4人の映画監督が“穴”をテーマに四者四様の穴映画で魅せてくれるオムニバス映画『穴』。盟友(名優でもある)山本浩司脚本、藤井尚之主演による本田隆一監督の「青春の穴」はなかでももっともコミカルかつ男のロマン、友情をSF(すこし・ふしぎ)テイストで描く傑作だ。サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』に出てくるような森を舞台にホラーあり、笑いあり、お色気ありの観客を楽しませる仕掛けがいっぱいにつまった作品は本田監督のお得意だ。
また、7月だけでこの『穴』を含めて監督作4本が都内の劇場で公開されるという偉業をつくる。「やっぱりずっと青春映画にこだわって作っていきたい」と語る本田監督にインタビューをしてきた。







—— まず最初に“穴”というテーマについてどう思いました?
本田「穴をテーマを掘り下げるというよりは、単純にギャングみたいのが出てくるちょっと不思議な話にしようと思って、それにどう“穴”を絡めていこうかなという感じでした。はじめに企画を書いた時に「もっと本田さんにとっての“穴”を考えて!」とダメだしされまして(笑)、そうして考えたのが先の見えない恐さ、暗くてどうなっているのかわからない不思議な感じっていうのを“穴”について思ったので、そういうことを描くことにしました。」

—— 穴の中の世界が描かれるのではなく、穴に入ったのにまた元の世界に戻ってきちゃうって面白いですね。
本田「穴の中が異次元っていう設定だと撮るのが大変だから、こっちに戻さないと(笑)。」

—— 脚本は盟友で名優の山本浩司さんですよね。
本田「もともと彼とは大阪芸大の同級生でずっと一緒に作品をつくっていて、僕が監督するとき山本くんが脚本かいたりスタッフしてくれたり、僕も山本くんが監督するときは同じようにスタッフで参加したりっていうのをやっていたんです。ここ数年全然組んでやってなかったので久しぶりにやろうってことになりました。山本くんはSFとか大好きなんで不条理な話とか得意なんです。あらすじはだいたい僕が考えて、そこから2人で話し合って、最終的に山本くんが脚本としてまとめました。」

—— 主演に藤井尚之さんがキャスティングされていますがいかがでしたか?
本田「プロデューサーの方から勧められて、僕は藤井さんのことは好きだったので『いいですね!』ってことでお願いしました。藤井さんもシナリオ読んで面白いねってすごくのってくれてすぐオーケーしてくれました。」

—— カーステレオから流れてくる音楽も藤井さんが担当していて、あの情けないギャングたちの雰囲気にすごく合ってるかっこいい曲でしたが・・・
本田「これはシナリオに“カーステレオから懐かしい感じの曲が流れてくる”って書いてあって、本当はGSって書いてあったんですけど、撮影の時まで何を流すか決めてなくて編集の時に音を入れようと思っていたんです。でもその音楽に合わせて軽くリズムをとるような芝居が入るのでやっぱり曲が決まってないとおかしいってことになって、どうします!?って話し合いをなんと撮影の初日にしてたら、藤井さんの方から今度発売になる曲でレコーディングしたのがあるんですけど・・・ということで聞いてみたら「おー!これで行きましょう!」ということになりました。藤井さんは台本を読んでこの曲が合うんじゃないかな?って考えてもってきてくれたんです。」

—— てっきり作品に合わせて作った曲かと思いました。藤井さんが自分でつくった曲に自分でノってる芝居をしているのって面白いですね。
本田「設定では藤井さんの役が「妙な音楽を好きなギャング」というものだったんですけど、それがいつのまにか自分が作曲したものになっているというのは裏設定としては面白いなと思いましたけどね。」

—— 舞台は森でしたが撮影はどちらで?
本田「あれは青木が原の樹海です。」

—— えっ!?それは恐ろしいですね。
本田「いや、けっこう普通でしたよ。奥深くみたいに映っていますけど実際はこっと行くとすぐ道があるようなところでしたし。全然、恐くなかったですよ。」

—— グラビアアイドルの松本未来さんが本人役で出ていて、山本浩司さん演じる白尾をセクシーなセミヌードで挑発しますよね
本田「実際それがオッケーなグラビアアイドルでなおかつ本当に自分の写真集を出している方ということで今回キャストを探しました。」






—— ギャングという設定、本田さん好きですよねー
本田「そそそ、もう「ギャング」って言葉だけでもう好きですね。ギャングって何?って実際なにやってるかわからないじゃないですか。今だったらカラーギャングとかそういう渋谷とか池袋とかにたまっているような恐い人たちがいるけれど、そういうのじゃなくてもっと古臭い感じの「ギャング」!彼らはぼくにとってオシャレな軍団ってイメージなんですよ。」

—— 本田さんのギャングは、ギャングだから殺した相手を埋めたりするんですが、なぜかそこでラーメンをダシから作ったりしちゃうんですよね(笑)
本田「山本浩司くんが演じた白尾は、もうピクニック気分なんですよ。死体捨てにいくとか関係なく、みんなで山に行くっていうのでウッキウキなんですね。変な奴なんです。」

—— でも山本さんていっつも童貞っぽい役ですね。モテモテのかっこいい役をあえてやらせてみようというのはないですか?
本田「童貞っぽい役がすごくはまるんだよね。そうじゃないもてる役やったらすごく嘘っぽくなるんじゃないかな。山本くんがパッと画面に出てきたとき童貞っぽい役だとすぐ納得できるし作りやすいけど、あれでスーパーヒーロー的なモテモテっていうのは演出とか他の部分でいっぱい作りこまないとむっずかしいんじゃないかなぁ。なかなかみんなチャレンジしないんじゃない?でも企画としては面白いかも。」

—— 『ずべ公同級生』もそうですけど、これもストーリーの起承転結のなかの一部を切り取って描いてますよね。
本田「なにかカッチリ起承転結するよりは、トップシーンからエキサイトしているっていうのも全然アリなんじゃないかと思うんですよね。そういう方が好きなんですよ。」

—— そういう断片を描くストーリーの時は、シナリオには描かれていない設定も考えているんですか?
本田「考えてあります。今回でいえば、香成という男を捨てにいくところからはじまっていますけれど彼は敵だったんです。」

—— あと気になったのが、みんなギャングっぽいスーツできめてるのにケイスケ1人だけなんでサラリーマンみたいなんだろうって。
本田「あれも裏設定があって、藤井さん演じるリーダーが「俺たちはみんなスーツでいこうぜ!」ってきめてる軍団なんです。みんな藤井さん演じるリーダーのことが大好きなんです。だからその兄貴がスーツ着こなしてるからみんなも真似してかっこいい軍団でいこうとしているんです。でもケイスケって奴は1人そういうオシャレセンスが無くって、みんながスーツ!スーツ!っていうから、なんかAOKIとかで適当にビジネスマン的なものを買ってきてしまった・・・というお話です。あいつはオシャレなモッズスーツとか見つけられない奴なんですよ。」

—— なるほど!あと「黒い悪魔」こと黒人が突然襲い掛かってきますが・・・
本田「殺した相手が穴に埋めたら姿を変えて襲ってきた、というのが基本の設定でしたが、何に姿を変えたら一番恐いかなってことで黒人になりました。だから最初いくつかあって、「オバサン」はどうか?とか。オバサン襲ってきても恐くないんじゃないかっていうことで黒人になりました。」

—— でも黒人ってアメリカにいるようなそういう人ではなくどちらかというとアフリカ人みたいな感じでしたが・・・(笑)
本田「木の枝にナイフつけて襲ってきたりね。あれは僕のアイデアじゃない!山本浩司が書いたシナリオに突然そう書いてあったんですよ。」

—— 穴に落ちそうになった山本浩司さんをみんなが足首をもって助けようとするシーンは大変そうでしたね
本田「あれは確か、助監督さんの足です(笑)。」

執筆者

綿野かおり

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