方にも気をつけていて、僕の作品は他の方の作品と比べてCGは少なめだと思うんですが、主に情景などの雰囲気づくりに使ったくらいですね。」




照明の使い方も独特で、画面の中でも陰影が印象的ですね。
「楳図さんの漫画を見て特徴的なのは、空がどよーんとしていたり、画面の端が暗く落ちているところとか、内容以外にもそういうところで楳図さんの世界観を表現できればと思いました。今回はデジタルビデオで撮影したんですが、カメラの性能がよくてなかなか影が作れなかった(笑)。だからとにかくライトをめいいっぱい当ててもらって、それでもだめなら編集の段階で絵をいじったりしています。」

あんなブキミな人形だけど自分ではそんなことみじんも感じてないという主人公の、「子供の目線」で描いた子供の世界の恐怖なわけですが、その一方で、2階の子供部屋で自分の子があんな人形に熱中していることへの母親の理解不能からくる恐怖もきちんと入っていますね。
「そこは意識はして作りました。でもあくまでも子供の世界のお話として成立させたかったんですが、あんまり母親の視点が入りすぎてしまうと物語がブレてしまうので、そこのバランスは注意したところでもあります。
一つ屋根の下に異物(モクメ)がいてそれが二階にあるというのは、『エクソシスト』からの恐怖映画のパターンで、その異物がいつ下に降りてくるのかという家族の恐怖ですよね。単に「子供の親」という脇役としての役割だけでなく、映画の中で恐怖を共有している存在として描いています。」

モクメの造型は漫画そのままで素晴らしいです。
「漫画のイメージそのままを再現することにそこはこだわりました。本当はもう少し小さいサイズにしたかったんですけど。」

子供の時って「モクメを作る」まではいかなくても大人からみると変なことにやたら熱中したり、わけわかんない物を死に物狂いで集めたりしがちだと思うんですが、監督にもそういう経験ってありますか?
「僕は人生40年が全部それですよ(笑)!子供の頃に親からいつも言われていたことは「落ちているものを拾うな」でした(笑)。ガラクタを拾っては捨てられ、拾っては捨てられしていましたね。僕にとってはゴミ捨て場は宝の山でしたよ。電化製品とかが捨てられてると特に嬉しくて、自分の基地に溜め込んだりして。昔の子供ってみんな自分の基地があったんですよ。学校の裏とか、大きな橋の下とか。犬のような(笑)」

今後の監督作品は?
「夏に一本撮影します。夏目漱石の「夢十夜」を十人の監督がそれぞれオムニバスで競作します。巨匠の監督さんたちも参加している作品なのでその中で作品を作るので、今から緊張してます。」

執筆者

綿野かおり

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作品紹介『楳図かずお恐怖劇場 ねがい』