小説にも長編と短編があり、その役割も味わいも違う。映画でも同じように異なるはず。短いからこそ、清冽な切り口や、ぎゅっと詰まった密な世界があるはず。
「Movies-High2 NCWセレクション」は、クリエーターの卵達の短編映画をまとめて上映する試み。ほとんどが「初めて撮った映画」にもかかわらず、不思議と見せる事を心得ているのは、ニューシネマワークショップ(NCW)という勉強の場から生まれた作品であるからでしょう。これら新人の作品にスペシャルプログラムも加えて、12月にBOX東中野で公開予定ですが、今回の徳間ホールでの試写会では「偶々ーたまたまー」(松本邦雄監督)「迷猫ーMAIGOー」(山田英治監督)「きれいにすることからはじめよう」(山口智監督)の3作品を選んでのお披露目となりました。同じくNCWから生まれた作品である「揚力の日」も、釜山アジア短編映画祭で好評を得た為、英語字幕付で凱旋上映されました。
上映後は、NCW主宰の武藤起一さんの司会で、プロとして活躍中の監督をゲストを迎えてのトーク。ゲストは、瀬戸朝香主演の「とらばいゆ」の公開を控えた大谷健太郎監督、「まぶだち」が同じく公開予定の古厩智之監督のお二人。三人の新人監督達は、とても緊張しながら先輩の批評を聞き、体験談に耳を傾けていました。








「偶々ーたまたまー」は、白昼の公園で起きた警官の発砲事件の裏の、”偶々”居合わせた三人の人物と出来事を、それぞれの視線で、時間を前後させながら描いたユニークな作品。一種、謎解きの様になっているのが面白い。いずみさの映画祭2001オフシアター部門準グランプリ。松本邦雄監督は、元関西のラジオ局のディレクター。映画への夢を断ち切れず、現在は関西から都内のNWCに通って来ているとか。この映画は、狭い地域で起きるのですが、実際の撮影も「NCWの半径300m以内」で行い「一番遠くへ行ったのは、東京衣装に衣装を借りに行った時」。これが初監督
作品。

「迷猫ーMAIGOー」は、夫に「部屋に閉じ込められている」と感じた若い妻キョウコが引き起こす、自分と同じ境遇(と彼女が勝手に思った)のマンション猫の誘拐。思い込みが強い妻キョウコの葛藤を、コミカルにさらりと描いているのが、好感が持てる作品。第一回TAMA NEW WAVE入選作品。山田英治監督は、仕事で遅れて登場。「本当は10分で撮る予定でしたが、長くなってしまいました」この作品の後、意欲的作品を撮り続けているそうです。

「きれいにすることからはじめよう」は、交通事故で死んだ友人の部屋を片付ける事を頼まれた、男二人、女一人、合計三人の物語。レンタルビデオや残された日記等の出来事を挿みながら、それぞれが、友人の死を受け止めていく。観終わった後、何かが心の隅に引っかかる。山口智監督もこれが監督第一作。初めての映画で、こういう大きな場所で上映されるものもちろん初めて。上映前は「皆と一緒に観ていたい」と挨拶した監督でした。レンタルビデオ屋に勤めた経験があり、それがビデオ屋での会話やシーンに、生かされているようでした。あまり言葉で語るのは得意な人ではないらしく、武藤さんや先輩からの投げかけにも、言葉を選びつつ答えていました。

全体の感想については、大谷健太郎監督も古厩智之監督も「初めてとは思えない、撮り方を相当勉強している」と、まずお褒めの言葉。「今は昔と違い、映画を容易に観られる環境である事も影響しているでは」、そして「こうしして多くの人に見てもらえる機会があるのはうらやましい」。「以前はぴあフィルムフェスティバルでグランプリでも取らない限り、こんなに沢山の人に観てもらえる機会はなかった」と古厩智之監督。「上映会をやっても、友達ばかり。何か言ってくれる人もいない。先輩の演出家を招いて・・ようやっと3時間位の時間もらって。とにかく議論したかった」。大谷健太郎監督は「何でも自分でやらないと不安な時代があった、それを過ぎると人に任せる楽しみもわかってくる」と、監督の役割についてもアドバイス。「本当に大事な事は、自分が何を言葉に何を映像にしたいのか、前へは進めない」と後輩達を激賞。

「Movies-High2 NWCセレクション」は12月1日よりBOX東中野にてレイトロードショー。

執筆者

鈴木奈美子

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