「見た人はね、『予想よりずっと良かった』っていうの。いったい、どんなの予想してたんだろうね。痴呆症の話だと、どうも暗〜いものを想像するみたいよ」(栗山富夫監督)。全国各地のデイプロ上映で三十万人を動員した「ホーム・スイートホーム」。好評の前作に続き、栗山さんは「ホーム・スイートホーム2 日傘の来た道」を監督。第二弾といえど話がリンクしているわけではない。痴呆老人というテーマはそのまま、今回はより身近な設定に落とし込んだ(ちなみに前作の主人公はオペラ歌手のボケ老人)。主演は財津一郎、柴田恭兵、その脇を石田えり、原日出子、平淑子、秋野太作ほかベテラン俳優が固めている。インタビュー中、監督ならの悔いが次々飛び出したものの、人間の情愛溢れる佳作になっていることは間違いがない。加えてちょっとしたユーモアもあり、今治の美しい自然があり・・・。デイプロ上映ほか、五月より全国各地を巡回する予定。あなたの町にやってきた時はぜひともお見逃しなく!!

 








−−パート2の構想はいつ頃できたものですか?
栗山監督 実話をもとにしてるんですよ。前作はデイプロ上映で全国を回ったんだけども、ちょうど松山の上映会に呼ばれた時にこの話を聞いたんです。
そのおじいさんはふらりとどこかへ消えて山に入ってしまうんだって。で、改造バイクで追いかけて連れ戻すっていうような生活。映画の中で散弾銃持って山入っちゃって猪を狩ってきたっていうのあるでしょ。あれ、ウソなんじゃないとか思うみたいだけど本当にあった話。

 ーー財津一郎さんと柴田恭兵さんのコンビがまた泣かせます。
財津さんにはねぇ、「監督、頭ボケてんじゃないの」って逆に言われましたよ。僕は彼の方がボケてんじゃないかなって思いながら撮ってたんですけど(笑)。今回のキャストって恭兵さん以外、仕事をご一緒したことのある方ばかりなんですね。
要するに、財津さんは十数年前の記憶ではもっとシャープだったとかいうわけですよ。でも、思い返すとね、連日38度なんですよ。あの暑さじゃ頭が働かなくなる。だから、僕のこれは悔いなんですけどあんな暑い時にオールロケで撮るもんじゃないなぁって(笑)。体がついてかないの。自分の記憶でも、私がクールで頭が冷めてればこのレベルではオーケーしないぞっていうのを、「あー、もういいや」ってね。
 
——そんなこと言っていいんですか!?フォローするつもりじゃなくて、個人的には感動に余る芝居だったと思うんですけど・・・。
後で見るとね、何故この芝居でオーケーしたんだろうって思えてくるのよ。どんな作品を撮ってもあるもんなんだと思いますけど、もう見るたんびに「あーあ、あそこ」っていうのが出てくる。
たとえばね、恭兵さんが原さん親子に会うでしょう。あれ、その前に伏線を作ってたの。シナリオの上ではね。空港に行く途中、恭兵さんがあやうく老人をひきそうになる。その時に親子が目に焼きつくっていう風にしようと思ったんですよ。でもね、スタッフが「つまんないシーンだ」とか言ってるわけ。うるさいよ、スタッフっていうのは(笑)。結局、撮らなかったんだけどもやっぱり足りなかったなぁ。映画が完成した後はそんな後悔ばっかりですよ。

 ——まぁ、そんなものかもしれませんね。
 あとね、ラスト近くのみかん畑の俯瞰、あのシーンってどうやって撮ったかわかる?

 ーーああ、あれはすごいショットでした。ヘリコプターじゃないですよね?うーん・・・(にやにやする監督を見て)なんだか話したそうですねぇ。
 ヘリコプターだったら風が巻き起こってあんなところまで上がれないよ。あれはね、ウィングカムっていう特殊なカメラを使ってるんですよ。もともとはサッカーとかフットボールなんかを撮影するために競技場で使うようなやつ。実は映画に使ったのは日本で初めてなんですよ(監督、ちょっと得意気)。ワンカットで撮ってるんですけど、ワンカット二百何十万とかするのね。
あの場所って谷間でしょ。こっちの山の端とこっちの山の端に大きな柱を立てて、その間を230メートルくらいのワイヤーを張り巡らして、そこにカメラを吊るしたの。ティルドもできる、パンもできる小型カメラを据えてね。実際の撮影は地上のモニター画面で確認しながらの作業。ラジコン操縦みたいな感じだった。

 ——準備だけで相当かかったのでは?
うん、大変だったね。残念だったのは途中でカメラの影が映っちゃったの。全方位だから。ドキュメンタリーなんかだとヘリコプターの陰が映ってるでしょう。あれと同じで。で、みかん畑の俯瞰にはワンカットはさまざるを得なかったの。






——今治市の全面協力を受けて撮影。行ってみたくなりました。
 いいところでしょ。劇中のスナックも撮影当時のままでまだ残ってるはず。今治の市長さんが何年も前から映画を撮りにきてくれないかって、頼まれてたんです。まぁ、「釣りバカ〜」を撮って欲しいと思ってたんだろうけど、9本もやってるからね、私はもう撮らないって言ってたんです。だって、いくらなんでも飽きるでしょう。今回、企画が持ち上がって市長さんに「痴呆老人の話でもいいですか」って聞いたら、「そっちの方がいいです」って言ってくれたんです。

——蝉の声を消すにも市民が協力してくれたそうですが。 
 今張市フィルムコミッションの面々はね、三十人くらい待機して蝉追い係(笑)。笑っちゃったんだけど、彼ら釣り竿を持ってるんだよ。もちろん、追ったって追ったって蝉はやってくるんだけど、追わないとどんどんやってくる。蝉がね、一番簡単に逃げる方法知ってる?

 ——いやぁ、わからないですねぇ。
蝉っていうのは羽こすり合わせて鳴くから水かければいいんだよ。雨の時は声しないでしょ。

 ——そうか、そうですね。今治市の皆さんは出来上がった作品を見て何と言ってましたか?
「予想より良かった」って。一人じゃないよ、何人にも言われてねぇ。どうも痴呆老人の話だから「暗〜い映画になるかと思ってた」とかね。でも、どういうの想像してたんだろうねぇ(笑)。

執筆者

寺島万里子

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