関東圏は大雪注意報の1月27日、北野武作品「BROTHER」は初日を迎えた。「なんか俺は映画も人生もダメだねぇ。事故ったり、警察に捕まったり、前評判いい映画に限って雪降られるし…」。東京会館で行われた記者会見では、風邪のせいか気弱な発言をした監督だが、舞台挨拶を待ちうける丸の内ピカデリー2の観客は徹夜組800人。「この天気はともかく、ホッとしている」とは森昌行プロデューサーの本音だろう。賛否両論さまざまの批評を読み上げたのは余裕の表れか。主演の真木蔵人の友人、ジブラが本作にインスパイアされた楽曲を発表するなり、オリコン初登場6位をマークするなど環境も上々。毒舌は変わらずも体調不良で目線が空をさ迷っていた北野武の姿が逆に新鮮だった。




「BROTHER」に寄せられた批評は“世界のどこにいてもキタノがいることを知らしめた”と絶賛するものがあれば、“かつての才能のかけらもない愚作”とこき下ろすものも。「まぁね、皆が誉めても気持ち悪いし、いいんじゃないの、いろいろあった方が」とは北野監督の弁。ベネチアグランプリを受賞した「HANA‐BI」の影響もあって、日本の監督が世界市場に出やすくなったと言われているが、「でも、俺にとってはどうでもいいことなんです。“この映画が日本の評価につながるのでは”とか聞かれても、やっぱりどうでもいいんだよね」。
「あの夏、いちばん静かな海。」以来の出演となる真木蔵人は「あの頃は17歳でしたからね。映画なのか、テレビなのか、ラジオなのか自分でもわかんないような状況で仕事をしてたんです。だから、だいぶ変わったと思いますよ。今の方がずっと映画に興味あるし、当時とは全く違う立ち位置にいました」。監督は一言、「その通りです」。
 北野映画を語る上で何度も切り口になってきた“生と死”はこの日も取り沙汰された。「インタビューなんかでは理屈こねて言ってるんですけど、実はそんなこと、あんまり考えてないんだよね。映画は映画であって、こういう風に捉えなきゃダメですよって作り方はあんまり好きじゃない」。イタリア、フランス、ドイツに続き4番目の公開となった日本。2月はアメリカにプロモーションへ渡り、春の全米公開に備えるという。「ホントのこといってメンド臭くて仕方ないんですけど。といっても、最近になってようやく大切さがわかってきたかな」。

執筆者

寺島まりこ