『リヴィッド』ジュリアン・モーリー監督インタビュー、好きな日本の監督は井口昇!
その屋敷には何かがある・・・
『ハイテンション』『マーターズ』など、世界のホラー・ムービーをリードするフレンチ・ホラーから、新たに世界を震撼させるホラー映画のマスター・ピースが誕生した。監督はデビュー作『屋敷女』の大ヒットで世界的フレンチ・ホラー・ブームの火付け役となった、ジュリアン・モーリーとアレクサンドル・バスティロ。監督2作目となる本作は、『ピラニア3D』編集のバクスターなど『屋敷女』のスタッフが再結集し、これまでの暴力路線からファンタスティック路線にシフトチェンジした、全く新しいタイプのホラーを作り上げている。ヴァンパイアの神話を現代的にアレンジし、幻想的で詩的な世界とヴァンパイアが引き起こす残酷描写という異なるものがミックスされた独特のホラー映画である。
ジュリアン・モーリー監督に聞いてみた。
−−−「屋敷女」から5年ぶりの新作、この5年かかったわけは?
たくさんの企画はあったんですが、なかなか実現はしなかったです。
某有名映画のリメイク企画とか、有名なプロデューサーの企画なども2年間費やしたけど、実際に制作に至らなかったです。
そこでフランスに戻り、「屋敷女」のプロデューサーとミーティングをしている中で、英語で、ロバート・ロドリゲス主演で、アメリカを舞台に映画を作ろうとまとまりかけていたのですが、シナリオを煮詰めている段階で、キャストや予算面も含めて、フランスを舞台に変えることで、作品を撮ることになりました。
−−−予算は『屋敷女』とほぼ同額と聞いて驚いたのですが、前作の成功は後押しにならなかったのですか?
『屋敷女』がウケたのは海外だけで、フランスでは無視同然だったからね。しかも『リヴィッド』はファンタジー色が強く、アクションや特殊効果もあり、衣装や装置も凝っている。挑戦的な企画だからプロデューサーに予算の確保を頼むのも大変だった。
−−−監督のアレクサンドル・バスティロとの役割分担は?
特に役割分担は無いです。前作の「屋敷女」でもそうでしたが、一人は俳優に演技指導をしていれば、もう一人は技術の確認をするなどで、効率はいいです。
ふたりとも同じ波長で同じ方向に向かって制作しているので、意見が食い違う事もないですね。
撮影日数なども少なかったので、二人で事前にストーリーボードを作って確認するなど、二人で連携して作業をしています。
−−−題名「Livide」の意味は?
青ざめた人のことを指すのでが、血が無くなった死んだ人を表します。
ちょっと青ざめた人がいれば、使う言葉です。
−−−本作のアイディアは?
2つ理由があって、ホラー映画にもいろんなジャンルがあるんですが、私達観客が、好きなファンタジー映画にもいろんなジャンルがあり、ここ数年、フランスにはファンタジー映画が少なかったので、オマージュを捧げるつもりで、怪物や妖精などが登場してイマジネーションを掻き立てるようなファンタジー映画が無かったので、フランス映画でやりたいと思いました。
もうひとつは、古いイギリスのハンマー映画に対するオマージュで、ドラキュラなどの60年代、70年代の映画に対するオマージュで、「屋敷女」のような暴力的でかつゴアな内容ではなく、フランスにはなくよりファンタジーなものを目指しました。
−−−海外資本の導入を考えたことは?
実は『リヴィッド』はロバート・ロドリゲスを共同製作に迎え、2009年に一度撮影したんだ。ロケはアイルランドで、セットは米国のテキサスでね。しかし、撮影中盤で製作陣から明確なハッピーエンドを要求された。僕らは詩的な余韻、想像の余地を残し、議論を呼ぶような幕切れにしたかった。アメリカ式の映画作りでは、それが許されない。そこで一端、製作をストップして、フランスで全て撮り直すことにしたんだ。
−−−海辺の町や森に囲まれた大邸宅など、雰囲気のある風景が数多く登場しますが、ロケはどこで?
西仏のブルターニュ地方だよ。美しい海岸や崖、広い原野がたくさんある。ブルターニュはケルト文化が伝わる土地で、日常生活も神話や信仰に深く根差している。そんな独特な背景を物語に加えたかった。古い屋敷はパリ郊外にある廃屋だ。『屋敷女』では庶民的な間取りの家が舞台だったけど(笑)、今回は荘厳な古城を思わす豪邸が欲しかった。条件を満たすロケが見つかったのは幸運だったね。邸内は荒れ放題で、壁中に落書きがあったけど、美術班が頑張って直してくれた。
−−−劇中の“太陽と月、全ての生物に見放された存在”という台詞が印象的でしたが、本作の吸血鬼に対する監督たちのイメージは?
十字架やニンニクは恐れないが、日光を嫌い、生血を吸い、妖術を使う。吸血鬼と魔女の中間に位置する“呪われた創造物”だ。『リヴィッド』の着想はオルゴール箱の中に実物大のバレリーナが入っているというイメージから生まれた。僕たちはイメージ先行型なんだ。物語や人物背景もヴィジュアルで示唆して、可能な限り解釈を観客に委ねたい。
−−−“血に飢えた異形者”の呪われた神話は、仏バンパイア映画の鬼才、ジャン・ローランを彷彿とさせますね。
どこの国に行ってもその質問をされるよ(笑)。ローランは駄作専門の監督としてフランスでは非常に評価が低いんだ。正直、意識したつもりはないけど……似てるかな?
−−−2人の少女についての物語はローラン的—というより、フランス映画が好むモチーフでは?
美しい女性を画面に出すなら、1人よりも2人いる方が楽しいだろ(笑)。
−−−同じ質問を『マーターズ』のパスカル・ロジェ監督にしたら、同じ答えを返されました。
でも、ロジェと僕らは違うよ。彼は必ず主演女優を口説くけど、僕らはしない(笑)。因みにコンビで仕事をしているがゲイじゃないからね。誤解がないように言っておく(笑)。
−−−『リヴィッド』はダリオ・アルジェントの『サスペリア』も連想させますね。
偉大な映画だからね。美しいバレエと醜悪な恐怖世界、相反する要素を融合させた点では、遠く及ばないけれど意識はしたよ。ジェセルが飾っている卒業証書には“ドイツのフライブルグ・アカデミー”と書かれている。『サスペリア』の魔女“溜息の母”が校長を務めた学校だ。僕らの作品は他の映画からの影響や引用が多過ぎると批判されるが、何もなくてつまらないよりは過剰な方がマシだよ。
−−−そういえば『ハロウィンⅢ』のパロディも出て来ますね。
ハッピーハッピー、ハロウィン♪シルバーシャムロック♪ あの歌が好きなんだ。実は『ハロウィンⅢ』のリメイクも依頼されたが断わった。『ハロウィン・レザレクション』みたいのを作れ!と言われてね。あれ、最悪だろ(笑)?
−−−機械仕掛けのアナや鍵で開く魔界の設定は『ヘルレイザー』の世界観に似ていますね。
僕らが構想したリメイク版『ヘルレイザー』は、ナチ収容所の所長が純白の法衣を着た新生ピンヘッドとなる物語だった。原作者のクライブ・バーカーからもお墨付きを貰ったが、製作者から18歳の巨乳娘をヒロインにしろ!鑑賞年齢制限を考えて残酷描写を削れ!と言われて企画から降りた。骨抜きの『ヘルレイザー』なんてオリジナルへの冒涜だよ。
−−−本作のキャスティングや撮影で特に記憶に残ったエピソードを教えて下さい。
リュシー役のクロエ・クールーは撮影前に出産をして太り気味だった。撮影は屋敷内の場面から始めたので、パーカーを着せた。すると編集のバクスターから「彼女、ちっともガーリーじゃないな」と指摘され、後半の撮影—酒場や自宅のシーンでは敢えて肌を露出させた。それと、難航したジェセル役にマリー=クロード・ピエトラガラが決まり、面談をする日に突然、イザベル・アジャーニから「私はどう?」と連絡が来た。『屋敷女』のときもベアトリス・ダルの役をやりたかったそうで、次は絶対彼女に出演して欲しいな。
−−−ほかにどんなアイディアをお持ちですか・・・・
あまりにもありすぎて・・・・
そろそろ消去しないと(笑)
批評家からは、要素をあまり詰め込みすぎないほうがいいよと言われるのですが、自分はこだわらずにたくさんいれたいですね。
−−−今後のプランを教えて下さい。
取り敢えず、コンビでの監督業を続けるよ。ギャラが半分になるけど、一人で仕事するよりは貧乏な方がいい(笑)。『ホステル』や『ファイナル・デスティネーション』はフランスでもヒットしたから、潜在的なホラーファンは国内にも大勢いると思うんだ。まずはフレンチホラーはハリウッドに劣るという固定観念を払拭し、レベルが高い作品なんだと示したいね。
−−−日本のホラー映画、クリエイターは?ホラー映画好きなので、世界中のホラー映画やファンタジー映画はみています。
最近、気になる監督は、井口昇監督の作品。
特にコアでマニアックな作品は、フランスでは作れない作品です。
−−−ファンに向けてメッセージを
今回は、「屋敷女」パート2ではなく、イマジネーションを掻き立てるような内容の作品なので、映画をみて、どんどん膨らませて楽しめる作品です。
執筆者
Yasuhiro Togawa