映画『私の男』のブルーレイ・DVD を 2015 年2 月3 日に発売することとなりました。第36 回モスクワ国際映画祭コンペティション部門<最優秀作品賞><最優秀男優賞>W 受賞、桜庭一樹原作の直木賞受賞ベストセラー小説の映画化作品で、浅野忠信、二階堂ふみが挑む“禁断の純愛”です。
ブルーレイ・DVD の発売を前に、熊切和嘉監督にオフィシャルインタビューを行いました。12 月より文化庁の新進芸術家海外研修の研究員としてパリに留学中の監督の、留学直前の心境も聞いております







■『私の男』は桜庭一樹さんの直木賞受賞作です。監督は最初に読まれたときから映画化したいと思われていたとのことですが、この小説のどこに一番惹かれたのでしょうか。
熊切和嘉監督(以下、熊切):映画で浅野忠信さんに演じてもらった淳悟と、二階堂ふみさんに演じてもらった花、このふたりの関係性です。二人のような道徳観を超えた関係を日本映画で扱うときは、忌まわしき過去として描く場合が多い。でも桜庭さんの小説はその先と言いますか、彼らにちゃんと寄り添って描いている気がしました。文学はこういうことに挑戦しているのに、最近の日本映画は負けていると思っていたので、映画化したいなと思いました。

■監督の作品は海外でも評価が高いです。『私の男』もモスクワ国際映画祭で、最優秀作品賞と最優秀男優賞(浅野忠信)に輝き、二階堂さんもニューヨーク・アジア映画祭で受賞しました。
熊切:実は海外のほうが話題と同時に拒否反応が強かったんです。モスクワに行ったときも、プレス上映はかなり大きな会場が満席で、インタビューでも「本映画祭中、もっとも挑発的な映画ですけど、それが吉と出るか凶と出るかどちらだと思いますか」と聞かれて(笑)。国によって宗教観なども違うので、記者会見でもかなりキツイことを聞かれましたし、キワモノと捉える人も多かったようです。ただ、「表面的なことしか見ていない、そういう映画じゃない」と言ってくれる方々もいました。受賞は全く予想していませんでしたが、審査員に映画監督の方が多かったので、挑戦的という部分が逆に評価してもらえたのかなと思います。作品は勿論ですが、俳優が評価されることは何より嬉しいですね。やはり現場では一番俳優と近い位置にいると思うので。

■浅野さんと二階堂さん、おふたりが演じられたからこそ生まれた淳悟と花であると特に感じる部分は?オーディションで二階堂さんを見られた瞬間に花だと感じられたとか。
熊切:他の方では考えられないですね。原作からすると、もっと耽美的でエレガントな作品にも持って行けたと思うんです。でも浅野さんと二階堂さんは表面的じゃないし、形だけではいかないタイプで、それがすごく良かったです。
二階堂さんは当時 16 歳で別の作品のオーディションに来ていたんですが、一人だけ不敵だった(笑)。芯があるし、芝居も憑依する感じで、本人は前に出ようとしていないのに目を引きましたね。

■『海炭市叙景』も北海道が舞台でしたが、本作もほとんどが監督の出身地である北海道が舞台です。北海道を撮る際に特別な思いはありますか?
熊切:あります。この作品を映画化したかった理由が、まさに上で述べた‘二人の関係性’と‘北海道’でした。
奥尻地震や北海道拓殖銀行の経営破たんといった、ある種北海道の負の出来事があった時期、僕は大阪の大学にいて北海道を離れていたので、更に興味を持ちました。本当はずっとここで撮りたいと思うほど、北海道は自分にとってしっくりくる場所ですし、北海道出身というのは自分の武器だとも思っています。北海道でロケされた作品は数多くありますが、どうしても絶景モノが多い。でも僕は、自分が育ったからこそ描ける痛みと寒さがあると思っています。

■最後の花のセリフは口元を読み取れる人と読み取れない人がいると思います。脚本上でははっきりと書いてあるんですか?
熊切:脚本上もカッコになっています。脚本があがってきた時に、ラストの淳悟の表情をどうみせようか、と自分の中で燃えるものがありました。セリフ自体は分らなくてもよくて、とにかくその後の表情を見せたかったです。

■DVD リリースに向けて、ひと言お願いします。
熊切:チェックで見ていたとき、僕はメイキング部分を途中で止めちゃいました。もう思い出したくないくらい、撮影時の辛さがたっぷり映っていて(笑)。見ごたえあると思います。

■文化庁新進芸術家海外研修制度でのパリ留学では、どんなことを学びたいですか?
熊切:最近有難いことに仕事が続いていて、なかなか映画のことをじっくり考えたり、オリジナル企画のことを考えたりする時間がなかったので、一度孤独になって頭の中を整理したいと思っています。あと、シネマテーク(映画文化施設)通いもしたいです。留学中は仕事をしてはいけないので、習作的な短編を撮りたいなと思っています。

「私の男」
2 月3 日ブルーレイ&DVD 発売
価格:ブルーレイ¥5,200 DVD¥4,200 (税抜)
発売元・販売元:ハピネット

【原作】桜庭一樹「私の男」(文春文庫刊)
【監督】熊切和嘉
【キャスト】浅野忠信、二階堂ふみ、モロ師岡、河井青葉、山田望叶、高良健吾、藤 竜也

執筆者

Yasuhiro Togawa

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