『ジャンダラ』は、仏教国としても知られるタイのベストセラー小説「ジャンダラの物語」を、タイ映画の雄・ノンスィー・ニミブット監督が映画化したものだ。この原作は、タブー視されてきた性の問題を取り上げた小説で、1964年の発表当時は掲載紙に抗議が殺到したという。本作も公開され物議を醸している。
 クリスティ・チョンは、その中で主人公ジャンに深く関わっていく若き義母クンビーを演じた香港を拠点とする女優である。本作のクランクイン当時、香港では、大胆なベッドシーン演技が要求される本作への彼女の出演がたいへんな話題となった。
 公開を前に来日したクリスティは、カナダ育ちのインテリジェンスでてきぱきと質問に答えるスマートな女性で、一女の母とは思えないスタイルのよさと、セクシーでキュートなファッションで取材陣を魅了。本作への出演決定の理由、また女優観、タイ映画の現場についてなどを語ってくれた。

$blue 『ジャンダラ』は、5月31日よりテアトル新宿にてロードショー$





——クリスティさんは、このクンビーという役をどうとらえて演じられましたか?
「彼女は西洋化された人ですね。すごくファッショナブルだし、海外で勉強したこともあり、1930年代のタイではひじょうに先を行っていた人だと思います。この作品の中で重要な役割を果たしていて、また、とても孤独だったとも思うんですね。ゆえに注目を得たいという気持ちもあって、自分が欲しいものはなんとしても手に入れたがった。恨みがましいところもありますが、悪い人ではないでしょうし、ジャンダラの人生にとって重要な人だったと思います」
——クンビー役のオファーをどう受け止められましたか? 原作を読まれていたら、ぜひ感想を聞かせてください。
「本は読みました。ひじょうに描写的ですね。タイという国は保守的ですが、30年前にこういう内容の本が書かれたということにひじょうに驚きました。ニミブット監督の前作はひじょうに芸術的な作品でしたし、製作のピーター・チャンのことも知っていて、このふたりであればひじょうに芸術的な仕上がりのものになるだろうと思いました。私がクンビーの役をやりたいと思ったのは、これが女優として試される役だからです。今までは、可愛いイノセントな役が多かったので、クンビー役のためにはまったく違う努力をしなければいけない。まず、言葉を学ばなければいけませんし、いろいろなことをする必要がありましたが、私はもともとタイが好きなので、いいんじゃないかなと思いました」
——クリスティさんの場合、役柄を自分に近づけるタイプですか? それとも、自分が役に入っていくタイプでしょうか?
「私は、シナリオを読みながら、私がクンビーだったらどうするかということを常に考えていました。私はセンシティブなほうなので役に入っていくのは楽なんです。クンビーは——女性だったら誰でも経験することかもしれませんが——すごく孤独で注目や愛をとても欲しいと思う時期にきているんですね。それで、精神的に不安定になっていたと思うので、ある種、ゲームをしたわけです。そして、自分がまだ力があるとかいうことを見せたかったんだと思うんですが、なぜかそれが私自身のなかから自然に出てきたんです」






——クリスティさんは香港で何本も映画を撮ってらしたわけですが、タイ映画の撮影現場はいかがでしたか?
「素晴らしい経験でした。撮影の準備段階に関しては香港よりもっとずっといいですね。香港は、ひどい場合には撮影当日までシナリオができていないことがあるのですが、今回は脚本もしっかりできあがっていたし、ストーリーボードもあったし、そのストーリーボードにはきれいな絵が添えられていました。タイの人は、すごくアーチスティックで細かいところに気を配る人たち。アメリカだと10時くらいになると帰ってしまうんですが、今回いっしょに仕事をしたタイの人たちは勤勉で、最後まで終わるまで帰らない人たちだったんです。すごく楽しく仕事が出来たので、また機会があればタイの人と一緒に仕事がしたいと思っています」
——タイ語は、広東語や北京語よりも難しかったですか?
「タイ語は、本当に映画のために勉強しましたので、言葉自体は現代人にはわからないような古い言葉です。撮影の数週間前にタイに入り、演技のコーチについて話し方だけでなくお辞儀の仕方とか身のこなしも勉強しました。以前にも外国語で映画を撮る経験はあったのでセリフに邪魔されないで演技することもできたし、そんなに大変ではなかったですね。私はもともとベトナム語はできるので、ベトナム語に似たタイ語はそんなに難しくはなかったです」
——タイでの撮影で、現場で心に残ったエピソードがあったら教えてください。
「まず、ニミブット監督のこと。とても尊敬しているのですが、監督はとても敬虔な仏教徒で、うまくいかないシーンがあると外に出てお線香を炊いてお経をあげるんです。すると、その次のシーンは奇跡のようにうまくいくんです。
 難しかったのはラブシーンです。15才の男の子とのシーンで、言葉はお互いに通じないんですけど、お互いに尊敬しあっていて演技を始めると化学反応のようにすごくうまくいきました。
 いちばん記憶に強く残っているのは、女性とのラブシーンで、相手はタイの女優さんだったんですけど、なぜか女の人とのほうが楽に思いました。シーンの官能性が引き立ったのではないかと思いますけれど、撮り終わって皆がすぐプレイバックが見たいという感じでした。香港から来ていたレポーターは、あのシーンの撮影を見るためだけに24時間ねばっていました」






——物語は1930年代ですけど、30年代の髪型やファッションには気を使われましたか?
「監督が時代を再現することにものすごく気を遣っていて、家も全くその当時のままでなくてはいけないし、俳優も髪型などひとつひとつがその時代を表さなければいけないと言っていました。私の役は成熟した女性で、そのためにメイキャップや髪型だけではなくて、本当にタイ人だと思わせるためにかなり肌も焼きました」
——30年代のタイのファッションは、クリスティさん自身はどう思われますか?
「美しいですね。タイシルクはとても手触りがいいし、着心地もいいんですね。手描きのものもりますし。私自身もともと興味がありました。1930年代というと髪型は皆同じなんですよ。私は役にはまっていたいので、そのころの髪型をすることも、体重を増やすことも可能だと思っていました。衣装は本当に美しいんです。私は、タイに行くと、いつもタイシルクを買ってきます」
——役作りのためにかなり体重を増やされたということですが、体重のコントロールはたいへんでしたか?
「体重を増やすのはとても簡単だったんです。炭水化物やアイスクリームとか甘いものをいっぱい食べると、あっという間に増えてしまいます。カロリーも気にしないで、運動もしないでいるとあっという間に増えてしまうんですね。減らすのがたいへんでした。この映画は、18ヶ月前に撮ったんですけど、最後の5ポンド(2.2キロ強)は最近やっと減らすことができました。私は香港のスリミングセンターのCMキャラになっているんですけど、そこでだいぶ助けられました」
——実際、何キロくらい増やしたんですか?
「10キロくらいです」
——タイや香港では、この映画は過激すぎるのではないかという記事も出たようですが、クリスティさん自身はそれに対してどのように思われたでしょうか?
「もしかしたら、この映画は、香港の人たちにとっては悲しすぎる内容かもしれないですね。というのは、香港はひじょうにペースが速く、皆忙しいしプレッシャーを感じて生活しているので、軽くておかしくて笑える娯楽映画を求めているようなので、この『ジャンダラ』のようなものはちょっと内容がきつ過ぎたのでしょう。近親相姦ですとかレイプ、中絶などのタブーを扱っているので、香港の人たちはそういうものに心を閉ざしているんじゃないかなと思います。もし、そういうことがあっても彼らは隠してしまって告白することがないので、そういうものを目の前に出されてショックだったのではないでしょうか。でも、私自身はあまり気にしてはいません。というのは、この役を演じるチャンスが与えられましたし、ひじょうに芸術的な作品を撮る監督とプロデューサー人でしたのでポジティブに考えています。今回の来日で日本の方とお話をして、日本の方はもっとオープンなので、香港の方とはぜんぜん違う反応をしてくれるのではないかと思っています」






——月並みですけど、その美貌の秘訣は? 映画と違って現代的な方なのでびっくりしました。
「美しさというのは内側から出てくるものだと考えています。ですから、自分の内面がすごく幸せであれば、その幸福感が外に出てくるのだと思います。と同時に、私は水をたくさん飲みますし、8時間は眠るようにしています。
 クンビーと私が違うというのは、メーキャップと髪型のせいもあるのでは? もっと自分に挑戦する役に取り組みたいですね。たくさんの努力を要する役に興味がありますので、知的に障害のある人とか精神的に障害のある人の役もやってみたいですし」
——クリスティさんは、セクシーな女優とよく言われるようですが、セクシーとはあなたにとって?
「私は自分で自分のことをただのセクシー以上のものに見られたいと思っています。セクシーさとは、自分の身の構え方とか自信、野望、そういうもの。そういうものを持っている人を見ると、私はセクシーだなと感じます。ある人は、スカート丈が短いとセクシーだと思うかもしれないんですけど、私にとっては目に見えないものだったり感情に訴えるものだったりするんですね。家では、私はひじょうにカジュアルでナチュラルな格好をしているんですよ」
——目標にしている女優はいますか?
「香港のジョセフィーヌ・シャオとか、ミッシェル・ファイファー、ジュリア・ロバーツ。尊敬している女優は年中変わるんです。年を重ねる毎に演技力がついてすばらしくなっていくなと思う方がいて、それはメリル・ストリープですとか、バーブラ・ストライサンド、キャメロン・ディアス。俳優として、人生経験を重ねていくことが演技力を磨く上でいちばん大切なことではないでしょうか。いろいろなタイプの女優さんを尊敬するのは、自分にとってプラスだと思います」
——ジャッキー・チェンの新作に出てらっしゃるとか?
「ジャッキー・チェンの映画は『ハイバインダー(仮題、原題:The Medallion、日本公開予定)』というアクション映画なんです。ひじょうに素朴なイギリスの主婦の役で、夫がスパイなんです。悪役に家を襲われて、その途端に彼女はただの主婦から変身して銃を片手に蹴飛ばしたりするんです。私はジャッキーの大ファンだったのでこの映画に出れてすごく嬉しく思っています。この映画をやるときに、泣いて助けてもらう役ではなくて、ジャッキー相手に戦える役にしてくださいということはお願いしました」
——日本映画でお好きな作品はありますか?
「最近のはあまり見ていないんですけど、坂本龍一が出ている映画を見ました。あとは、自分の娘に見せるために『蛍の墓』。日本のアニメには感情的にすごく突き動かされるものがあって、ああいうアニメは何度見てもいいです。日本語版を買ってしまったので言葉がわからなかったんですけど、それでもすごく感動しました」
——最後に、これからこの『ジャンダラ』を見る日本の観客にメッセージをお願いします。
「心も頭もオープンにして見てください。そして、ノンスィー・ニミブット監督の作品として楽しんでいただきたいし、私のことも知っていただけると嬉しいと思います」

執筆者

みくに杏子

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