アテネ・フランセ文化センターでの“シネマGOラウンド”の上映も残すところあと2日となった7月6日。この日は、Round4『月へ行く』を監督した植岡喜晴監督の特集上映として、『夢で逢いましょう』の特別上映、そしてこの作品に“天使のひさうちさん”として主演された京都在住の漫画家のひさうちみちおさんと神戸出身の植岡監督とによるトークショーが、『夢であいましょう』そのままにまったりと穏やかな関西弁で開催され、撮影当時の状況やひさうちさんの近況などが話された。







 『夢で逢いましょう』は植岡監督が、関西の自主映画時代に大学・高校の学生スタッフ、俳優だけにとどまらない個性派キャスト陣により84年に完成させた100分(この日上映されたものは、さらに20分長くなったヴィデオ発売バージョン)の8ミリによる異色ファンタジー大作。個人的にも最初に観たのが大学生だった頃であるのが懐かしく思い出されるように、もうかれこれ17年前の作品だ。しかし、そのシュールな面白さは今も全く色褪せていない。この作品の上映会があるごとに各地へと自分でフィルムを持って行き観ていた植岡監督は、それ故に当時は観飽きてしまった程だったようだが、久しぶりの上映にご自身も素直に楽しまれたそうだ。
 この作品はある上映会の会場で植岡監督と知り合いになったひさうちさんのキャラクターからスタートし、村上さん役の神戸浩さんとの出合いを経てシナリオを完成させた作品だという。「役者を連れてきて役に当てはめるのではなく、音楽家さんとか漫画家さんとか別のことをやっていてキャラがある人を情報誌などで探し、面識が無い方に電話を入れてシナリオを送って集めた」(植岡監督)結果、今みてもびっくりするような面子の競演が実現したのだ。
 最初にシナリオを読んで、「面白くシチュエーションがよく描けていて、どんでん返しも納得がいった」と言うひさうちさん。この言葉を受け、「あのラストは、怒る人も多かったんですよね。でも、あれが一番やりたかったのかも知れない」と、当時を語る植岡監督。なお、この作品では関西弁というものにすごく考えていたという。「吉本系ばかりが関西弁じゃなく、僕らが話すようなメリハリのない関西弁で作品が撮れないかと。それらをメインに、メリハリをつけるために天女役の紅萬子さんの吉本系風関西弁、それに標準語やあがた森魚さん演じる宮沢賢治の偽東北弁など言葉をまぜこぜにして一つの作品を撮ることに注意しました」(植岡監督)。これに、へたうま系なマンガにも通じる美術が渾然一体となって、えもいえない魅力的な世界が構築されたわけだ。
 なお、この作品の製作期間は当初スタッフたちの学校の夏休みをあてて約1ヶ月で撮了する予定で、ひさうちさんも合宿に参加し撮影に臨んだが、当初の予定では半分くらいしか撮り終わらず、その後終末等を利用して、その都度少人数のスタッフ・キャストを集め結局撮了まで約1年間費やすことになったそうだ。




 最近ではあまり映画を観る機会がなくなっているというひさうちさんだが、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の『ミラノの奇蹟』は大好きな作品だそうだ。「シュールレアリスムの雰囲気のある映画で、デ・シーカってこういう雰囲気のある作品も撮る人やったのかって」とその自由な想像力について語る
ひさうちさんに、植岡監督もイタリア映画らしい変な飛躍のある映画として、マルチェロ・マストロヤンニとラクエル・ウェルチが共演した『夢みるアルベルト』というTV放映作品をあげる。「最後はマストロヤンニの椅子職人が作った椅子が、街のあちこちに延々と降り続けるところを撮っているんですよ。今回僕が撮った『月へ行く』の最後も、本当は色とりどりのエレキ・ギターが空から延々ふってくるのをやりたかったんです」と笑う植岡監督だったが、その場面がなくても相通じるものがある思いっきり飛躍した作品であったことは、“シネマGOラウンド”を楽しんだ人には明らかだろう。
 なお、ひさうちさんの近況としては、関西のタウン誌に連載された下ネタQ&Aを纏めた単行本『人生の相談』が9月に出版されるほか、あの『理髪店主のかなしみ』が映画化されたそうだ。「流石にそのままじゃ映画に出来ないので、お話しはほとんど変わっていますが…」ということだが、これはかなり興味深い企画だ。因みに、廣木隆一監督で理髪店主を演じるのは田口トモロヲさん、またひさうちさんも警官役で出演されているそうだ。『夢であいましょう』以降『精霊のささやき』やTV番組など5本の植岡作品に出演しているひさうちさんは、『メイン・テーマ』『BERLiN』などにも出演している。「ひさうちさんは本来助平なんで(笑)、精霊以降の作品ではそれをフューチャーしてみようと思って演出しました」(植岡監督)、「そういえば『BERLiN』でも僕は中谷美紀さんと添い寝してたんですよね。あの映画でも役名は何故か本名でした(苦笑)」(ひさうちさん)。

執筆者

宮田晴夫

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