宇宙の次の夢は大阪万博!活弁映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』辻凪子監督・大森くみこさん・天宮遥さんインタビュー
現在公開中の辻凪子監督の活弁映画『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』。活弁とは活動弁士のこと。周防正幸監督の『カツベン!』(19)で初めて知ったという方もいるかもしれない。
映画が誕生した明治の終わり、大正、昭和のはじめ、音がなかった映画を弁士による語りと生演奏で観る興行が大人気に。全盛期は8000人近くもいたという弁士だが、トーキー映画の出現で次第に下火に。現在活動しているのは全国で12、13人という。
そんな中、サイレント映画を愛する辻凪子監督と活動写真活弁士の大森くみこさんがタッグを組み、行ったのが活弁公演『ジャムの月世界活弁旅行』。2020年10月3日、京都みなみ会館を皮切りに、全国7か所で公演。同時期に活弁映画のクラウドファンディング立ち上げ、2,693,707円もの支援を得た。そこから2年の歳月をかけ『I AM JAM ピザの惑星危機一髪!』が完成した。
ピザ屋で働くジャム(辻凪子)の密かな夢は、「コメディエンヌになって一番大切な人を笑わせたい」。1000年に一度の大嵐でピザの惑星へたどり着いたジャム。銀河系の危機を救うために鍵となるピザのピースを探して、仲間と共に様々な惑星を旅するという冒険ファンタジー。
主演・脚本も務めた辻凪子監督、マイクを手に八面六臂の活躍を見せる大森くみこさん、ピアノで観客を不思議な物語の世界へ誘う天宮遥さんの3人にお話を伺った。
周囲の力を得て劇場に
――元町映画館で最初に拝見したときクラウドファンディングの前でしたが、先行公開に至った今の気持ちはいかがですか?
辻:途中出来上がるのがわからないくらい色々大変なことがあって。3年間かけて想像以上の世界がありましたね。劇場のお客さんに拍手と笑い声をいただいて。コロナがあけることを想像していたけど、それでも楽しんでもらっている顔が見られて幸せです。
――その間、一番大変だったのはどういったところでしょうか。
辻:コロナの中で撮影するっていうのが本当に苦労しました。
後は画だけで楽しめるように世界観を作るのが大変で。
活弁映画だから音ありの映画の音を消して、大森さんと天宮さんが活弁とピアノでつけてもらう二段階の作業がありました。普通の映画を作るより二倍時間がかかりました。
――最初に元町映画館でお話を伺ったとき、壮大な世界観でどう作られていくのか一番気になりました。
辻:文字上では楽しんで書いたんですけど、実現するとなると想像以上に大変で。大学の先輩、後輩、同級生や今までお世話になった人が京都まで駆けつけてくれて。みんながものづくりに集中して、学生の時に戻ったようで楽しくて有り難かったです。
京都で撮影!冒険SFファンタジー
――美術はどのようなコンセプトで作られましたか。
辻:色々な惑星をたどる冒険物語 SF ファンタジーを撮りたくて、京都で SFファンタジーを撮るためにロケ地選びにこだわりました。
――京都で全て撮影をされたんですか?
辻:スタジオ以外は全部京都で。予算が限られている中で、ジャングルや月の世界をみんなで試行錯誤して作りました。私が一番やりたかったのはシチュエーションコメディでセットを組みたかったんですが、これもスタッフさんが叶えてくれました。
クラシックコメディが楽しめる“記憶の惑星”
――脚本アドバイザーでいいをじゅんこさん(クラシック喜劇映画研究)の名前がありました。アドバイスで参考になったところは。
辻:色々な作品を観せて頂いて。ドタバタコメディを観てはいたけど、ちょっとした階段の上り下りの笑いや、無声映画はひきの画面であまりカットを割らずに人間が動き回って面白く見せるんですけど、モノクロの“記憶の惑星”を撮る際に、すごく勉強になりました。いいをさんが見せてくださった作品の中から取り入れたものもあります。
――全編に色々な作品のオマージュが入っていましたね。メリエスの『月世界旅行』はどうやって地球に帰るのかが一番気になりましたが、その辺も楽しく取り入れられていましたね。
スクリーンの外で中で大活躍!大森くみこさん
――大森さんは、弁士としてキャラクターになって、客観的なナレーションもあって切り替えが大変だと思いますが、この作品でいかがでしたでしょうか。
大森:弁士であり、実況アナウンサーでもあり、司会であり、役者である。そういう立ち位置を変えるお喋りが活弁の中にはギュッと詰まっています。作品によっては役者の部分だけが色濃く出る作品もあれば、弁士として喋ることが多いものもあります。この作品は本当に全部がギュッと詰まっている感じで、大変というよりは喋っていてもとても楽しいですね。
――本作では画面の中にも登場されて。
大森:新作ならではですね。自分で自分に声をあてるのは不思議な感じです。今までは監督も役者も亡くなっている作品ばかりでしたが、今回は生きている人ばかりなのでそういうプレッシャーはあります。
――この時代に活弁映画を作られた意義はどのように感じられますか?
大森:サイレント映画って映画の原点だと思うんですね。今は動画時代で、あらゆるところで動画が溢れていて、若い人たちも動画ありきの生活です。その原点であるサイレント映画の可能性、また一つの扉が開かれたと言うか。令和だからこそできる令和だからこそ面白いと思えるサイレント映画、映像の表現の可能性が開かれたのではないでしょうか。
映像は音があって当たり前と思いがちですが、映像の表現はそれだけではないし、サイレント以外にも映画の可能性がもっとあるんじゃないか。それが今回こうしてサイレント映画を作った意義なのかなと思います。
なくてはならない音楽の役割
――音楽の天宮さんはいかがでしたでしょうか。
天宮:この新作無声映画は辻凪子さんのコメディエンヌになりたいという思いと、映画に対する情熱と活弁映画へのリスペクトが全て詰まっていて。責任重大ですが、監督が横で一緒に楽器を演奏する、とびきり楽しいものでした。
音楽は見ている人の感情を運ぶ縁の下の力持ちの役割ですが、実はなくてはならないものです。この世界観を活弁の後ろで盛り上げるように頑張ります(笑)
――横で楽器を演奏される辻監督とは、二人でタイミングを合わせてといった感じなんでしょうか。
天宮:セッションですね。合わせての練習はしてないんですけど、汽車の到着の音とか画面の音にシンクロする、セッションする歓びというか。
辻:ジャズですね(笑)
「活弁付きの新作無声映画」でまず浮かんだのは
――プロデューサーの岡本さんがオファーした経緯と、辻監督の作り出す世界観の魅力を教えてください。
岡本:これまで自分は小さな映画しか作ってないんですが、基本的にエンタメばかりなんです。面白い映画の方が好きなので。活弁付きの新作無声映画を作ろうと思ったときに、辻凪子監督が浮かんで。以前から舞台や映画『ぱん』、『I am JAM』の原点になったYouTubeのシリーズも全部見ていて。それをキャラクター化したら面白いだろうなと、オファーと同時に『I am JAM』でどうですか?とお伝えしました。
『I am JAM』がSFファンタジーになって、予算的に心配しましたが(笑)。低予算ながらそれなりに壮大に仕立ててくれたので、結果的によかったなと。美術や衣装のこだわりがお客さんにも届いていると思いますし、この世界観が映画の魅力かなと思っています。
――現状に対する思いや、映画に対する思い、たくさんのものがそれぞれのキャラクターに詰まっていましたね。
多彩な顔を持つ女優・辻凪子の魅力
――おじいさんの家を訪ねて、「コミカルピザです」と呼びかける表情の変化は、女優・辻凪子の魅力が出ていて泣けました。
大森:あそこはいつも泣きそうになりますよね。
辻:演出してくださるんですよね。天宮さんが。
天宮:画面見ながら泣きそうになる。
辻:今まで楽しい映画が続いていたのに急に無音になって。お客さんがあのシーンで集中して見てくれているのに毎回ジーンときます。
活弁公演、吹き込み版の楽しみとは
天宮:この作品は色々なテーマソングがあって元気のいい曲や、辻凪子監督や長野さんが作った曲もあります。それもお楽しみいただけたらなあと思っています。吹き込み版もありますし。
――吹き込み版も見せていただきました。
辻:ありがとうございます!みんなで一生懸命録音しまして、これが大変でした。
――どういったところが大変でしたか。
辻:普通の活弁公演と違って映画として形にしないといけないので、シーンの終わりでちゃんと音楽を切るとか、大森さんのセリフが登場人物の口とずれていると違和感があって。
大森:録音になると気になっちゃう。
辻:活弁公演では全然気にならないんですけど、そこをちゃんと決めてやるのが結構大変で。練習時間が少ない中頑張って頂きました。
――両方見るとそれぞれの違いがわかるということですね。
辻:全然違うと思います、感覚も。
――今日は辻さんが舞台に飛び出したり、3Dの楽しさも(笑)
辻:活弁公演ならではですね。
大森:今日はトイ楽器を辻さんがやりましたけども、吹き込み版はイマイ・アキさんが入って、更にトイ楽器が生かされています。
辻:記憶の惑星ではアコーディオンを使ってくださって。長野さんもみんなで演奏に関わりました。
大森:長野さんも太鼓を鳴らして。
――その辺も楽しんで頂きたいですね。
生まれて初めての映画に
――今日はお子さんが結構来られていましたが、感想はお聞きになりましたか?
大森:面白かったですって言ってくれて。
辻:生まれて初めて観た映画だって聞いて。凄く嬉しいですね。
大森:異色な体験を。
辻:初めて見た映画が私は『ドラえもん』やったので、記憶に残っているから。
天宮:主人公が飛び出してくるものやと思うかも(笑)
大森:弁士がつくもんやって思ったりして(笑)
辻:たくさんの子供に観てもらいたいなって。
――今は配信で簡単に色々な映画が見られますけど、映画館ならではの体験ということで、お客さんに楽しんで頂きたいですね。
JAMのおじいちゃん、間寛平さん
――間寛平さんにオファーされたときの反応は?
辻:いいよって快く受けてくださって。アースマラソンや世界一周されるバイタリティとか、寛平さんの生き方をリスペクトし過ぎているくらいで。吉本新喜劇のGMになられて、若手の方が活躍する場を作られています。私は劇団間座で芸人さんと舞台をやらせて頂いたり、吉本新喜劇に出させて頂きました。
絶対夢を実現されるところもすごく尊敬していて、私のおじいちゃんと重なる部分があって。あのシーンでふすまを開けた時に段取りでもなく涙が止まらなくって。そこに本当にJAMのおじいちゃんがいて。寛平さんに頼んで良かったなって。
――現場では寛平さんに演出をされたんでしょうか。
辻:モニターを見てびっくりして。何なんでしょう。画面に映るだけであの哀愁と貫禄は寛平さんにしかできないって言うか。もうそこにいてくださるだけでいいという感じでしたね。
――完成後、ご覧になった感想は仰ってましたか?
辻:はい。可愛い映画やなぁって。
大森:可愛いなぁ、可愛いなぁって。辻凪子さんのことをほんとうに可愛がってはるのがよくわかります。
辻:ほんとうのおじいちゃんのような。
天宮:11月19日の新文芸坐上映時にゲストで来てくださって。
大森:トークゲストも出てくださって。優しい方ですね。
辻:映画、芝居が好きなんやなぁって言ってくださって。
――その雰囲気が映画の中に暖かく出ていたんですね。
ピザの惑星の王様、塚地武雅さん
――塚地さんはいかがでしたか。
辻:塚地さんは『おちょやん』で共演させてもらって、こんなに人に好かれる人がいるんやって。塚地さんのことは、小学生の時からコントを見ていて、芸人だけではなく役者としての演技力も素晴らしくてどのシーンを見ても端っこにいても100点満点以上の表情されるんです。コメディ演技として見習いたいです。
――ピザの王様としても説得力というか、それにしか見えない(笑)
大森:塚地さん以外考えられないですね。
辻:踊りも振り付けしてなくて、段取りであの踊りをしてくださって。すごいですよね。
大森:塚地さんが出てるいだけで画面に惹きつけられちゃいますね。
――豪華なゲストもありながら手作り感満載で。楽しんでいただきたいですね。
JAM達の大いなる野望は!?
――今後の目標は?
辻:この映画を大阪万博でやりたいですね。2025年!
大森:あと海外にも行きたいなーって。
辻:2025年までに間に合うかな。
天宮:大きな夢ですけど、この大きな宇宙の映画を実現したんだから夢ではないかも。
大森:今から大阪万博に言うとかんとね(笑)