意外な食べ物を組み合わせてみると、思わず美味い!とはまってしまうことがある。最近知ったのが“アイスクリーム”と“ごま油”。聞いた時はええっ?と思ったものの、やってみるとなんとも香ばしく後を引く。

さて、こちらも一度体験すると後を引く!と好評なのが、落語家の桂米紫さんが贈る落語と映画のコラボイベント「茨木コテン劇場~古典落語とクラシカルシネマ~」だ。2013年より十三のシアターセブンで行われていた人気イベントが、会場を茨木クリエイトセンター・センターホールに移して3年目。今年は7/10(土)、「ともにやるなら怖くない!心も躍るファンタジー」をテーマに開催される。

気になる演目は、なんでも芝居にしないと気が済まない芝居オタクの丁稚や旦那たちに、酢ダコ寸前の蛸が大脱走、三味線・鳴り物が華やかな“ひとり和製ミュージカル”『蛸芝居』と、ミュージカル映画の傑作『オズの魔法使い』。古典落語と往年の名作映画のコラボが実現!
まさに「エエとこどり」のこのイベント、桂米紫さんにその魅力を伺った。


映画の勉強をするつもりで出会った落語

――もともと映画監督を志していたそうですね。

米紫:とにかく映画が好きで、僕、映画製作者の養成所に通っていたんです。いろんなジャンルを観なあかん!と、色々な国の色々な時代の色々な映画を観ていました。一番好きだったのは日本では黒澤明。映画としての動の魅力が詰まっているというのかな。すごく刺激を受けましたね。

――映画漬けの学生時代だったんですね。

米紫:今はデジタルになってスマホで簡単に撮れて編集もできるという、こんな時代になると思いませんでした(笑)。映画監督になるには、会社に入って助監督として修行を積んで一本立ちをするというやり方もありますけど、当時は自分達で映画を撮って、ぴあフィルムフェスティバルのような登竜門で注目を浴びて映画界に入るという流れに憧れていましたね。自分達で映画を撮るには、フィルム代に現像代、どえらいお金も人手もかかります。

――それが落語家に変わったきっかけは何ですか?

米紫:当時よく言われたのが、映画というのは誤解の芸術であると。シナリオライターが意図して書いたものをプロデューサーが誤解して、それを監督が誤解して、役者が誤解して、いろんな人の誤解の元で成り立つみたいな(笑)。そんな状況下で映画の勉強になると思って、落語を見に行き始めたんですね。

――そこで大きな出会いがあったんですね。

米紫:そうなんですよ。小さい会場でしたけど、うちの師匠の落語会で、噺を聴いて頭の中に広がる画に、「映画と同じだ!」と思ったんです。それは映画好きだからかもしれませんけど。おっさんが一人で喋っているだけなのに、カット割りがあって登場人物がたくさん出て来るのが、すごい!しかもお金かけずに座ってできるってすごいなって。そこから落語家になろうと思い始めましたね。

――それはすごい転換でしたね!

米紫:完全にシフトチェンジをしたというより、落語の中に映画との共通点を見出したっていうのかな。そんな感じでしたね。


36席からキャパ11倍の会場に!

――「茨木コテン劇場」が企画されたきっかけは?

米紫:落語会のプロデュースをしているさかいひろこワークスのさかいひろこさんが企画してくださった、十三のシアターセブンでキャパ36席のちっちゃい規模の会だったんです。だんだんお客さんが増えてきて。36席やけど(笑)。企画自体は僕も面白いなと思いましたし、落語会が何かとコラボするっていうのはあまりない試みで、好きな映画とコラボさせて頂くのがとても楽しかったですね。

――お客さんの反応はいかがでしたか?

米紫:お客様も最初は戸惑ったところもあると思うんです。落語ファンと映画ファンは必ずしも共通しているわけではないですし。ただ落語ファンが映画も観て、「映画って面白いな」ってアンケートに書いてくれたり、映画ファンが落語を聞いて、「生の落語って楽しいね」って書いてくれたり。おかげさまで十三ではイベントとして定着してきた感じがありましたね。

――そして3年前から大きな会場に!

米紫:好評につき、茨木クリエイトセンター・センターホールという、フルならキャパ426席の会場に広がって。十三ではある意味マニア向けというのかな?落語ファン映画ファンにとっても趣向色が強かったと思うんですが、会場が変わって客層が広がりました。地元のお客様にたくさん来て頂けたことがありがたかったですね。近所のご年配の方が「うわー!この映画若い時見たんや」っていらっしゃったり。「思い出深い映画です」なんてアンケートが読めるのも醍醐味。生の落語を聞いたことがないという方にもアピールできたことがすごく嬉しいです。


両極端な虚構の形が楽しめるイベントとして

――クラシカルシネマについて、米紫さんご自身が「ここを偏愛してんねん!」というポイントがありましたらお聞かせください。

米紫:映画・落語に限らず、芸術・芸能は虚構の世界で、その世界にどれだけ入り込めるかが作品の魅力と言えます。

特に今度上映する『オズの魔法使い』のようなハリウッド製のクラシカルシネマは本当に夢の世界。映画は総合芸術と言いますけど、色んな要素が入った豪華絢爛な夢の世界に、映画館の暗闇でしかも大きなスクリーンで浸れるのは大きな偏愛ポイントです。

映画はどえらい金をかけてフィルムに刻み込んでくれたお陰で、演劇と違って現代の日本でも、1939年の映画が、しかもスクリーンで見られるのがいいところだと思います。

――古典落語についてはいかがですか。

米紫:面白いのは、落語というものは映画とは真逆なんですね。金はかかってないし、演者が生でやる。真逆のものなんだけどどちらも虚構の世界に浸って行けるっていう快感は一緒で、この対比もすごく面白い取り合わせだと思います。 落語の偏愛ポイントは、金を一切掛けてない簡素なものだけど、お客さんをのめり込ませることができるということかな。両極端な虚構の形に惹かれますね。

――両極端な虚構の形が楽しめるのがこのイベントの醍醐味なんですね。コロナ禍で作品選びの際に意識されたことはありましたか。

米紫:やっぱりこんな時期ですし、明るく楽しい映画を、というのはありましたね。映画上映リストの中にはイタリアの『自転車泥棒』みたいなシリアスな映画もあって、そういう作品ならではの魅力もあるんですけども、こんな時期ですのでお客さんが楽しい気持ちで劇場を出てもらえる作品にしようと思いました。

――このイベントでお楽しみがもうひとつ。米紫さんによる映画解説コーナーですね。

米紫:「落語家的ミニミニ映画解説」と言いまして、作品の解説・裏話を披露するコーナーを設けて頂いたことが、映画好きの落語家として凄く嬉しいですね!
僕らの世代は子供の頃、テレビの洋画劇場ではお馴染みの解説者がいて、日曜日は淀川長治さん、月曜日は荻昌弘さん。水曜日が水野晴郎さん、土曜日は高島忠夫さんでね。高島さんの解説はおもしろないなと子供心に思ってましたけど(笑)。解説を聞いて映画を観るのがまた一つの楽しみでした。もちろんあんな偉大な先生方のようにはいきませんけど、落語っぽい解釈で面白可笑しく解説するのが僕自身楽しいですし、お客さんも楽しんで頂けるんじゃないかと思います。

――最後に観客の皆様に一言お願いいたします!

米紫:落語と映画はすごく共通点があると思いますし、映画好きの方が落語を見たら絶対はまると思うんです。この機会にぜひ生の落語も見て頂ければありがたいなと思います!


「茨木コテン劇場~古典落語とクラシカルシネマ~」

【出演】桂 米紫
【プログラム】
●落語:桂米紫『蛸芝居』
●映画:『オズの魔法使い』(1939 年/101 分/アメリカ/カラー)
監督:ヴィクター・フレミング 出演:ジュディ・ガーランド バート・ラー 他
※桂米紫による「落語家的ミニミニ映画解説」あり!

【公演日】令和 3(2021)年 7 月 10 日(土)13:00 開演 ※発売中
【会 場】茨木クリエイトセンター・センターホール (※正式名称:茨木市市民総合センター)
大阪府茨木市駅前四丁目6番16号/JR 茨木駅徒歩 10 分、阪急茨木市駅徒歩 12 分
【料 金】全席指定 一般 2,000 円
65 歳以上・障害者・その介助者 1,800 円 高校生以下 1,000 円 ※未就学児入場不可
【チケット申込・問合せ】
(公財)茨木市文化振興財団・文化事業係 TEL072-625-3055(9-17 時)
【他プレイガイド】
イープラスローソンチケット

桂米紫さんプロフィール】
かつては映画監督を志していたが、同じ京都出身の都丸(現・塩鯛)に憧れ噺家の道に入門。ざこば一門ならではの迫力ある熱血性と、映画や演劇の手法を豊かに取り入れた生々しくも愛らしい人物描写で不器用だけれども、一生懸命な登場人物たちを鮮やかに活写する。持ちネタは「堪忍袋」、「秘伝書」、「宗論」等の笑いの多い滑稽噺からストーリー性を重視した「らくだ」、「景清」、「ねずみ」等の大ネタ、「蛸芝居」などの芝居噺までバラエティ豊か。そのいずれもが“不器用者への応援歌”として、暖かい後味を残す。四代目米紫を襲名し、今後の円熟味も期待させる若手の注目株。NHK新人演芸大賞(落語部門)、なにわ芸術祭奨励賞、文化庁芸術祭新人賞、第十回繁昌亭大賞奨励賞受賞。

執筆者

デューイ松田