「ブラス!」、「リトル・ヴォイス」で熱狂的なファンを生んだマーク・ハーマン監督がプロデューサーのエリザベス・カールセンと共に3月13日、初の来日を果たした。新作「シーズンチケット」は少年2人のサッカーチケット争奪大作戦を縦軸に、家族の肖像と不況にあえぐイギリス社会(ご存知ハーマン節!)とを横軸においたもので、ベティ・トラスク賞を受賞した小説の映画化。渋谷シネカノンで行われた懇親会では「32時間連続で寝てないので頭がぼぉーっとしてる」とコメントした監督、素朴で気取らない所作は作品そのもの。当日の模様をレポートする。
※「シーズンチケット」は銀座シネ・ラ・セット、新宿シネマ・カリテにて四月下旬ロードショー




——日本のタイトル「シーズンチケット」(原題は「PURELY BELTER」)を聞いてどう思いましたか。
ハーマン 実を言うと、原作も「シーズンチケット」なんだよ。イギリスではこのタイトルだとサッカーだけの映画だと思われてしまうので、敢えて変えたんだ。

——主役の少年たちがいい味を出しています。2人とも演技経験は殆ど初めてだったとか。
ハーマン 探し出すのは大変だった。2人の少年がかわいらしすぎてハリウッド的になってしまうのは避けたかったし…。オーディションには500人が集まったけど、彼らを選んだのは何と言っても並んだ時のコンビが一番良かった。500人中一番演技経験は少なかったんだけどね(笑)。
撮影に馴れてもらうため、2人をテレビの撮影所に連れていったよ。緊張しないように、優しいスタッフで囲み、最初は簡単なシーンから演じてもらった。カチンコの音すら最初はわからなかったみたいだけど、3日経つと“トレーラーをもっと大きくしろ”って言い始めたよ(笑)。

——劇中で子供たちが“記憶に残る初めての体験”を語る場面があります。監督が“初めての体験”を話すとしたら何を選びます?
ハーマン やっぱり…(笑)、ジェリー少年同様、サッカーを初めて観戦した時のことを話すかな。1965年、試合はハルシティ対エクスターシティ、6対1でハルシティが勝ったんだ。それ以来、僕はハルシティのファンだよ。今は最下位のグループにいてシーズンチケットも簡単に手に入るけど(笑)。




——ジェリーの父親は妻が危篤の時、飲んだくれて「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」を情感たっぷりに歌います。あの選曲はちょっとしたアイロニーですか。
ハーマン うん、歌詞を聞いて欲しくてあの曲を選んだんだ。ジェリーの父を演じたティム・ヒーリーにはできるだけうまく歌うように頼んだ。本当に上手だったね(笑)。実は「リトル・ヴォイス」でマイケル・ケインが同じ歌を歌ってるんだよ。すごく下手くそにね(笑)。

——監督もカラオケが好きなのでは。
ハーマン いやいや(笑)。歌えないし、楽器も弾けないよ。だけど脚本を書いている時は常に音楽があるかな。歌詞が入ってると、こっちの言葉がまとまらなくなるのでクラシックだとか現代音楽なんかをよくかけるね。

執筆者

寺島まりこ

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