3月23日より神戸映画資料館にて【転形期のインディペンデント映画 第2回 マイナー映画の方へ】と題して個人映画の名手3人の作品を特集上映する。

登場するのは関西在住の孤高の映像作家・木村卓司監督の『時』。『シネマトグラフ オブ エンパイア』(2009)、元町映画館の誕生を追ったドキュメンタリー『街に・映画館を・造る』(2011)に続いての新作となる。

2人目は「Blessed —祝福—」崟利子監督。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2001にて上映、ニヨン国際映画祭にて特別賞を受賞した性愛にまつわる感情をめぐる私的ドキュメンタリー。

そして今回、スポットライトを当てたのは3人目、関西ではあまり紹介されて来なかった内村茂太監督。
『内村茂太のオールナイトニッポン』のパーソナリティ・ディレクター・リスナー・ハガキ職人の一人四役で多忙な日々を送る側ら、『多摩川くらしの手帳『べっぷ、たまがわ』『おしゃれ29/29』『僕の新婚旅行』といった8ミリ作品でコンスタントな評価と秘かなファンを増やしている。

内村作品の登場人物は主にご自身と奥様、愛猫のチャコ。8ミリフィルムで淡々と綴られた日記映画の風体に、80年代から90年代のバカ映画精神とわき腹に贅肉がついてきた大人のキープオンロックな飛躍ぶりが楽しいナレーションの数々を堪能していただきたい。




















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『兼高かおる世界の旅』と内村茂太
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デューイ:内村さんの作品って、分別ある大人なら損得の問題でまずやらないことをポンとやるのが魅力だと思うんです。『シロノワールを食べたことがあるかい?』(2012)だったらコメダ珈琲店のシロノワールを食べに東京から名古屋まで食べに行ったり。『おしゃれ29/29』』(2004)だったら会社の車で逃避行。『多摩川暮らしの手帖』』(2007)だったらあてもないのに名古屋の仕事を辞めて東京の多摩川限定で住宅探したり。

内村:普段からしたいなと思っていることを撮っています。誰かのCDアルバムの帯に『嘘はつくけど本気だぜ』って書いてあって、カッコいいなと思ってそんな気持ちですね。誰のアルバムでしたっけ?小比類巻かほるのアルバムではなかったことは確かです。

デューイ:さて内村作品のルーツを探って行きますが、広島に住んでいた子供の頃はどんなお子さんだったんですか?

内村:すごく可愛かったです。祖父母に可愛がられました。自分でもこんな可愛い孫がいたらいいなぁと思いました。小学校低学年のころは『兼高かおる世界の旅』(★)が好きでよく観てました。

(★)1959年から1990年まで31年間、海外旅行が一般化される前から放送されてきた紀行番組。兼高かおるさんが聞き手の芥川 隆行さんに取材した現地の様子を紹介する。訪問した国は約150カ国、地球を180周した計算になる。兼高かおるさんはナレーター、レポーター、ディレクター、プロデューサーを兼任した。

デューイ:私の家でも日曜の朝の定番でした。そのくらいの年齢の男の子なら特撮モノのタイトルが出そうですが、『兼高かおる世界の旅』ですか(笑)

内村:何だかわからない怪人と出会う石切場よりも、地元の人達が楽しそうに歌ったり踊ったりしている場所に行ってみたいと思ったのかもしれません。これ、以前カセットテープでも話したことあるかなぁ・・・。

デューイ:『内村茂太のオールナイトニッポン』のことですか?大丈夫です。そのカセットテープ、全世界でリスナー5人位しか居ませんから。
小学生のころの『兼高かおる』体験が今の旅行日記に繋がっていそうですね。

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『ポリスアカデミー』と内村茂太
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デューイ:映画なんかは観ましたか?

内村:親が好きだったので『男はつらいよ』はよく観ていました。何かの同時上映で『ホリデーロード4000キロ』(1983)という映画を観て、旅行する映画って面白いなーと思いました。それがロードムービーとの出会いです。この間久しぶりに観たら全然面白くなかったです。

デューイ:そういう小学生時代を経て、内村さんのキャラクターが決定した時期と言えば中学生の頃になるんでしょうか。よく“広島で多感な時期を過ごした中学生時代”とおっしゃってますね。

内村:そうですね。丁度ラジオを聴き出した時期で友達と映画を観に行ったり、レンタルビデオも出てきた頃ですね。

デューイ:当時一番好きな映画は?

内村:『ポリスアカデミー』(1985)です!

デューイ:名作ですね!『ポリスアカデミー』といえばブルーオイスター(★)(笑)。私も大好きです。徹底的にギャグにギャグを重ねる展開で、きちんと各キャラクターの成長も描いているし。
(★)シリーズで定番化した『ポリアカ』を象徴するギャグ。未見の方はぜひレンタルを。

内村:シリーズのどれを観ても、特に内容は覚えていませんが、『ポリスアカデミー』には影響を受けました。今もポリアカ魂だけは忘れていませんよ!(ポリアカ魂について一時間以上まくしたてる)

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オールナイトニッポンと8ミリと内村茂太
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デューイ:(ボイスレコーダーの残量を気にする)『ポリアカ』はそのくらいで。『ビートたけしのオールナイトニッポン』もお好きだったそうですね。

内村:よく聴いてました。それで高校生の頃、友達と初めてラジオの真似事をしてテープを作りました。この話、確かカセットテープで話しましたよね!

デューイ:気にしないでください。聞いてる人がいても覚えてませんから。
マイクを前に話すのは抵抗がない方ですか?

内村:マイクに話すのは平気ですが、初対面の女の子に話すのは苦手です。女の子がみんなマイクだったらと思います。でもそんなポコチンみたいな見た目の女の子は嫌ですね。

ディーイ:(無視して)それが「内村茂太のオールナイトニッポン」のルーツなんですね。実際8ミリカメラを手にするようになったのはいつですか?

内村:高校卒業する頃に家の引越しで名古屋に移ったんですけど、映像の専門学校(現・ビジュアルアーツ)に入ってからですね。元々映画が好きだったので自分でも撮ってみたかったんです。授業はなかったけど、学校に8ミリカメラがあって使うようになりました。8ミリフィルムがビデオに切り替わる時期で、ビデオでやるには映像が良くなくて上映すると走査線が出て薄いんです。8ミリやる人はどんどん減っていたけど、こんな映像なら8ミリでやった方がいいやって感じでした。

デューイ:最初に撮ったのはどんな作品ですか。

内村:友達が撮って僕が出演した『富士山とジョン・レノン』です。鼻メガネつけてジョンって設定で富士山に向かうんですけど、道中「川をキレイに」って看板を持って上流まで上がる。そこで“六甲の美味しい水”を撒いて下流まで走って、川の水を飲んで咳き込む、みたいな(笑)これ以前カセットテープでも話しましたっけ?

デューイ:いえ、ラジカセ持ってないので、ちょっとわかりません。
それで・・・周りの人の評判は?

内村:知らないおじさんが誉めてくれました。その後が『猿!ゴリラ!チンパンジー!』。人に出てもらって思い付きで撮ったような作品で、違うなって(笑)

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『僕の新婚旅行』と内村茂太
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内村:結局名古屋には2年住んで、東京でイメージフォーラムをやって、また名古屋に戻って7年。それから多摩川に戻って今に至ります。完全に身の回りのことで作品を作るようになったのは『僕の新婚旅行』からですね。

デューイ:奥様は出演することに対して抵抗はなかったんですか。

内村:普通に旅行に行って撮ってるだけなんで、特になかったですね。

デューイ:内村さんが今のスタイルになったのは何かきっかけがあったんですか?

内村:専門学校にいた頃は劇映画の手伝いをやったこともあって、みんなでお祭りみたいにやるのも面白いんですけど、自分がやりたいものとは違っていたんですね。その時は具体的に今の形が浮かんでいた訳ではないんですけど。

デューイ:まだ明確ではなかったんですね。

内村:今も明確ではないです(笑)。とにかく『嘘はつくけど本気だぜ』という気持ちでやっています。これ、絶対カセットテープで話しましたって。

デューイ:内村さん細かいですね。昔紀伊国屋書店で本棚の影から手裏剣を打ちながら「男らしくないジョン・レノンは嫌いよ」とつぶやく女の人に遭遇しましたが、その気持ちがやっと分かりました。

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内村茂太的おしゃれとは
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デューイ:今後やってみたいことはありますか?

内村:『ポリアカ性格診断』という本を出版する計画を立てています。
例えば、デューイさんは『ポリスアカデミー』の登場人物の中で誰が好きですか?

デューイ:(今帰れば『園田競馬ダイジェスト』に間に合うのにとイライラしてくる)タックルベリーですかね。

内村:(手帳をめくりながら)なるほど、タックルベリーといえば拳銃です。拳銃というのは当然男性器のメタファーですので、タックルベリー好きということは男性器が…。

デューイ:(めんどうくさくなって)もういいです!最後の質問です。あなたにとっておしゃれとは?

内村:高校生の頃は、髪型や服装に気を使うのは男ではないと考えていて、3年間いっさい寝ぐせを直さずに登校しました。最近になって、高倉健さんが映画の中で寝ぐせをつけているところなんか見たことないということに気づいてからは、なるべく直すようにしています。

デューイ:30歳後半になってですか・・・。

内村:そういえば、リッキー・ホイさんは、常に寝ぐせをつけていそうなイメージがありますね。

デューイ:髪型は似てますけど・・・。

内村:おしゃれといえば高校生の頃テストの時期に、前日しっかり勉強してきたくせに勉強していないふりをする人達に対抗して、まったく勉強していないくせにあたかも徹夜で勉強してきたかのように、目の下に隈のメイクをして登校したことがあります。教師には心配されましたが、テストの結果を見てメイクするひまがあったら単語のひとつでも覚えておけばよかったなと後悔しました。男がメイクなんかするもんじゃありませんね。

デューイ:内村さんを知らない方にこの面白さをどうご紹介すればいいのか、大真面目に考えたんですが全く無駄でしたね!

$blue そんなポリアカ魂炸裂の内村さんの作品を始め、個人映画を極めた作家たちの作品を一挙公開!3月23日から神戸映画資料館にて。内村さんは新作カセットテープを引っさげて23・24日と舞台挨拶の予定です。

執筆者

内村茂太&デューイ松田

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