MUSIC × MOVIE = MOOSIC
時代を打ち鳴らす、映画 × 音楽の祭典 !!

注目の若手監督陣による競作が楽しめるMOOSIC LAB 2012の中でも、一際異彩を放つタイトルが、平波亘監督の『労働者階級の悪役』だ。

とある工場で過酷な環境に命を削りながら働く労働者たち。彼らの志気を高めるための歌を命じられるままに唄う和泉。無垢な心を持つ女性・奏を暴漢から救ったことで、彼の歌と運命が変わっていく…。
インディーズ映画祭”映画太郎”を主宰し、自らも『青すぎたギルティー』『アイネクライネ・ナハトムジーク』等を監督する平波亘。硬質なモノクロームの世界観の中に、京都在住の映画監督でミュージシャンでもある松野泉と人気バンド埋火の見汐麻衣を召喚、生きるための戦いと音への希望を託す。ジョン・レノンの『労働者階級の英雄』へのアンサームービーとしても楽しめる一篇となっている。

『労働者階級の悪役』は、“MOOSIC AWARD 2012”にてベストミュージシャン賞(松野泉)、MOOSIC LAB 2012の地方上映“新潟ガタガタ敵味方編”で支配人賞監督賞。“名古屋♫音楽と映画のはらわた編”で支配人賞グランプリ、男優賞(松野泉)、ベストミュージシャン賞(松野泉)、“京都・大阪・神戸♫ムージック・バトル・ロワイアル編”で大阪シアターセブン 支配人賞・男優賞(松野泉)、ベストミュージシャン賞(松野泉)を獲得している。

『労働者階級の悪役』(2010)
出演:松野泉、見汐麻衣(埋火)、木村知貴、礒部泰宏、三浦英、小澤雄志、片方一予、橋野純平、飯田芳、劔樹人、齋藤隆文、北浦マサシ、齋藤徳一、皆川敬介、二ノ宮隆太郎、宇野祥平、三宅唱、山本政志
監督・脚本: 平波亘  音楽: 松野泉/ 見汐麻衣  撮影・照明: 伊集守忠  録音: 根本飛鳥









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■企画の成り立ち
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——『労働者階級の悪役』はインパクトのあるタイトルですが、元々は【MOOSIC LAB 2012 -ムージックラボ-】で映画と音楽のコラボというお題があっての発想だったんですか?

平波:このタイトルの映画を作りたいという発想で、MOOSIC LABより前から考えていました。生活する上で監督以外の労働をやらないといけない自分の状況。それでも映画をやりたいという思いに支えられて映画と関係ない仕事に従事しています。映像の仕事も来ますけど、自分が望む仕事ではない。それでも食うためにやる。そんな状況に対するメンタリティの継続。今回の松野さんのキャラクターと重なる訳ですが、そういった視点で映画ができないかと。

——劣悪な労働環境の工場で労働意欲を掻き立てるために置かれた歌うたいと1人の女性との出会いを描いた作品ですが、主役に監督でありミュージシャンでもある松野泉さんを器用されたのは何故ですか。

平波:出会いは2人が2008年のぴあに入賞したことでした。松野さんが『GHOST OF YESTERDAY』、僕が『Scherzo/スケルツォ』、という作品でした。それがきっかけで松野さんのライブに行くようになったんですが、松野さんは監督でもあるから歌が映画的。入りやすい世界観で気持ちよかったですね。MOOSIC LABで企画がないかと言われたときに、松野さんを最初は脇で登場する歌うたいとして考えたんですが、メインにしたら別の視点で構築できるのはと考えたのが最初ですね。

——松野さんはオフォーを受けていかがでしたか?

松野:映画出演の経験はないし、「芝居は出来ないですよ」という話はしました。歌っているシーンは演技とは関係なく出来るんで「やります」と言ったんですが、シナリオが来たら、シーンは多いしこんなに演技があるとは…(笑)

——もう1人の主演もミュージシャンで、埋火の見汐麻衣さんは何故オファーされたんですか。

平波:失礼かもしれないけど、女性的と言うより動物的という感じの見汐さんの佇まいに惹かれました。松野さんが働く工場には一応女性もいるんですけど、精神的に歓喜させる、本能を呼び起こす存在として見汐さんの感性がぴたりとはまったかなと思います。

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■2人のミュージシャンを迎えた現場
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——平波監督はお2人を演出していかがでしたか。

平波:松野さん、見汐さんに対してはほとんど何もしてないですね。もっとこうしてレベル。歌うシーンは気持ちよくやって欲しかったし、カメラが2人にどう喰らい付いていくかが課題でした。ミュージシャンは佇まいが独特なので、追いかけるだけで存在感は成立するということで、不安は感じなかったです。

——松野さんと見汐さんの出会いのシーンは、それまで工場で命じられるがままに歌を歌っていた松野さんの意志が初めて表に出てくる重要なシーンでしたね。

松野:見汐さんはずっとミュージシャンでやっている方だけど、僕は音楽ばかりやっている訳じゃないから、あのシーンは本当に怖かったですね。見汐さんとはあのシーンの撮影で初めてお会いしたんですが、凄い許容量のある方で助かりました。

平波:リハーサルもなかったんです。歌詞は特定したくなかった。見汐さんには「あなたは楽器なんです」って指示を(笑)。

——音と音との出会いのようなシーンでしたね。

平波:それが音楽になればいいと思ったんです。撮影は約1週間だったんですけど、意外にも2日目以降、2人ともだんだん役者としての自我に目覚めて来て(笑)こうしたらいいんじゃないですか?って提案が出て来ました。

松野:だんだん楽しくなってきましたね(笑)。最初は平波さんに要求されても応えるスキルがないし、周りは役者ばかりだから不安なまま参加したんですけど…。平波さんは僕には要求せずに周りの役者に要求をどんどん出して、僕がいれば成立する世界観を作ってくれたのでやり易かったですね。

平波:監督同士無意識でも通じるところがありましたね。松野さん以外にも三宅唱監督や山本政志監督が出てくださったんですが、上手いとは別の次元で映画的盛り上がりを分かった芝居をしてくれました。役者はその場その場で芝居を成立させようとする。本職の役者と異業種の芝居のせめぎ合いが面白かったですね。

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■『青いギルティー』との共通点
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——『労働者階級の悪役』を拝見して、平波監督の前作『青すぎたギルティー』との共通点を感じたんですが、人物そのものより音楽や作品に希望を託しているように思えます。

平波:希望…そうですね。良く誰かの曲を聴いて自殺を思いとどまったという話を聞くけど、映画や音楽を観たり聴いたりしてくれた人の究極の錯覚だと思っています。作る側もそこまで考えている訳ではないし、受け取る側の心次第。繋がってないんだけど、その錯覚は僕自身も普段から音楽や映画に触れて信じています。音楽を作った人と聴く人の心が最大限に近づく。そこは一番信用できます。それを映像で表現できないかなと思っているんです。

——松野さんは今のご意見はどう思われますか?

松野:夏目漱石だったかな。「月が綺麗ですね」って書いて“愛してる”を言い換えたというのがあります。同じ月を見ている二人の距離。月の役割が映画とか音楽、そういうものになれたら一番いいかなと思っています。それは希望にもなりうるし、死に影響されて悲しい話だと思う人もいていいんです。

平波:観る人によってここまで反応が違うとは。僕の母親なんか「全然意味分かんなかったー」って(笑)。震災後の世界をデフォルメしたものじゃないかとか、飛躍した捉え方をする人も多くて面白いですね。この映画はプロレタリアートを背景にした松野さんと見汐さんが出会うためのファンタジーだと思っています。

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■仮想敵を作って歌うことができない
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——松野さんはまたオファーがあれば映画に出演されますか?

松野:演技はもうちょっと…(笑)今回は特殊なキャラだったのでやれましたけど。

——直接的な言葉で表現しない劇中の歌が良かったですが、その辺は意図的に?

松野:僕は元々フォークっぽい音楽をやっているんですけど、フォークという意識はないんです。フォークというと70年代の反体制のイメージがあって。それが悪い訳ではないけど、もちろん僕にも何かに対する怒りはあっても、仮想敵を作ってそこに向けて歌うってことは、時代の感覚なのか出来ないんです。

平波:違う気がしますよね。目に見える敵を定めたくはなかった。労働者の中では自ら幕引きをする人もいるけど、誰が悪いと一概に言えないんです。

松野:その辺が僕と平波さんの共通認識としてあって。設定としては反体制的な歌を歌わないといけないのかなと危惧してたんですが、そうじゃなくて良かった(笑)僕が歌えるのは誰かと繋がりたい、そのラインで平波さんも共感してくれました。

平波:中盤以降で松野さんが即興で歌ってくれた曲があって、逆説的な感性の歌詞が世界観を掴んでいて。僕のオファーは間違っていなかったと(笑)。

——撮影でそういう現場におかれたら自ずと出てきましたか?

松野:そうですね。労働者のキャストの皆さんは廃工場で砂埃を頭から被って、実際レンガを運んで労働して凄かったです。僕は出来ませんでしたが(笑)

平波:アイツら超Mでしたから(笑)。どんなにキツイ事をさせても楽しそうで(笑)

執筆者

デューイ松田

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