2/9より公開・走り続けるオールドルーキーに贈るアンチエイジング・ファンタジー!映画『元気屋の戯言』上原源太監督・元気屋エイジ インタビュー
「元気屋」と聞いて、あなたはどんなイメージが湧くだろう。
職業?
アントニオ猪木の「元気ですかー!」?
胡散臭い?
そう思う人にこそ観てほしいのが、この『元気屋の戯言』だ。
若くもなくおじさんの領域に入りつつあるけど「こうありたい」と願う理想の自分は変わってない。
そんな“オールドルーキーたち”に贈る渋谷を舞台にしたアンチエイジング・ファンタジー、2013年2月9日(土)〜15日(金)、新宿シネマートにてレイトショー公開決定!
主人公・元気屋エイジは渋谷の街に生きる何でも屋。ポエトリーリーディングとビラ配り、あらゆる人々に声を掛けずにいられないお節介と人助けの毎日を送っている。ある日出逢った韓国人女性リ・シオン。詐欺師として警察に目を付けられている彼女の更生を願うエイジに、彼女を追う組織が立ちふさがる。
「元気屋エイジ」の一期一会の清清しい姿勢は、ひねくれた大人の心にこそ意外とストレートに響く。ただ能天気にポジティブイメージを演じているのではなく、その内側にある強固な意思によって裏打ちされているからだ。
監督は、ショートフィルム『アレグロ』(2001年)で MX-TV「Tokyoboy」による映像コンテストでグランプリを獲得し、井筒和幸監督に映像屋と言わしめた上原源太。
企画・プロデュース・主演を務めたのは、『スキヤキウエスタンジャンゴ』(2006年)、『ICHI』(2008年)、現在公開中の『たとえば檸檬』、『子供サミット』が待機中の元気屋エイジ。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2012のオフシアター部門コンペティション出品され、『BSスカパー!秋のスペシャルウィーク「ココロ動く!テレビ」鬼がシネマ』にてグランプリを受賞している。
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■「元気屋」が出来るまで
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——「元気屋エイジ」というキャラクター、実際にそう名乗って俳優として活動されているとのことなんですが、誕生のきっかけは?
エイジ:ミュージシャンの竹原ピストルさんが主催で「朗読会 Pound for Pound」というポエトリーリーディングのイベントが年に数回あるんですけど、そこで4年ほど前に「元気屋エイジ」として出たのが最初です。
20歳から10年ほどの間は「野良犬エイジ」として活動していました。20歳くらいの頃は人を傷つけたり家族にも心配をかけるような荒れた生活を送っていて、大きなバイク事故を起こして、右膝下が開放骨折になって半年くらい歩けなくなりました。そんな最低の時期に病院で出会った方々にポジティヴさを貰いました。皆さん病気で亡くなってしまったんですけど…。
それからも色々な方々に出会って、中には亡くなった方もおられるんですけど、そんな方々のお陰で生かされていると思っています。頂いたものを返すでもないですけど、人を元気にさせたい、元気なら誰にも負けない。そんなことをずっと考えていたことから「野良犬エイジ」は10年で卒業して、「元気屋エイジ」に繋がっていきました。
人を笑わせることが昔から好きで、小学校の時、バカをやってる3人組でどうやったらクラスの大人しい女の子を笑わせられるか必死で考えていたことがありました。とんねるずが流行っていた頃で、歌を覚えて絵の具でメイクして拾った笹の木を背負って歌ったり。そういう感覚が原点かもしれません。
——お二人がどう知り合って、「元気屋エイジ」を主人公にした映画を撮るに至ったか経緯を教えてください。
上原:十代の頃から一緒に自主映画を作っていた田淵史子さんという友人がいたんですね。僕は彼女が監督する作品のカメラをやってたんですけど、田淵さんとエイジ君が知り合いだったことで顔見知りになりました。エイジ君とはしばらく会ってなかったんですが、2008年に田淵さんが病気で亡くなって、その後また連絡を取り合うようになりました。
最初は、エイジ君から自分の経験を元に書いた短編の脚本を「映画にしたい」って相談があって、読ませてもらったところからですね。
エイジ:元々「元気屋」は2人いて、渋谷の街のゴミ拾いをしながらこれからどんなことをやるか話をしてたんです。自殺対策に取り組みたいという夢があったんですけど、実際そういう団体に行ってみると政治がらみだったり個人で出来ることではないと気が付きました。自分が出来ることということで、『元気屋の戯言』という映画に取り組んだんです。
ゼロ号試写の時点では現代病の人達をメインに描いていたんですが、重たいテーマを前面に押し出すには勉強が足りていないことを思い知らされて、大きく変更を加えました。結果的に「元気屋エイジ」のノンフィクションに、上原源太の世界観をブレンドしてうまくフィクションに仕立てたといったところです。
「元気屋エイジ」自身は、困ってる人がいたら放っておけないおせっかい。人が居ないと生きていけない人間病ですね(笑)
——それは素敵な病気ですね(笑)。そう言えば、ゆうばりファンタ会期中に上映が終わって、雪に覆われた道を十人くらいの集団とたまたま同じ方向に独りで歩いていたんですね。そしたらその中の一人が「方向はこれであってますか?」というようなことを話しかけてくれたんです。それは方向を聞きたかったのではなく、明らかに独りで歩いていることを気にかけてくれたというのが凄く伝わってきました。後で、あれがエイジさんで、『元気屋エイジ』組の集団だったのかと気付きましたが、今のお話を聞いて凄く納得しました(笑)。実体験から発展していった映画だったんですね。
撮ろうとなってからは準備に時間をかけたんですか?
上原:エイジ君の行動力が凄くて。世の中には動ける人っていうのはたくさんいると思うんですが、比較にならないくらい速いんです。脚本をじっくり練ろうって時期に、役者仲間にバーっと声を掛けて全部一気に整ってしまって、もう明日から撮影(笑)。取り敢えずクランクインしようって流れになってしまって。
僕自身、2年くらい仕事ばかりで映画を撮る時間がなくて「映画を作りたい」という思いもあったので、勢いに飲まれたっていうか(笑)。
——今はどんなお仕事なさってるんですか?
上原:映像制作をしていて、カメラを担当する事も多いです。
——普段はお忙しいから、エイジさん位の勢いがないと映画制作は始まらなかったんですね。
上原:そうですね。脚本を詰めたり現場で考えたりの積み重ねで最初は飛ばして撮影してたんですが、途中でキツくなってきて、丸1年かけてポツリポツリと撮っていきました。クランクインしたのが夏だったんですが、最初の夏に撮れなかった部分を1年後の夏に撮影しました。映画の中では夏から秋の終わりにかけての季節を追ったようになっています。
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■「元気屋」って胡散臭いと思う
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——『元気屋の戯言』というタイトルにはポジティブなイメージと自虐の相反するものが組み合わせれていますが、この映画で一番描きたかったことは何ですか?
上原:「元気屋」を名乗る男をそんなに好きじゃないし、そのままやっても格好良くないって話はしていたんです。でも何とか形にしたいという気持ちはありました。監督によってはこういう題材をてらいなく描けて得意な人もいますけど、僕は今までの作品が「元気屋」とは程遠い、暗く静かな作品ばかりなんです。格好良くないものを格好良く見せるには?というところで悩みましたね。
——「元気屋」を格好悪いと思われるのは何故ですか?
上原:人によっては「元気屋」と聞いて会ってみたいと思う人もいるでしょうけど、僕はその明るさを胡散臭いと思う(笑)。だからその胡散臭さをどう撮れば共感を持って見られるか。この作品はテーマが最初にあった訳ではなくて、「元気を表現したい」とか「元気を与えたい」とも思っていないんです。
元々エイジ君が、竹原ピストルさんの『オールドルーキー』という曲をたまらなく好きだったんですね。この曲からインスパイアされたことが、『元気屋の戯言』誕生のきっかけの1つでもあると聞いていました。僕らも丁度、オールドルーキーと言える年齢に差し掛かっているので、そこを突き詰めていくと描きたいものが見えてきたんです。
エイジ君の直接交渉で『オールドルーキー』をエンディングの曲に使ってもいいとピストルさんに言ってもらえたことも素敵だったと思います。
情熱はあるけどいろんな現実があるという、男の何とも言えない格好悪く見える感じ。ヒロインの若い女の子を前にしても父性が出てくるような。そういう所に行き着くしかないんだけど、それが格好悪い反面、格好いいと思えるように描いてみたかったんです。30代の兄ちゃんがおじさんになるまでの話。
——エイジさんは監督の「元気屋」についての否定的な考え方はどう思われましたか(一同爆笑)
エイジ:僕は料理を作ったりするのが苦手で、質より量のタイプなんですね。今回で言うと、僕は材料を用意して、でっかい鍋に具を突っ込んだんですけど、味に関しては安心して監督に任せたという感じです。みんなで味見して「これ違うだろ」って言ってる間に段々汁気がなくなってきて、さらに具やスープを足してみたり(笑)
——それぞれ思惑は違いますが、パートナーを信頼して上手く落ち着いたという感じですか。
上原:お互いいい歳になったというか、大人になったって言ったら変ですけど。
エイジ:撮影は2010年の9月26日にクランクインして2011年の9月26日にアップしてるんですけど、良くも悪くも時間っていう貴重なものを費やした分、コミュニケーションは取れましたね。監督も仕事が終わるのが9時10時なんで、そこから朝までとことん話し合ったり。監督はジャックダニエルがあればもっと舌が滑らかになるんですけどね(笑)
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■渋谷ロケについて
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——渋谷が舞台ですが、どういう街と捉えていますか?
エイジ:駅周辺はここ20年ほどで作られていて若い子が集まるけど、裏通りには大人もいる変な街。道玄坂の方に行くとストリップ劇場や風俗街があったり、ごちゃごちゃした全然違った顔があります。駅周辺より裏側の方が好きですね。
——映画のなかでエイジさんが渋谷の街で通行人と話すシーンは、エキストラではなく全て本当の?
上原:遠くから望遠で撮っているから気付かない人もいるし、エイジ君が配ってる横でカメラ回していてもあまり反応がなかったですね。街の描写は映画にとって大事で、芝居を作ってるシーンもありますけど、なりゆきで脚本を作っていったからドキュメントタッチ。演出かそのまま撮ったのか分からない微妙な部分が混在している作品です。
——エイジさんは実際通行人と話していかがでしたか。
エイジ:ビラ配りが得意なので(笑)。渋谷っていう場所柄、みんな時間に追われていて立ち止まって会話するってことがあまりないですよね。そこを何か面白いものがあればすかさず監督が拾うっていう形で、とにかく膨大にカメラは回しましたね。
——スタッフは何人くらいで制作されたんですか。
上原:極めて少なくて、エイジ君は1人のシーンが多いんですが、そんな時は僕とエイジ君プロデューサーの3人が基本的なチームです。たまに録音で1人、次の日は違う子が来てくれたり。さすがにアクションシーンはエイジ君の知り合いを集めてもらったりしました。人の多い現場が好きだというのは間違いなく実感しました。スタッフや役者がたくさん集まっている動いている現場が好きです。
エイジ:いい意味での緊張感はありますよね。渋谷のスクランブル交差点を走るシーンが一番スタッフ多くて10人くらいですね。ハイエナ軍団とぶつかる人達は僕の知り合いでエキストラです。丁度あの頃APECか何かで警察が厳しい時期で、ただでさえ僕らゲリラ撮影ですからね(笑)
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■ファンタジックなフィルターを掛けて「元気屋」を描く
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——スクランブル交差点の撮影も1つ失敗したらやり直しになる大変なシーンですが、その他撮影で苦労したのはどんな点ですか?
上原:宮下公園でのアクションシーンですね。ホームレスの人達の長いブルーシート街があるのが駐輪場で、ビルの谷間で日照時間が2時間くらいしかなくて、4、5回行きましたね。
——傘を使ったアクションが面白かったですが、エイジさんは古武道をされているそうですね。
エイジ:北辰一刀流です。監督が殺陣が好きなので時代物っぽくやろうということであんな形になりました。
——上原監督はどんな映画がお好きですか。
上原:沢山ありますが、黒澤明の『七人の侍』は好きです。最初は傘ではなくて合気道とか竹刀ってアイディアもあったんですが、その場にあるものを使う方が自然だってことになって。全体の雰囲気と合わせたときに、意外と成り立ちそうで成り立たないんですよね。
——境目で成立できたのはどういう所からですか。
上原:「元気屋」をストレートに表現する気がなかったので相当なフィルターをかけようとしたんですね。舞台は渋谷ですけどファンタジックな捉え方なので、傘で戦おうが変なキャラクターがたくさん出て来ようが違和感がないというところでしょうか。
——ヒロインのシオンは20代の韓国人の女の子ですが、この設定は何故ですか。
エイジ:突然雨が降ってビルで雨宿りをしていたら、たまたま雨宿りをしている女の子がいて。東京の人って電車の中でも隣の人に声を掛けるってまずないし、逆にみんな避けますよね。その時「雨凄いですね」って声を掛けたら日本語が通じなくて。観光に来た韓国人だったんですけど、“明治神宮に案内してください”って頼まれて。ガイドブックを指してゼスチャーの会話で。せっかくなので観光案内をしようとOKしたんですけど、待ち合わせ場所に彼女が来なくて(笑)
——それが映画の中に生かされたんですね(笑)
上原:ヒロインの菊地亜璃紗さんは役者ではなくて、エイジ君がスカウトして来ました。最初と最後の撮影では彼女は全く違います。演じることが好きになったんでしょうね。
——何かしてあげたくなる儚さがありましたね。あと、印象的なキャラクターとしては、街の中で寝てるけど常に凄い情報を持ってるおじさんもいました。
エイジ:ジョウ・ホウヤです!(笑)
上原:役者は全部エイジ君の役者仲間ですが、みんなオールドルーキーなんですよ。
執筆者
デューイ松田
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