物語の舞台は、なぜかすべてが相撲中心の町-ときわ。文学賞を受賞した作家・凸やん(浅野忠信)を探しにこの地に降り立った担当編集者・静(真木よう子)の視点で物語は展開していく。そんな彼女が凸やんの消息をつかむために出逢うのはとんでもない個性の持ち主ばかり!子供の時の-あの事件-の事を小説に書いていた凸やんを殺したというのだが…鈍すぎる凸やんは殺された事に気付かず何度も何度も戻ってくる!

宮藤官九郎脚本の同名舞台が原作。登場人物は少ないものの、そのキャラの濃さは超ド級。2時間笑いっぱなしだけどどこかホロっとしてしまう本作でメガホンを取りその世界観を見事に表現したのは、日清カップヌードル「NO BORDER 希望」や富士急ハイランド「FUJIYAMA」などのCMを世に送り出した映像クリエーターの細野ひで晃監督である。







-L.Aの大学で映画を専攻なさった後、10年間映像クリエーターとしてCM界でご活躍なさった監督がまた映画を撮ろうと思ったのは何故ですか?

「ずっと遡れば高校を卒業した時から映画を撮ろうと思い始めて、この10年間CMを撮っている間も映画を撮ることをやめた訳ではないんですね。CMをいい加減にやっている訳ではないのですが、まぁ経験を積んでいけば映画にもつながるという思いがありましたね。」

-なぜ「鈍獣」だったのですか?

「まぁ本当純粋に戯曲が面白いと思ったんですよ。なんだこれ!って感じで。それが何で面白いのかってしばらく考えたんですよ。鈍獣の中では弱者と強者がとてもあいまいなんです。分かりやすく正義と悪がいて、正義が悪をやっつけるって話じゃなくて、あれ?凸やんが悪なのか?江田っち(北村一輝)が悪なのか?それとも両方なのか?って。それが新しく感じたんです。凸やんの中では自分が正義だし、江田っちからすれば凸やんは悪だし。人間ってそういうものだと思うんですよね。だからこそ人と人が分かりあうことが必要なんだなって思って。」

-宮藤さんに映画化の話を提案した時に、しぶったとお聞きしたのですが…

「僕も鈍感だから、しぶっていたとは気づきませんでしたね。」

-登場人物の幼少時代の回想シーンにアニメーションを使った理由はなんですか?

「一つは25年前をどう描くかってことなんですよ。配役でやると[あの事件]を
リアリティが出るので、もう少しファンタジーな要素も入れたかった。今から25年前…小学校位の事を思い出すと毎日アニメの中で生活してました。アニメを見てた昭和のノスタルジーな感覚を出したかった。」

-登場人物のキャラクターに負けず劣らず、舞台となるときわの町セットや衣装がとても個性的で印象に残りました。こだわった点などあれば教えて下さい。

「やっぱりポップスターというか戯曲というのがあって、僕が好きだし得意っていうのもあるんですが…ビジュアル面はこだわりましたね。物語の大半の舞台となる江田っちのバー[スーパー・ヘビー]のテーマは[和製ラスベガス]です!実はときわの町は日本の象徴で、まぁちょっとアメリカナイズされた日本というか。だからすもうの町という設定にしました。」

–ジェロさんを起用したのは何故ですか?

「デビュー前の彼をたまたま見つけたんです。一生懸命演歌を歌う姿をみて、直感で明を演じてもらいたいと思いました。」

-一番困難だったことは?

「一番困難だったこと、困難だったこと…忘れちゃった!!モノ作るのって困難がないことなんてないから。でも悔いはないですね。それは、やっぱり出来ることと出来ないことってありますけど、与えられた環境とか全部受け入れて消化できているので。35歳の僕が限られた時間とお金のなかで出来る限りのことをやりました。」

-公開がせまっていますが、現在の心境は?

「本当に、育ててきた子供が嫁いでいってしまうといいますか。不安だけど期待もあるし楽しみでもある。そんな心境ですね。」

「人と人は違う。相撲みたいに戦う相手がいながらも、これからはどう共存していくかだと思うんです。もう戦う時代じゃないのではないかと。人間が共存するには相手を理解すること。それに凸やんも江田っちも気づくんじゃないですかね。人間って失ってから気づくことって多いじゃないですか。僕は人間はみんな元々鈍感だと思っていますから。それは仕方ないんじゃないですか。この根底にあるメッセージが伝われば、もう満足ですね。届けばいいなと。これからも誰かが何かに気づいてくれるメッセージを送り続けたいなと思います。」

 

執筆者

峰松加奈

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=46883