映画、TV、音楽活動等様々な分野を走り抜け、ハリウッドデビュー作『ブラック・レイン』完成後の89年11月6日に鬼籍に入った俳優・松田優作さん。その人気は、没後十数年が過ぎた今も衰えることなく、リアル・タイムでは彼に接することの無かった新しい若い層をも熱中させている。そうした中、この11月6日に迎える松田優作さんの13回忌を受け、過去の出演作の魅力を再認識しつつ、新たなる優作を創出する「松田優作プロジェクト」が16社の協賛により発足した。
 10月3日にこのプロジェクトの記者発表会が、渋谷QFRONT 5F e-styleで開催され、『探偵物語』をはじめ多数の松田優作作品を手掛けたセントラルアーツの代表であり、またプロジェクトの幹事である東映ビデオ株式会社専務取締役の黒澤満氏と、松田優作夫人である松田美由紀さんが出席し、プロジェクトの概要や優作さんの思い出や魅力についてが語られた。また、当日この記者会見の模様はQFRONT正面のQ’EYEでリアル・タイムで上映され、道行く人々の注目を集めていた。









 会見は、黒澤満氏の挨拶からスタートした。「この10年くらいを振り返ってみると、優作が活躍していた頃のファンとして過ごしていただいた人々だけではなく、その後の若い人たちがTVや映画、またCMを通して彼の存在を認識し魅せられていった現象があって、最後の10年間彼と映画や音楽で携わってきた人間としては非常に嬉しい限りです。この13回忌にあたりまして、もう一度多角的な面から優作をとらえ、彼がいかに作品に対し情熱と誠意を持って立ち向かっていったか、あるいは俳優さんとして一歩一歩高いところに上り詰めていった彼を、きちっと提示できれば最高かなと考えておりました」。今回のプロジェクトは、先に書いたとおり16社が協賛として参加し、東映ビデオから12月7日に発売される『探偵物語』DVD−BOXをはじめとする各種映像・音楽ソフトのリリースをはじめ、後述する東京ファンタでの特集上映、スカイパーフェクTVでの一挙放映、書籍、グッズ関連、ゲーム等の発売が行われる。「僕が思い浮かべる優作は常に前を向いて戦い続けた男だと思いますし、そういうところがこのプロジェクトを通して、皆様にもう一度認識していただければありがたいことだと考えております」。
 続いて松田美由紀さんが、「やっと12年経って13回忌を迎えることになりました。12年間の間私と家族を支えてくださってどうもありがとうございました。今日は宜しくお願いいたします」と挨拶をした。13回忌となる法事は、11月6日の午後1時より三鷹の法専寺で行われる。「13回忌というのは大きな区切りだと思いまして、優作とともに過ごしてきてくださった方々では、引退される方も多くなりますので、これを最後に縁の深かった方々に集まっていただいて思い出を語っていただこうと思っております。と同じに、やはり優作を一番支えてくださったのは、映画のスタッフや関係者ではなくて優作の毛穴まで見て影響を受けて支えてくれたファンの方だったのではと思いますので、今回是非ファンの方も来てくださればいいなと思います」。なお一般のファンの方の受付けは、当日11時からの予定だ。
 優作さんが亡くなられた39歳まで生きることが目標だったという美由紀さんは、13回忌をむかえる今年、当時の優作さんと同じ39歳になり、「主人と同じようにちゃんと生きてこられたなという自信が涌いてきて、主人にそれを報告することができました」とスタッフや関係者への謝辞とともに、朗らかに今の気持ちを報告する。









 また、美由紀さんから見ての優作さんの魅力は、「優作はいつも人を子供にしてくれる俳優だったと思うんですね。何をしたいと思って生きているのかってことを、いつも色々な人にメッセージを送っているような人だったと思うんです。それは、本当のところで人を見てきたというか、それが多分どの世代にわたって、どの時代にもわたって本質のところで沢山の人たちが優作を感じてくれる、優作の顔を見て何かのエネルギーを感じてくれるんです」。そのエネルギーを大事にするためにもと、3年前に、オフィス作を設立し、チラシ1枚にの構成にいたるまで全責任をとりもの作りをしていきたいと語る美由紀さん。来年以降も、3月から渋谷パルコを皮切りに全国で松田優作展を開催するほか、扶桑社から松田優作アートブック『SOUL RED』、幻冬舎からの美由紀さん執筆本の刊行など、様々な角度から優作さんの魅力に迫るプロジェクトが展開される。「優作を知らなかった世代の人たちが写真を見るだけで涙を流してくれるのを見まして、優作を知らなくても優作の顔から見るエネルギーみたいなものにすごく影響を受けえて育ってきた人たちがいるんだなということをすごく感じまして、それでは一番優作に近いものを作っていこうと」。
 さて、今回のプロジェクトの目玉の一つが、東京国際ファンタスティック映画祭2001で、10月27日に行われるオールナイト上映イベント“蘇える最も危険な男 松田優作13回忌”だ。この日は、東京国際ファンタスティック映画祭の今井美幸事務局長が、「常に観客への夢、感動、奇跡を与え続けていきたい東京ファンタは、松田優作さんの時代に埋もれていかないカリスマ性こそ、まさに夢・感動・奇跡だと考えたからです」と今回のイベント趣旨を語り、その内容について発表した。上映作品は、ハードボイルドアクション『蘇える金狼』と遺作となった『ブラック・レイン』。そしてテレビ・シリーズ『探偵物語』からのスペシャルセレクション上映では、インターネット上でのベスト・エピソード投票で寄せられた1600名の投票結果から、第5話『夜汽車で来たアイツ』と最終話『ダウンタウン・ブルース』の2エピソードの上映が決定したことが発表された。この2本はそれぞれDLP上映される。また在りし日の松田優作と現在進行形の松田優作を語る二つのトークショーが開催される予定など、盛沢山なイベントになりそうだ。
 最後の質疑応答でも、執筆中の優作さんの本に関してや、子息である松田龍平さんのことなど、一つ一つの質問に真摯に答えていた美由紀さん、最後に今新たなファン層が広がってことの要因を尋ねられこう答えた。「ただ父親的存在というか本当に全部の責任を取ってくれる男の人が少なくなってきている気はします。責任を取ることには限りがあるけれど、もし優作だったら道ですれ違った人が倒れていても必ず助けてあげる男だったと思っているんです。そういうところで、若い人たちや不良と言われる人たちも何かを求めているんです。優作はヒーローではなくずっとアンチ・ヒーローだったと思ってるんです。本当の貧しいところから這い上がってきたヒーローだと思ってるんです。そういうところが、若い人たちに支持されるんじゃないかと思います」。
 世代を超え、人々を魅了し続けるアンチ・ヒーロー、松田優作。今回のプロジェクトで、さらに深くその多面的な魅力が明かにされるだろう。

執筆者

宮田晴夫

関連記事&リンク

松田優作オフィシャルサイト
東映ビデオ
東京国際ファンタスティック映画祭2001