ニート女からボクサーへ!驚くべき肉体の変化で作品を飛躍させた安藤サクラ、映画『百円の恋』 を語る!
部屋の中でTVを観ている女のだらしないぼってりとした背中。
TVの中で動くもの追うだけのドロンとした目。
ケモノがいる…。ゾクゾクさせられる瞬間、それはスクリーンの中の映像ではなく目の前の出来事になった。
自堕落な生活を送る32歳のニート女・一子(安藤サクラ)。成り行きで働き始めた100円コンビニの常連である中年ボクサーの狩野(新井浩文)との出会い。初めて満たされた心が狩野の裏切りによってズタズタとなり、どん底の生活から怒りを胸にボクシングにのめり込んでゆく。
一子の魂の再生の過程を安藤サクラの肉体を通じて目撃する『百円の恋』。観る者の心どころか身体まで激しく共振させる、今これを観ずして何を観る!?というべき作品だ。
「第一回松田優作賞」グランプリを受賞した足立紳氏の脚本を『インザヒーロー』『EDEN』の武正晴監督がメガホンを取った。第23回東京国際映画祭では<日本映画スプラッシュ部門>で作品賞を受賞。12月20日(土)からテアトル新宿ほかで順次全国ロードショー中となっている。
安藤サクラさんにインタビューをするのは、実はこれで2度目だ。2010年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で行った『サイタマノラッパー2』のインタビューに、入江悠監督、5人の主演キャストの1人として安藤さんも参加。集団面接のようなインタビューの場での安藤さんは、感じた事をふわりと言葉にする感性の人という印象だった。
数年たち、リングに上がるかのように1対1の対峙となった今回。感性の人は、動いた心の軌跡を的確な言葉で捕まえようと心を砕き、沈黙も恐れない強さを持ち得ていた。そして言葉が理解されているか確かめる誠実さ。やはり一子も安藤サクラもかっこよかった。
■文字の段階で興奮した試合のシーン
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——一子さんの逃げは、誰でも多少なりとも重なる部分があると思うんです。だからこそ引き込まれるし、ボクシングの練習して強くなっていく一子さんと共に、自分まで飛躍するような一体感が凄く気持ちよくて、113分間前のめりになりました。
安藤:一子さんがボクシングを始めてからは本当に…観ちゃいますね。自分の出演作は、ある程度客観的にも主観的にも気になったりするんですが、ただ“この映画かっこいいな”と思って。自分が出ているのに普通に観てしまう。
それは監督の武さんの演出力というか、“武さんが一子さん”を作ったからそうやって私は観れるんだろうなと思いました。
——脚本を読んで一番気持ちが動いたところは?
安藤:それはもう、ラストの試合のシーンです。そこでとても興奮しました。我々が撮影しているときに何を大事にしたかというと、脚本です。足立さんが書いた脚本が松田優作賞を受賞してこの作品が動いたので。試合シーンがト書きとして描かれているような形でしたけど、文字の時点で凄くカッコいいというか。ん?カッコいいという言い方も違うか。読んでいて凄く興奮したのを覚えていますし、その興奮は更に映画になって倍増して、きっちりそのまま描けていたのではと思います。
脚本は一字一句変えてないし、アドリブは誰もしていないし。監督もそこは何よりも大切にしてました。その中でわれわれ俳優や監督たちが動いていたという。それくらい脚本を大切にしてました。
■かっこいいウンコが出せた!
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——オーディションでは役をゲットするためにどんなふうに臨みましたか?
安藤:ゲットしてやろうという気持ちともまた違う。うーんなんだろう。この作品に関しては私がこの役をやりたいという気持ちとは少し違いますね。
この作品に出会ったら、きっと私は、ひとつまた変わるんだろうなと思いました。でも、できる限りオーデションで努力して、それで他の方になったとしても、凄く成功してほしい作品だなっていう気持ちもありましたし。だけどもし私に決まったら、誰よりもこの作品で“かっこいいウンコ”を出さなければと。いう気持ちで受けました。
——かっこいいウンコというのは?(笑)
安藤:出来上がった作品を観たら私はちゃんと武監督によって“かっこいいウンコ”を出してもらっていました。あ!本当にウンコが落ちる訳じゃないですよ!!(爆笑)
”かっこいいウンコ”が出せる作品に出会えるチャンスなんてめったになくて。一子さんと共にぐっちゃぐちゃになりたいな、と思ったんです。オーデションはそういうお話をして、脚本を読んでどう思ったか。あとはワンシーン演じました。
$gray 安藤さん独特の表現は、表面的な演技ではなく“肉体を通して出てきた重量感のある演技”と捉えたが、みなさんはいかがだろうか?$
■一子という女性を楽に演じたくなかった
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——一子さんをどういう女性と捉えて演じましたか?
安藤:一子さんは、ニートというかパラサイトシングルというかそういう女性で、100円ショップで自立していくんですが。単純に例えば“暗い”女性とか。わかりやすくそういう女性を演じたり、簡単に…..一子さんを決めたくなかったんですね。できるかぎり楽をしたくなかったというか。
一子さんは何故かバイト先でも凄い肝が据わっているように感じて。ドスンとしているというか(笑)。だけど堂々といられないという、その矛盾をキチンときちんと表現したいなと。それは凄く難しかったです。
ドスンとしているけど、堂々とできないみたいな。
——出来ない部分というのは自分に対する自信のなさとか。逃げてることに対する後ろめたさとか、そういうところでしょうか。
安藤:あるんでしょうね。簡単にやろうとしたら凄く簡単にやれる役柄でもあると思ったので、一番難しいなと思いましたね。ではその役柄にどうやったら私は説得力を持たせることができるのか、となった時にやはり“自堕落な生活”をしている体型や見た目に説得力がないと、この映画は面白くないだろうなと。思っていました。
■脂肪と筋肉をつけ、脂肪だけを落とす
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——体型の変化が作品のリアリティを支えていましたが、どのように実現されましたか?
安藤:撮影期間は2週間でその中で、だらしない身体からプロのボクサーになるまで。どうしたら2週間で撮れるのか?
簡単に言うとプロレスラーやお相撲さんと同じで脂肪と筋肉をつけるんです。運動や筋トレで消費したカロリー以上に食べて食べまくって、大きな体にする。どうしたら、その後ボクサー体型になれるのか。脂肪だけを落として、後は筋肉だけを残す。簡単に言うとそんなかんじでした。
毎日朝から晩まで映画の撮影をしているので、撮影中は運動できないんです。なかなか今考えると、不可能なことやったなぁ、と思います(笑)。
——合間の時間でトレーニングされた?
安藤:多少はしましたが、あまり時間はないですし、筋肉をつけると免疫力が逆になくなってしまうので。マッチョな人ってすごい風邪引きやすいんですって。映画の撮影自体凄く過酷なので、基本的には逆に筋トレは禁止されていたんですね。
トレーナーの人にそれは成立するのかと聞いたら
「成立はしない。一つだけ出来る可能性があるとしたら相当な無理。人としても生物学的にも無理をすることでしか成立しない」
無理をしても無理じゃないかということだったので、出来るところまで無理をして。身体を作っていった感じです。
■武組との信頼関係が実現させた奇跡
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——撮影期間で一番キツかったのはどの部分ですか?
安藤:うーんキツかったのは…ではどうしてそんな無理をしたのか。結局、身体を作れば作るだけドラマが際限なく広がると自分でわかっていたので、もし監督にそこまでしなくてもいいよと言われていたとしても、私はそれを出来るところまでやりたかったんです。制限がないというのは中々キツイんですよね。制限がないという意味は、上手くなればなるだけいい。自分の頑張り次第なので。
——どこまでも上があるということなんですね。
安藤:理想はどんどん。時間は2週間で絞る時間は10日しかなくて。という….すごく追い込まれていたというか、自分で追い込んでいただけかもしれないけど、中々それはキツかったですね。
でもどうしてそれが出来たかというと、武組の力。みんな同じ気持ちで闘っていたのでそこに救われました。素敵な現場で、凄く血の通った現場だったんです。肉体はどんなにすり減っていても、精神的には本当に満たされていて、全く磨耗しなかったというか。監督も本当にギリギリのギリギリの意識がなくなるんじゃないかというところまでやらせてくださるんです。愛のある鬼でした(笑)でも信頼してないとそこまでいけないので。そういうところは凄く助けられました。
■新井浩文さんがいたから乗り越えられた身体作り
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——いろんな意味で一子さんを大きく変える存在となった元プロボクサーの狩野を新井浩文さんが演じましたが、新井さんとの共演はいかがでしたか?
安藤:作品的には共演することが凄く多くて。夫婦もやってるし、殺されそうにもなっているし。今回はお互い、しっかりと相手役として共演するのは初めてでした。
体型の変化にしても、ボクシングの練習にしても新井さんがいたから頑張れたと思います。新井さんも一緒に凄い身体作りしていましたし。素直に映画の現場に一生懸命にいられる。凄く励まされました。
——そういった信頼関係が作品をさらに強固なものにしたんですね。部屋で噛み切れない肉を食べているシーンは、不器用な二人の心情が淡々と伝わって来て泣けました。
では最後に、”百円”に込められた意味に絡めて観る方にメッセージを頂けたら。
安藤:あんまり“百円”という事に対して考えことがなかったけど。“百円”というキーワードが、とてもPOPにしてますよね。
——言い捨てちゃっているけど、それでは終わらないのが味わい深い。恋も超えちゃってる感じですよね。
安藤:そうですよね。百円の恋か、と思って観て、ぜひ裏切られていただきたい!(笑)すげえカッコいい映画です!
20時間以上撮影したという一子の闘いの結末。そしてラストに一子から発せられた言葉。シンプルな、しかし胸が熱くなる魂の吐露を劇場で確かめて欲しい!
関西エリアの公開予定は下記の通りとなっている。
●1月3日(土)シネ・リーブル梅田
※1月11日(日)16:40の回終了後、安藤サクラさん、武正晴監督舞台挨拶予定
●1月17日(土)京都シネマ
※18:50の回終了後、安藤サクラさん、武正晴監督舞台挨拶予定
●1月17日(土)神戸元町映画館
※12:20の回、安藤サクラさん、舞台挨拶予定
執筆者
デューイ松田
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