$ROYALBLUE 男の人と何か諍いがあると
“生理を経験してから言えよ”
と思いますね$
 生理のたびに自殺者を目撃して失神してしまう西原ゆかり25歳。失神のあとは高熱を出し、坐薬をうつのが常だ。そんな彼女が、32人目の自殺者についにキレる…。『モル』の監督と主演の両方をこなしたタナダユキ監督は、見かけはすずやかな美人、中身は肝っ玉のすわった九州オンナであった。



−−映画を撮ろうと思ったのはなぜですか?
「映画が、自分にとって一番、言いたいことを言いやすい手段のような気がして。たとえば舞台には舞台の良さがあると思うんです。でも映画は、より多くの人と同時にコミュニケーションが取れるんじゃないかと。
 でも撮り方が全くわからなかった…。で、イメージフォーラムが一番授業料が安かったので通うことにしました。
 途中、授業料が足りなくなって、日雇いの作業服を着るようなバイトもしましたよ。木材を運んだり、掃除をしたり。面白かったです。左官の技を持ったおじさんを見て“手に職があるってスゴいな”と思ったりして」
−−映像の技術を学んだ時に、タナダさんが得た一番大きなものは?
「心に残ったのは“私が映画を撮らなくても誰も困らない”ということです。それを踏まえた上で、それでも撮りたいものがある場合にどうするかという…。
 けっこう一人よがりになりがちでしょう、作品を作る時って。どこかで“自分なんかは撮らなくても誰も困らない”という醒めた目を、常に持つことが必要だと思うんです」
−−クールですね。“それでも撮りたいものがあった場合に撮る”わけですね。
「ええ。だから卒業して三年間、何も撮らなかったんです。フツーの生活をしていました。一人旅をしてみたり。フランスとポルトガル。あと北海道にも行った…うに丼が美味しかったですね(笑)」




−−“撮りたい想い”が生まれてきたきっかけは何だったんでしょう。
「三年のうちにいろいろあって…。具体的なことは言いたくないんです。“私はこういう経験をして、こういう想いで『モル』を撮った”と押しつけたくはないので。いろいろ言うと作品の見方も変わってしまうでしょうし」
−−わかりました。では『モル』のモチーフである“生理”と“坐薬”。監督は、このふたつとどうつきあってきましたか?
「坐薬はつきあったことがない(笑)。生理は“なんだか理不尽だな”とずっと思ってきました。
 今までにも“生理”を扱った映画はありましたよね。でも女性監督の生理の撮り方は嫌だったし、男性監督が生理を扱うと妙に神聖化されたり、逆に“ボクのトラウマ”みたいに扱われたりする。そういうことへの反発心があって、私は“ごく普通のこと”として生理を撮りたかったんです」
−−理不尽だと思いますか、やっぱり。
「よく、男の人はロマンチストで女の人は現実的だとか言われるじゃないですか。そうであるとすれば、原因は“生理”じゃないかと。
 女の人はだいたい10歳から15歳のあいだに生理が始まりますよね。それはかなりショッキングなできごと。私の頃は性教育が小学5年か6年くらいだったから、よく知らなくて、初潮が来た時“死ぬんだ”と思いましたもの(笑)。
 10歳、15歳なんて全然子供でしょう。それなのに、毎月ああいう現実的なことが起こるんだから“女が現実的だと責められてもしょうがない”と思うんです。“だってパンツ汚れちゃうもん”みたいな(笑)。
 まあ“生理”って大変は大変だけれど、それをごく普通のこととして扱ってみたいなと思いました」
−−『モル』を見ると、生身の女の子の感覚が改めて感じられますよね。“そ〜だよね”って。主人公のゆかりが“男にも生理があればいいのに!”と言っていたでしょう。その通りだと思いました。
「やっぱり男の人にも生理があった方がいいと思うんですよ。一生のうち半年でいい、体験してほしい。そうしたら、もっと男女の諍いが減ると思うんですけれどね(笑)。男の人が何か言っても“生理を経験してから言えよ”みたいな感じ(笑)」


−−坐薬はどこから発想が生まれたんですか?
「この話を考えた時に“より情けない女ってどんな風だろう”と考えたんです。で、生理中でタンポンとか入れて、お尻に坐薬もつっこんでたら最悪だろうなあと。そういう下品な発想から“よし、坐薬だ”と思いました」
−−では“生理中に限って自殺者と目が合ってしまう”という設定はどの辺から?
「きっかけは、私が実生活で体験したことなんです。電車から外を眺めていたら、ビルの小窓に男の人がいたんです。で、目が合ったのでパッとそらして、もう一回見たらいなかったんです。多分、トイレの窓だったんだと思うんですけれど(笑)。
 これがもし自殺だったら、目をそらした一瞬の間に彼が飛び降りたとしたら…という風に想像しました。なぜ私が見てしまうんだろう、彼の一番最後の表情を。家族でもなんでもないのに。何か意味があるんだろうか…。そういう風に考えまして。
 さらに、何かに限定して“見てしまう”と設定したほうが面白いかなと思いまして。で、グロいけれど血で血を洗うみたいな…(笑)。女の人には月一回あれがある。じゃあ、期間限定で見せてみようと。生理中に自殺者を目撃し坐薬うって。うわあ、もう最悪!」
−−生命の源である生理という現象が起きている時、自殺者と目が合う。そこに、生と死とのコントラストが?
「そう言われるとそうですね(笑)。この映画で一番言いたかったのは、別に生理でも女でもない。“生きる”とか、そういうことだったと思うので。“死ななくてもいいんじゃないか”とすごく思うので。
 ただ、いろんな人のいろんな受け取り方があるから。観た方がどう思ってくださるのか、私はとても興味があるんです」





−−あと、主人公が“人をうまく好きになれない”と言ってますよね。これもとても心に響く言葉です。
「そういう人が多いんじゃないでしょうか、今。私の周りでも多い。もうちょっと素直になればいいんだろうなと思いますけれど。甘えベタな女の人が多いですよね」
−−そして『モル』というタイトルの意味、映画の後半でわかりますね〜。“モル沸点上昇”のモルでもなく…
「そう。“生理がモレるの『モル』ですか?”とよく聞かれるんですが。実は…」
−−映画制作中のエピソードを伺いたいんですが。特に大変だったことはどんなことですか?
「全部大変だといえば大変だったし、全部楽しいといえば楽しかったです。笑いっぱなしの現場だったんですよ。カメラマンが笑って動いちゃうから“撮り直し!”みたいな。
 主人公ゆかりと彼氏との乱闘シーンも、本当におかしかったので(笑)。あんなケンカ、ありえないですものね。で、頭に血をたらしたまま、私が指示を出したりするわけじゃないですか(監督兼主演なので)」
−−主人公と目の合う自殺者、たくさんでてきますが。
「自殺者でワンシーンだけ映る人たちは、通りすがりの人に“お願いしま〜す”と言って出演してもらいました」
−−通行人の方々にしては、いい表情してましたよね。
「そうですよね。一応、厳選したので。あの三倍くらいの人を撮って、より死にそうな表情を厳選しました(笑)」
−−撮影中に一番感動したことは?
「薬局のオヤジ役の人と、主人公のお母さん役の人はご夫婦で漫才をなさっているんですけれど。お母さん役の人が、こちらは何も指示してないのに“ふたつシーンがあるから一応エプロンや着替えを持ってきたわ”と言ってくれたり。薬局のオヤジ役の人が“この画角で撮るから上半身しか映らない”と言っておいたのに“薬局のオヤジが履くのは革靴じゃないと思って、サンダルも持ってきました”なんて言ってくれて。やっぱり感動でしたね」


−−今回、監督と主演を両方なさって、かなり大変だったのでは?
「大変でした〜。監督は一番冷静でいなきゃいけないし、現場で指示もしなきゃいけない。でも自分も演技しなきゃいけない…。北野武さんとか、毎回、監督と出演をなさっていて、ホント偉大だなあと思いました」
−−演技の勉強もなさったことがあるんですか?
「高校の時、演劇専科みたいな所に行ってい たんですけれど。でも全然演劇らしいことはやってない。先生が密教にハマっちゃってて(笑)。
 授業で密教の修業をやらされて、五体倒地を泣きながらやってました。五体倒地って、腹ばいで呪文を唱えながら自分の身長の分だけ進んでいくんですよ。クラスメイトみんな、泣きながらやっていたので“これは笑わせなきゃいけない。どうしたらいいか”と考えましたね。で、わざとスベってコケてみせたりして」
−−その頃からエンターティナーだったんですね。では、これから『モル』を見る方々にメッセージを!
「見てください! 上映されている映画館に、私、毎日いますので。舞台挨拶やトークショーを毎日やろうと思っているので、それも楽しみに来てください」

  取材・構成/かきあげこ(書上久美)

執筆者

かきあげこ(書上久美)

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