2000年秋の東京ファンタでの衝撃から1年4ヶ月、遂にあの『聖石伝説』が公開されることになり、公開を約2週間後に控えた2月26日、台湾から黄強華監督、製作とオリジナルの声優を務める黄文擇、主題歌・音楽の伍佰(ウーバイ)の3名による来日記者会見が開かれた。
『聖石伝説』は、台湾伝統芸能の人形劇“布袋戯(プータイシ)”にSFXを取り入れた手法で作られたテレビシリーズ“霹靂布袋戯(ピーリー・プータイシ)”の劇場版。古い形式の布袋戯は、ホウ・シャオシェン監督の『戯夢人生』で主人公の生業として紹介されたが、ここでは21世紀の超現代的、ハイパーマリオネーションと呼ぶにふさわしい最先端の、しかし伝統あるエンタテイメントとして展開される。
 ご当地・台湾では、2000年1月に公開され、その年の国産映画総興行収入1位(日本円換算で約三億5000万円)、初日動員記録1位を打ちたて、あの『タイタニック』に匹敵する大ヒットとなっている。
 黄強華、黄文擇の2名は、代々布袋戯芝居を生業としてきた家に生まれた兄弟。彼らの作り出す霹靂布袋戯のアクションは、広大なオープンセットにワイヤーアクションまで入り、香港映画のそれを凌ぐほどの迫力を持つ。それだけではない。兄・強華の筆による脚本、“八音才子”との異名を持つ弟・文擇の声音で表現されるキャラクターの数々は、それぞれ独立したファンクラブができるほど個性豊かだ。
 主題歌・音楽の伍佰は、この『聖石伝説』のサントラ、そして伍佰& China BlueとしてのCD「夢の河」の日本盤リリース(3月20日ロックレコード)を控えた来日になるが、キング・オブ・ライブと呼ばれるロック・バンド“伍佰& China Blue”を率いる台湾ロック界のスーパースターだ。
 会見は、わずか30分ほど。飛行機嫌いで初めて国外に出たという黄文擇、日本のマスコミの前に出るのはファンタ以来になる黄強華を、年少者にあたる伍佰が立てながら進行している、そんな印象を受けた。

$blue 2002年3月16日シネマスクエアとうきゅうにてロードショー$







——皆さんそれぞれに伺います。布袋戯の魅力を教えてください。

黄文擇 布袋戯は台湾の民族芸術です。ストーリーは武侠(編注:中国武術の武術家の世界を舞台にしたもの)を主としていますが、そこに含まれるテーマ性はものすごく幅が広いものです。男女の情愛から友情、親子の情、そういった現実の生活に身近なテーマが展開されています。そういう意味では、布袋戯は娯楽性だけではなく教育性もあって、布袋戯を見ることによって、いろいろなことを学ぶことが出来ます。人としての生き方も布袋戯のなかから学ぶことが出来るということで、台湾での人気があると思います。日本と台湾はたしかに違いますけれども、文化的には相通じる土地。考え方も通じるところがあると思いますので、日本の皆様にもきっと受け入れてもらえるでしょう。

黄強華 布袋戯は、台湾では非常に長い歴史を持っています。おそらく何百年という歴史があると思います。今日までの社会の変化に従い、内容に改良を加えられてきました。私どもは霹靂の作品(テレビ・映画)のすべてで、いろいろな新しい試みを行い、常に活力を注ぎ込んでいます。特に、今回の映画では、伍佰さんを招いたことがそうです。常に努力を重ね、常に新しい試みをするということが、台湾で受けているのではないでしょうか?

伍佰 僕は、子供のころから本当にたくさんの布袋戯を見てきています。映画を初めて見に行った年の頃には、既に数え切れないほどの布袋戯を見ていました。縁日などがあると、椅子を持って行って見るんです。小さな子供のころは、人形を買って家で見てきたのをマネして演じたくらいです。テレビで人気が爆発したときは、山奥に篭って登場人物のようにカンフーを訓練する人が出たり、政府が放映を禁止したり、そういう騒ぎになったほど。それくらい人気があり、人々に影響力があったのです。
 なぜそんなに魅力があるのか。それは、常に社会の進歩に従って新しく改良されていたからではないでしょうか? 本当に、昔は小さな所でお囃子でやっていたのに、今では野球チームの話や帽子を被ってスーツを着ている人形もあるそうです。常に時代の進歩に従って発展してきた。こちらの黄兄弟のご一家、特にお祖父様は国宝級と言われている人です。そういうご一家の努力で、常に発展してきました。とても得がたいことだと思います。今回、僕が映画で曲を作るということ、これもたいへん面白い試みだと思います。常に新しいものを求めるところ、それが布袋戯の魅力ではないでしょうか?

——伍佰さんに伺います。いつもは4人のバンド編成で音楽をやってらっしゃいますが、今回の『聖石伝説』では上海交響楽団が加わりました。このことは曲作りに何か影響を及ぼしましたか? 歌詞が北京語(標準的な中国語。台湾の公用語)ではなく台湾語(台湾で多くの人が日常的に使用する言語)である理由は?

伍佰 まず。この布袋戯の音楽について説明します。布袋戯の音楽は、昔から常に改良され新しいものを作ってきたという歴史があります。今回、この映画の音楽を作るにあたって、黄さんたちとも相談しました。「ディズニー映画のようなスケールの大きな音楽が欲しい」ということでしたので、僕のほうから「では、交響楽を使ったらどうか」と言ったのです。交響楽を使うのだけど、もう少しリラックスした音楽も欲しい。そういうことを踏まえて何曲が作りました。
 歌詞ですが、布袋戯はもともと台湾語の文語のセリフが多く使われていますので、歌詞も文語調でいきたい、と思いました。それで、台湾語の文語にはどんなものがあるのか調べ、歌詞を作ったわけです。








——黄文擇さんは、今回、いったい何人くらいのキャラクターの声を演じ分けたのでしょうか?

黄文擇 全員の声を担当しています。何人の声ができるかというのは、自分でも記憶にないのです。簡単に言いますと、5種類のキャラクター分けというのがあります。男の主人公、女の主人公、武将、年寄り、道化——だいたいこの5つのキャラ分けで演じています。

——観客に、どういうふうにして見てもらいたいか、どういうことを感じていただきたいかお願いします。

伍佰 この映画音楽を作るとき、僕は布袋戯の人形と考えずに人間とまったく同じであると、感情もあり血もあり涙もあるとまったく生きた人間と同じ血と肉があると考えました。そういう人物たちの物語とに音楽を付けたんです。登場人物の中で青陽子(セイヨウ)という、主役・素還真(ソカンジン)の弟分がいるのですが、彼の最後のほうのシーンは本当に感動的で、あのシーンにつけた音楽はとてもよかったのではないかと自負しています。

黄強華 私は脚本の立場から言います。やはり人形ですので、どうしても顔の表情というのは乏しくならざるを得ません。それを補うものは何かというと、ストーリーだと思うんです。たしかに中国に昔からある武侠ものの世界を描いている訳ですけれども、武侠の世界だけではなくて、父と娘の内心の葛藤——親孝行をしたいけれども、その父についていけないという葛藤や矛盾というものも描いています。そういう意味では、人としてどうあるべきかという啓発性も込めています。

黄文擇 まず、感謝しているのは、脚本ですね。オリジナルの脚本が、私の声音の技を発揮する空間を与えてくれたということ。そして伍佰さんの音楽。この音楽が人形の乏しい表情に喜怒哀楽をつけるたいへんな助けになったこと。それがとてもよかったと思います。『聖石伝説』をご覧になれば、きっと布袋戯の魅力とは何かということをお分かりいただけるでしょう。布袋戯は、人間の実写映画とアニメ映画のちょうど中間に位置します。実写映画のような立体性がある一方で、アニメのように縦横無尽に空間を使うことができます。両方の長所を兼ね備えていて、そこがいいところです。どうぞよろしくお願いします。

執筆者

みくに杏子

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『聖石伝説』公式サイト
『聖石伝説』台湾公式サイト(日本語あり)