14回目を迎えた東京国際映画祭が、11月4日に9日間の会期を終え無事閉幕した。昨今の世界情勢を受けて直前にゲストの来日キャンセルが続いたが、クロージングセレモニーでは、大リーグ・マリナーズの佐々木主浩投手がプレゼンターを務め、21世紀最初の映画祭に希望を添えた。
 今回、長編3本以内の監督作品を対象にしたコンペティションに参加したのは14作品。その中から「観客は真実を語る作品に動かされる。そういう作品にグランプリを捧げたい。人間の本質をあたたかい目で見つめた作品。素晴らしい演技と演出、撮影の見事さから選んだ」(ノーマン・ジュイソン審査委員長)というコメントとともに選ばれた今回の東京グランプリは、アルバニアのジェルジ・ジュヴァニ監督の「スローガン」だった。あいにくジュヴァニ監督はフランス・パリでのプレミアのために来日できなかったのだが、主演男優のアルトゥル・ゴリシュティさんが代理で登壇し、「この賞は、アルバニアの人々に贈りたいと思います」と喜びを述べた。
 ジュバニ監督は、また、審査員特別賞のイラン「月の光の下に」のレザ・ミル=キャリミ監督とともに最優秀監督賞も受賞。「スローガン」からは、ルイザ・ジュヴァニも最優秀主演女優賞に選ばれトリプル受賞となった。





 コンペティションの結果と受賞者のコメントは以下の通り。

◆東京グランプリ:「スローガン」
アルトゥル・ゴリシュティ(主演男優)「ジュヴァニ監督との仕事は、いつもとても楽しく有意義な体験です。私にとってはこの映画祭に参加できたことがいちばんの賞です。監督と製作会社にも感謝したい」
◆審査員特別賞:「月の光の下に」
レザ・ミル=キャリミ監督「ある批評家から『あなたの映画の中のイスラム教はとても優しい』と言われたことが印象的だった。イスラム教は、友好と平和の宗教です。今まではそれはよく描かれていなかった。イスラム教は、いつもテロリストを反対してきた。この場を借りて、アフガンの可哀想な国民や無実なのに命を落とした人々のことを思い出して欲しい」
◆最優秀監督賞(2名):レザ・ミル=キャリミ(「月の光の下に」)
ジェルジ・ジュヴァニ(「スローガン」)
◆最優秀脚本賞:横田与志(「化粧師-KEWAISHI」)

「賞と名のつくものは、小学校のとき以来です。脚本を書き上げた後は、全部忘れるタチで出来上がった映画は観客として見るのですが、あるときこの作品のパワーに圧倒されてしまいました。たまたま賞を頂きましたが、この作品に関われて幸せでした」
◆最優秀主演女優賞:ルイザ・ジュヴァニ(「スローガン」)
◆最優秀主演男優賞:アンドリュー・ハワード(「殺し屋の掟」)

「この映画は、エネルギッシュでクリエイティブなチームで作りました。何かイギリス映画にそれまでと違う風を吹かせたいという皆の気持ちが実った結果だと思います」
◆最優秀芸術貢献賞:「春の日は過ぎゆく」
ホ・ジノ監督「今回の映画制作を通して、人間同士が関係を築くことがいかに大切なことかを学びました」




<受賞作品作品紹介>

◆東京グランプリ・最優秀監督賞
「スローガン」ジェルジ・ジュヴァンニ監督

出演:アルトゥル・ゴリシュティ、ルイザ・ジュヴァニ

1970年代後半、社会主義政権下のアルバニアの山村。新任教師のアンドレは、政治的スローガンを山の斜面に描くことに躍起になる教師と村人たちを目の当たりにする。厳格な校長のやり方に納得できないまま、アンドレは同僚のディアナと恋仲になるが、ある男をかばったために窮地に追いやられていく。

受賞記念上映でのアルトゥル・ゴリシュティ氏の言葉より
「いま、私は鳥のように飛んでいる気分です。この映画は、アルバニアの一部を描いていますが、現在のアルバニアとは違います。社会体制も何もかもいろいろ変わったことを気に留めておいてください。今回の受賞は、スタッフ・フランスの制作会社・アルバニアの国民が受けたものだと受けとめています」

◆審査員特別賞・最優秀監督賞
「月の光の下に」レザ・ミル=キャリミ監督

出演:ホセイン・オアラスタル、ハメド・ラジャブアリ

神学校に通うセイエドは、戒律に縛られる日々に疑問を持ちながらも、僧衣とターバンの布を買いに出かける。その帰り道、彼はせっかく買った僧衣の布を少年に盗まれてしまう。「橋の下で返す」という少年の言葉を信じたセイエドは、橋の下でホームレスたちの世界を知ることに。彼らとの時間を経て、セイエドが聖職者とは何かを考えるようになる。

イスラム教国であるイランで大胆な題材を選んだ監督は、そのことについてティーチインで。
「革命の後、聖職者が国の職に就くようになり、聖職者を語ることがタブーになっていました。そういう法律や規制があったわけではないのですが、国の情況がそうさせなかったと思います。この映画が作られているわけですから、今はタブーではありません。私は、宗教が根強い国なのですから、映画として作ってみるのもいいのではないかと。聖職者としていろいろギャップがある、そういうものについて語るのもいいのではないかと思いました」

執筆者

みくに杏子

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東京国際映画祭公式サイト
「月の光の下で」公式サイト(ペルシャ語・英語)