王様ゲームをモチーフに色欲と暴力の世界を描き出す『KING GAME キングゲーム』のメガホンをとった漫画界の鬼才・江川達也インタビュー!
ある日突然…何者かによって同じ場所に集められた10人の見知らぬ男女。彼らに命じられたのはこの密室で“王様ゲーム”を行うこと。実はこの10人はある秘密の契約に基づいてここに集められていた。しかし、ここでは自分の本名も目的も明かすことは許されていない。彼らに与えられた課題はひたすら続く“王様ゲーム”の中で評価され勝ち続けること。何故、彼等が集められたのか。いつまでこのゲームは続くのか?不安が募る中、王様の命令が繰りかえされる度、その要求は次第にエスカレートしていく。そして最後にこのゲームに隠された本当の目的が明かされる……。
社会現象にまでなった“王様ゲーム”をモチーフに「東京大学物語」などで知られる漫画家・江川達也が自ら原案、監督を務めた衝撃の密室ミステリー。閉じ込められた男女が追い詰められた極限状態の中で、色欲と暴力に支配されていく様子を今までに体験したことのない圧巻のスピードで描いていく。今回、監督作品2作目にして江川達也ワールドの真骨頂を発揮した。彼は初監督作『東京大学物語』が完成したあとにすぐにスケッチを描いてアイディアを出した。王様ゲームを通じて人間の本質をえぐり出すユニークな物語を生み出した江川達也監督にインタビューを敢行した。
–密室劇ということで、舞台劇にもなりそうな内容だと思いました。それを意識した部分はありましたか?
「確かに舞台的なものを意識してますね。舞台の面白さって、たとえばコントでもいいですけど、太っている人が突然女の人を演じるなんてことがあるじゃないですか。何もないところから生み出すというような。だいたい王様ゲーム自体がそういう部分がありますよね。何もないところで、いきなり王様もないだろうと思うけど(笑)。お互いの暗黙の了解で、そこが非日常のバーチャル空間になるというのがモチーフになっているんですよ。人間の本質を描き出す際には、そういった点にいろいろと自由な可能性を感じましたね」
–そうすると生身の役者さんが大切になっていきますね。
「そうですね。役者さん自身で展開していくものですからね。でも11人それぞれに芝居をつけるのは、なかなか大変でしたよ。11人が主役なんで、誰かしらに感情移入していただいて。もしも自分がこの中の一人だったらと思ってもらえたらいいですね」
–それぞれの役者さんが魅力的だと思いましたが、主演のスズを演じた石田卓也さんは?
「彼は愛知県出身で、ぼくと同郷なんですよ(笑)。彼は頭で考えるよりも直観力で動くタイプの役者さんですね。いい感性してるなと思いました。ある程度、この異常な雰囲気の中で空気みたいな存在でいて欲しいと思ったんで、彼の笑顔にお任せという感じでしたね。彼の持ってる空気感や持ち味がすごく良くて、表情や動きが魅力的ですね」
–過去に複雑なものを抱えているチェーホフという女性を演じた芦名星さんですが、後半のボンデージとSMを披露するシーンに驚きました。
「スタイルがいい方ですよね(笑)。あれはプロデューサーから、ボンデージにしようというリクエストがあったんですよ。最初はどうやって口説き落とそうかなと思っていたんですけど、案外あっさりと着てくださって(笑)。体当たり演技というか、ガッツがある女優さんだと思いました」
–SMといえばもう一人、木村佳乃さんも強烈な演技を見せてくれました。
「今まで見たことのない木村佳乃が観られるんじゃないでしょうか。木村さんはかなりノリノリだったんですよ。ムチ指導の女王様が愛用してる服を見るや『わたしあれがいい!』と。それで、女王様に指導してもらうことになったら、嬉々として、『どうやるの?』って。喜んでムチを打ってて。助監督が練習台としてムチを打たれてましたよ。ほんと嬉しそうで演技指導はいらなかった。芦名さんもそうでしたが、女の人ってムチを打つのが大好きなのかもしれないですね(笑)」
–監督2作目となりますが、今回チャレンジしたことはありましたか?
「オリジナルがやりたかったということですかね。もちろん前作の『東京大学物語』は自分の原作なんですけど、実は途中まで違う形で撮っていたものがあったんですよ。原作とまったく変えずに、セリフなども一言一句変わらないものを作ろうと思ったんです」
–そうすると、主人公の村上君の頭の中で展開される妄想が完璧に再現されるわけですね。
「やはり原作が一番完璧なんですよ。特に作者なんで、今さら変えたくないですし。2巻の途中の海岸の途中で泣くシーンまで。そこがちょうど映画一本分で切りが良かったんですよ。だからセリフを声優に当てさせて、その声優の声を合わせて映画を撮ろうと思っていました。でもせっかく34巻あるんだから、それを全部やれということになってボツになったんです。最初は34巻全部なんて出来るかよと思ったけど、次第にやってやろうじゃないかという気持ちになって。あの映画、2時間で34巻分の物語が入ってたでしょ」
–入っていました。
「そういうこともあって、原作ものはやめてオリジナルをやりたいなと思っていたんですよ。それでこの映画が生まれたわけです」
–監督の中ではもともと別の原案があったと聞いたのですが。
「かなり違いますね。これもプロデューサーの意向でボツになりました。スケッチブックに描いた企画書があったんですよ。それは渋谷でチャラチャラしている奴が主人公だったんですが、友だちが農業をやっているらしいと聞いて。あんな遊び人がなぜ農業をやっているのかと思って、会いに行くと、真面目になって人格が変わっているわけですよ。お前もあのゲームをやったら人生が変わるよと言われたんで参加することになった。
すると全身ボンデージで拘束されるわけです。後ろにモニターとゲーム機があって、それを動かすと、電脳上で王様ゲームが始まるという話だったんです。王様ゲームはアバターで参加するんで、それは人間が演じるんですけど、王様が念じたバーチャルな世界に合わせて場面設定や姿形も変わる。バーチャル王様ゲームで、いろいろと設定を変えられるというのが元々の原案だったんですよね」
–いわばイメクラのような世界観ですか?
「あ、そうですね。俺がやりたかったのはまさに王様ゲームとイメクラとの合体なんですよ。イメクラだと舞台に近いじゃないですか。一時期、質の高いイメクラは売れない劇団の人なんかを起用していたらしくて、それは芝居がうまいからイメクラの世界に入りやすいんですよ。
そんな中でドイツやポーランドの王様になったり、お前は町人とか、お前は武士だとか、そういう舞台設定から寸劇が始まっていくんです。つまりはおれが王様ゲームをやったらどうなるかなというような社会性をずらすようなことが描きたかったんですよ」
執筆者
壬生智裕