昨年の8月に全米で公開されると同時に、その魅力は映画ファンの間に口コミで広がり興行収入トップ5内を8週連続でキープする息の長いヒットとなり、続いて公開された各国でも大ヒットを記録している『アザーズ』が、日本でも陽春より全国ロードショー公開となる。
 霧深い孤島の館を舞台に、そこに暮らす母親と二人の子供たちが体験する不可解な出来事を、静かにしかし人間心理の奥底を抉り出すかのような冷徹なタッチで描いた本作を監督したのは、『オープン・ユア・アイズ』で第11回東京国際映画祭グランプリを獲得したアレハンドル・アメナーバル。29歳の若さでありながら、ゴシック・ホラーの伝統にのっとりつつ、恐怖とともに人間の持つ悲しみをも描き出し、このジャンルの新たなマスター・ピースを完成させたのだ。
 本作のロードショー公開に先立ち、1月11日にアレハンドル・アメナーバル監督とプロデューサーをつとめるサンミン・パークさんが来日し、パークハイアット東京にて記者会見が行われ、ミステリアスな作品を巡っての質疑が行われた。以下、その模様をお伝えしよう。

$darkred ☆『アザーズ』は、2002年陽春より丸の内プラゼールほか全国松竹系劇場にてロードショー公開!$









Q.『The Others』という原題が素晴らしいと思いますが、これは着想の段階でついていたのでしょうか?それとも、脚本段階で決まったのでしょうか。
アレハンドル・アメナーバル監督——脚本はスペイン語で書いたのですが、その段階では南米という設定で『The House(家)』というタイトルがついていました。それがプロデューサーと話をしている時に、近いタイトルの別の作品があることから変えて欲しいという要望があり、色々考えた結果自分が数年前に書いたシノプシスのタイトルをこの作品用に持ってきたのです。だから、元だったそちらのタイトルを今決めているところです。

Q.監督の作品はご自身の作曲された音楽の方も魅力になっていますし、また、作曲家ジョン・ウィリアムスの作品がお好きだったと聞いていますが、音楽的バック・グラウンドについてお聞かせください。
アメナーバル監督——子供の頃、一番最初に感銘を受けサウンド・トラックを聞いていたのは『スーパーマン』でした。そして、ジョン・ウィリアムスの他の作品も聞きました。『シンドラーのリスト』や『7月4日に生まれて』などが気に入っています。音楽のバックグラウンドは、子供の頃から勘に頼ってキーボードで作曲はしていました。自分が作った物語に、音楽をつけていくというプロセスであり、所謂音楽教育というものは受けておりません。それでも、すっと作曲はしてたんですよ。

Q.本作は、トム・クルーズ製作のハリウッド進出作品だと話題になっていますが、そのことが映画作りの方針や作品の仕上がりに変化をもたらしましたか?
アメナーバル監督——確かに、トム・クルーズ製作、ニコール・キッドマン主演、ミラマックス社の出資ということで、この映画の運命というものは変わりました。でも、映画のビジョンや性質はそのままにしておくという約束が取り付けられてましたので、私はハリウッド映画であるとは全然思っていません。常に討議されたのは、よりよい映画にしていくという話であり、商業的な作品にしていくということは一切思っておりませんでした。ニコール・キッドマンなどは、自分の役をさらに複雑なものにしたい、感情面で幅を持たせたいと主張しましたし、配給の面では確かにハリウッド的かもしれませんが、性質上はそういったものではありませんし、僕のこれまで作ってきた作品では一番バジェットは大きいですが、ひじょうに親密感のある撮影でした。

Q.サンミン・パークプロデューサーに、プロデューサーから見たアメナバール監督の魅力を教えてください。
サンミン・パークP——私は『テシス』でアメナーバル監督作品をはじめて見たときに、一目惚れならぬ一フレーム惚れだったんです。彼のアプローチは、できるだけ余分なものを削ぎ落とす、シンプルかつエレガンスなものだと思いますし、『アザース』はまさにそれを証明している作品だと思います。彼は新しいこと、今までに無かったことに挑戦することに物怖じしないタイプで、ヒッチコックの再来であるとか様々な声がありますが、彼は自分の声、自分のビジョンを持っているかただと思います。








Q.劇中ベットの上に横たわる死体が監督であるとの噂がありますが、そうだとするとそのあたりはヒッチコックの影響なのでしょうか?
アメナーバル監督——おっしゃるとおり、死体の写真のうち1枚に写っているのは、私と二人のルーム・メイトでその一人は『パズル』を監督したマテオ・ヒルです。『パズル』でも冒頭のカフェの場面で、二人で店に入ってくる役で出ていたんですよ。この映画の出演場面に関しては、スペインでは私の顔を知っている人が多いので、冗句であることが簡単にわかってしまうのも嫌だったので、かなりのメイクを施しています。確かにヒッチコックは自分の作品にチョコット出るというのがありましたので、冗句のつもりでいれてみました。

Q.アメナバール監督は人を怖がらせるのがとても上手だと思いましたが、監督ご自身は怖がりなのでしょうか?
アメナーバル監督——今はそうでもないですが、子供の頃は凄い怖がりでした。今回も脚本を書くにあたって、自分が子供の頃何が一番怖かったかを考えた時に、非常にシンプルな暗闇の中ですとか、ベッドの下に何かが隠れているとか、自分の想像から来るものだったのです。そうしたものは、全ての人にあったことだと思いますし、子供の頃はそうしたものが怖いんです。今回の映画を観て、その頃の気持ちを思い出していただきたいというのはありました。でも、今はそれ程怖がりじゃ無いですよ(笑)。

Q.パークPに、こうした作品の場合、既に観た方からのネタバレ等に関した懸念はありませんでしたか?
パークP——懸念はもちろんありました。しかしアメリカで公開され、その後世界各国で公開されていく中でも、非常に慎重に扱いまた、プレスや配給会社、そして観客の皆さんは結末を明かさないという部分に協力してくださいました。

Q.最近、スペインやラテン・アメリカの作品が徐々に公開されていますが、ハリウッド映画優勢の中でスペイン映画はどのような位置にいると思いますか?
アメナーバル監督——今のスペイン映画の状況は、普遍性があって色々な作品が生まれています。ペドロ・アルモドバル監督の作品や、アレックス・デ・ラ・イグレシア監督の作品は、それぞれ私の撮っている作品とは全く異なるパーソナルな部分を持っています。そういう意味では、今のスペインには一つの代表するスタイルがあるとは言えないと思います。







Q.カーテンが取り払われた場面で、光を遮る為に使われた黒板には宗教的なことが書かれていたり、ニコール・キッドマン演じるのヒロインにとって宗教はとても重要なもののように描かれていたと思いますが、そこにはどのようなシンボリズムが描かれていたのでしょうか。
アメナーバル監督——本作の中では様々なことが比喩的に使われておりますが、暗闇ということがあまりにも強い宗教心から真実が見えなくなっているということを象徴し、光というものがはじめは子供達を殺しうる危険なものとして描かれますが、最後には新しい知識を得て視点を変えるきっかけになっています。元々のあの場面には、窓にマットレスをあてると書いたのですが、やはり神の言葉が書いてある方が意味合いが深くなるということで比喩的に使いました。

Q.パークPに、本作はプロデュースしてこられた作品の中でも、ビッグ・バジェットの作品だったと思いますがいかがでしょうか
パークP——この作品は一つの島を借り切って行ったわけではなく、室内はマドリッドから40分ほどの所にあるスタジオで撮影され、家自体はスペイン北部にあるものでと、全てスペイン国内で撮影しました。バジェットは約2,000万USドルで、私は陳凱歌監督の『始皇帝暗殺』の製作にも携わっておりますので、そちらが最高額の約3,000万USドルでした。撮影期間は12週間を予定しておりましたが、若干オーヴァーしました。一番費用がかかった部分としては、屋敷が霧がかからない場所にあったため、英国から“フォッグ・チーム”を招聘した部分ですね。

Q.今現在活躍している映画監督の中で影響を受けた、もしくは尊敬している方はいらっしゃいますでしょうか。
アメナーバル監督——今回の『アザーズ』に関して言わしていただければ、一番の影響はスピールバーグ、ヒッチコック、キューブリックという3人の監督ですね。今活躍している方を一人付け加えれば、デビッド・フィンチャーが気になります。








Q.この作品が、トム・クルーズとニコール・キッドマンの夫婦としての最後の共同作業になってしまったわけですが、二人との仕事に関してお話ください。
アメナーバル監督——二人は今回のプロジェクトにすごく情熱を持っていて、献身的に仕事をしてくれました。私が絶対にスペインで作品を撮るということにも理解をよせてくれまて、トムはスペインに来てくれましたし、二コールはずっとスペインでの撮影に臨んでくれました。実は二人は編集段階に入ってから離婚したのですが、私に対して及びこの映画に対しての接し方は全く変わる事はありませんでした。
プロデューサーとしてのトムは、私のビジョンをひじょうによく守ってくれました。彼は、『ミッション・インポッシブル』『M:I−2』のプロデューサーもやっていましたので、技術的なことにも熟知していていろいろな助言も与えてくれました。ただし、撮影現場に入ってくるということは一切せず、撮影のフォーマットに関してなどのアドバイスをくれたのです。最初の編集版を彼に見せて意見を求めたときもすごく気に入ってくれて、お互いに尊重しあう関係でした。
ニコールは今回の役を内面の演技を重視したいということで、非常に心理的には辛いものがあったと思いますが、ステレオタイプではないリアルで観客が共感を持てる女性にしたいということで強い理想を持って演技に臨みました。ですから彼女にはできるだけ自由を与えて、できるだけ仕事がやりやすい環境をということを心がけました。キャスティングに関しては、脚本を書く段階で宛書をしてない限りは、何人かの候補のリストを作るんですが、今回は彼女のほうから是非この役を演じたいという強いオファーがあったのですぐに決めました。

Q.この映画のアイデア自体はいつ思いつかれたのでしょうか。また映画を構想するにあたり、どのような形をとられているのでしょうか
アメナーバル監督——2作目にあたる『オープン・ユア・アイズ』を撮っている時に、あの作品が非常に複雑であり、時空を飛び越えたり、ロケ地が多岐に渡ったり、登場人物が多かったりしたわけですので、次回作は出来るだけ少ない俳優により一つの場所で撮りたいということから発想が始まり、その後自分はホラー映画の大ファンであるが最近自分が本当に見たいホラー映画がないということから、ホラー映画にしました。またある記事で日光のアレルギーの人達の話を読み、それが家の中に孤立した家族を描く理由付けとしていいなと決めました。
私は脚本を書き始める前に、物語の最初と最後は知っていたいのです。主人公がどういう旅をするのかということに関しては決めた上で、シナリオを書き始めました。

Q.最後に日本のファンの方にメッセージを
アメナーバル監督——日本にファンがいることさえ知らなかったのですが、いらっしゃるなら私の作品を観てくださってありがとうございます。またこれからの作品も是非観ていただきたいと思います。ありがとうございました。

執筆者

宮田晴夫

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