沢口愛華・小浜桃奈・糸瀬七葉・大熊杏優・佐藤京・星れいら、怒涛の快進撃を見よ!映画『札束と温泉』川上亮監督インタビュー
『札束と温泉』はそのタイトルから、若手女優さんたちの入浴シーンで釣る気かい、よし釣られてやろうと期待をすると見事に裏切られる。
観客が浴びることになるのは怒涛のお色気シーンではなく怒涛の会話なのだ。冒頭、まくし立てる女子高生ひかる(小浜桃奈)と応戦するリサ(沢口愛華)の卓球ラリーのような温泉成分談義。そして乱入する恵麻(糸瀬七葉)の不穏な行動。何々?と圧倒されている間に下衆な動機は忘れて、このクライム・コメディに嵌っている寸法だ。
そしてあるキャラクターにおいては「恐怖と笑いは紙一重」を軽やかに証明してみせる。
女子高生、殺し屋、高校教師、ヤクザの愛人。温泉宿に集まった8人が消えた札束を巡って狂乱の一夜を迎える。
脚本・監督を務めたのは川上亮監督。『人狼ゲーム』シリーズ全作品の原作・脚本や、映画『人狼ゲーム デスゲームの運営人』では監督・脚本も手掛けた。
主要7人全てが驚異のキャラ立ちを実現した本作について、川上監督に話を伺った。
●怒涛の会話の秘密とは
――とにかく会話の面白さが圧倒的でした。
川上:それは嬉しいですね。会話は頭の中で実際にキャラに喋らせて、自然になるよう何度も手直しします。僕はもともと小説家で、漫画やアニメジャンルでデビューしたこともあって。誇張されたキャラの掛け合いに慣れているといいますか。
――オーディションはどのように行われたんでしょうか。
川上:オーディションでは全員にすべてのキャラを演じてもらいました。『人狼ゲーム』でも同じでした。
●沢口愛華さん(女子高生・リサ役)
――沢口さん演じるリサは、ちょっと優等生でみんなのまとめ役がぴったりでしたね。自由奔放なみんなに苛立ちもあって、でも友達は大事。そんな感情がバラバラではなく同時に存在しているように見えて良かったです。監督から見た沢口さんの演技は?
川上:他のキャラクターはある種突き抜けているんですけど、振り回されキャラって難しいと思うんですよ。今まさに仰ったように コメディの演技とキャラクターとしての苛立ちや、友人への愛情や友情を並立させたキャラクターを成立させたところは一番評価ポイントになるし、そう伝わったのでしたら素晴らしいなと思います。
●小浜桃奈さん(女子高生・ひかる役)
――冒頭いきなり小浜さんと沢口さんの会話につかまれました。舞台挨拶の記事を拝見したら、オーディション時、場慣れしている感じに好感度が低かったけど、演じてもらったら一番上手で合格になったとありました。監督から見た小浜さんの持ち味は?
川上:僕自身お笑いのライブに行くのが好きで、ツッコミのテンポって難しいと思うんです。0コンマ何秒のずれや声のトーンが少し違うだけで面白くなくなるほどで。彼女は演技全般において、間や声のトーンを操るセンスがずば抜けているし、誰よりも真面目に取り組んでくれて、そのプロ意識は賞賛に値しますね。好感度が低いどころか今では深く尊敬しています。
●お笑いと脚本の関係
――お笑いの例が出ましたが、好きな芸人さんは?
川上:実は10年ほど東京や関西のライブに行ける場所を離れていて。すぐに名前が出ないのが悔しい(笑)。熊本が 6年目で、その前が3年アメリカのヒューストンで。
――それは極端から極端な感じですね(笑)。
川上:YouTubeを聴きながら車に乗ったりするんですけど、最近聴いたのは金属バットさんやガクテンソクさんですね。冒頭のひかるとリサのやり取りは、ブラックマヨネーズさんがM 1で優勝した時のネタを参考にしました。洗濯室で先生とヤクザの愛人の会話はアンジャッシュさんを参考にした手法で作らせてもらいました。
●糸瀬七葉さん(女子高生・恵麻役)
――無表情で独特の倫理観のある役でしたが、ブログや動画を拝見したら本当に可愛らしくてギャップが大きすぎて(笑)
川上:舞台挨拶で見た方も清楚で驚かれると思います。だからこそ、悩んで一緒にキャラを作り上げたのが糸瀬さんでしたね。
――監督のアドバイスとしては?
川上:参考に『アダムス・ファミリー』のスピンオフドラマの『ウェンズデー』や、アニメの『映像研に手を出すな』の金森さやかを挙げました。すぐに見てくれて翌日には話をしてくれたり。本読みの現場でも参考になりそうな映像を一緒に見て研究して、彼女なりのキャラクターに落とし込んでいきました。恵麻が好きという方も非常に多くて、僕も嬉しいです。本人にとってもプラスになったならいいなと思います。
●大熊杏優さん(女子高生・美宇役)
――美宇の理論は他の人なら完全に反感を買う内容をなんですが、ズレてるのに大真面目で憎み切れないというか(笑)。
川上:他のキャストみんなが「可愛い」って言うほどで、先生が血迷うもの仕方ないかっていう説得力がありましたね(笑)。
彼女は本格的な演技をするのは2作目で、非常に真面目に脚本を覚えてきてくれました。長いやりとりを何回撮影しても自然な台詞で一言一句間違うことがない。プロだなって思いました。廊下を歩く恵麻の後ろを彼女が鞄を持って横切るシーン。その動きも素晴らしかったですね。
●佐藤京さん(殺し屋・遥役)
――殺し屋役の佐藤さんのキャラクターが突出していました。監督からのアドバイスはありましたか。
川上:オーディションでは、殺し屋と愛人の掛け合いシーンを演じたどの役者さんもシリアスな演技で。こちらとしては吉本新喜劇に出てくるヤクザみたいな、憎めないキャラクターでいて欲しくて、佐藤さんはオーディション時から完璧にやってくださいましたね。あれは彼女が作ってくれたキャラクターです。
――声のきれいさもあって、あの声でああいうセリフを吐かれると、そのギャップが面白過ぎました。
川上:ゆっくり喋っているわけじゃないのにゆったりと聞こえるという、心地いい声と喋り方なので本当にはまり役だったと思います。
●星れいらさん(ヤクザの愛人・綾乃役)
――『人狼ゲーム デスゲームの運営人』に続いての出演ですね。星さんの魅力は?
川上:綺麗な人でアイドルなのに、びっくりするくらいサバサバとしていて、親しみやすいキャラクターです。
――前作と比べて変化は感じられましたか。
川上:前回は怯えるか、叫ぶかみたいな両極端なお芝居をしてもらったんですけど、今回は喜怒哀楽のすべてが必要なキャラクターで。緩急のグラデーションをしっかりつけて演じてくださって。おそらく本人も手応えを感じていると思います。
人狼ゲームから引き続き入ってくださったスタッフの方は、口を揃えて「星さんが良かった」「星さんの成長をものすごく感じた」って仰ってました。
●小越勇輝さん(高校教師・渡辺役)
――小越さんも『人狼ゲーム デスゲームの運営人』に続いての出演ですね。
川上:彼の魅力は間違いなく演技力だと思うんですよ。さらに撮影時どの角度でしゃべるのが一番いいのか、全て計算して演じてくださるんですよ。
殴られて倒れる時の動きやタイミングの取り方が凄かったですし、冒頭で美宇を送り出す時のちょっとした扉の閉め方とか外をチラッと見る仕草とか。
――それはお勧めシーンですね。ファンが見たら悲鳴を上げそうなシーンもありました(笑)
川上:そこまでやらなくてもと仰るファンの方も(笑)。いや、その通りです。すみません(笑)
●熟練の撮影技!
――疑似ワンカット撮影で熟練のスタッフさんの技を感じたところは?
川上:撮影監督の今井哲郎さんは前回もご一緒して、今井さん中心にスケジュールを組みたいと思ったほどの方です。役者を正面から撮るために、後ろ向きに歩き続けるんですね。自分が信じる構図を壊さず動き続けられるところが、熟練の技術なんだろうなと思います。
●『人狼ゲーム』の影響は?
――最後に川上監督は『人狼ゲーム』シリーズを長く書いておられましたが、作品作りにその影響はありますでしょうか。
川上:おそらくテーマ的なご質問だと思うんですけども、『人狼』はひたすら議論を戦わせるので、役者さんが立板に水で長いセリフを語ってくれるのが気持ち良くなってしまって。今回も次の作品もセリフ量が尋常じゃないのは間違いなく『人狼』の影響ですね(笑)。
今は明るい作品をやりたい気持ちが強くて、次やるとしたらコメディ要素が強いものになると思います
――コメディもめちゃめちゃ向いてらっしゃると思うので、楽しみにしております!
ロケ地になった 山田別荘さんは、元々地元の商人の別荘として建てられた築100年ぐらいの歴史ある建物とか。「何度か行われた増改築で迷路的な構造になっていて、今回の作品にも不思議な雰囲気を与えてくれた」と川上監督。
話のこじれ具合と一緒に、迷路をぐるぐる回っているような感覚もぜひ楽しんで頂きたい。
【上映情報】
●関東地方
東京都/シネマート新宿:6/30(金)
栃木県/宇都宮ヒカリ座:7/28(金)~8/3(木)
●北陸・甲信越地方
長野県/千石劇場:7/28(金)~8/4(木)
●中部地方
愛知県/名古屋シネマスコーレ:8/5(土)~8/11(金)
●関西地方
大阪府/シネマート心斎橋:7/7(金)~7/20(木)
京都府/京都みなみ会館:7/7(金)~
●九州・沖縄地方
大分県/別府ブルーバード劇場:8/25(金)~8/31(木)
熊本県/熊本ピカデリー:8/18(金)~