『ヘブンズ・ドア』アソシエイトプロデューサー トム・ツィックラーにインタビュー
第31回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞に輝いた映画『鉄コン筋クリート』を監督したアメリカ出身映像クリエイターマイケル・アリアス監督の、待望の初実写映画がついに完成!
本作は、ボブ・ディランの同名曲から生まれたドイツ映画『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』のリメイク版。
今回日本公開に先駆け、原作のプロデューサーであるトム・ツィックラーが来日し、日本を舞台に置き換えたリメイク版に熱いエールを送る。
リメイクが実現するまでの経緯、キャスティングについて、また原作と本作を比較した際の率直な感想などをうかがった。
——今回のマイケル・アリアス監督の日本版の作品をご覧になった感想をお聞かせください。
ベルリンで作品は拝見したのですが、そもそも最初にリメイクをしたいと聞いたときに本当に誇らしい気持ちになりました。その後で主人公が男性2人だった設定を片方女性にすると聞いて、最初自分達が作ったこのバディームービーも相棒ものなんですが、少し恋愛色の強いものになるのかと想像していたら、その女性が13歳の女の子だと聞いてとてもワクワクしました。出来上がりがどのようになるのか全く想像つきませんでしたから。
実際に『ヘブンズ・ドア』を観て、この二人勝人と春海が出会うシーンは本当に引き込まれるような感じで、2回目に観たときはティルシュファイガーさんと一緒だったのですが、2人とも2、3回目に涙が溢れていました。実際泣いてしまいました・・(笑)。作中、“LOVE”という言葉を使ってらっしゃいましたけれど、私は大好きです。とてもユニークな作品になっていると思いますし、すごくすばらしい精神をもっているし、だからこそ今回来日しようと決めたんです。出演されている方、関わっている方がどんな方々なんだろうと興味がありましたので。
——起用された監督がアニメーションに特化している他、異色のスタッフ構成は日本映画の中でも滅多に類を見ないケースですが、そういったスタッフの起用に関しての率直なご意見、ご感想はありますか。
アニメ畑というのは聞いてはいたのですが、やはり結果としての作品を観たときに思ったのは、監督として例えばどういうスタッフを起用し、どのように構成するのかといったことは当然大切なことではあるんですが、やはり実写の場合、特に主役達のキャスティングにおいて誰を起用するのかがすごく大きいと思うんですね。良いストーリーや脚本が揃っていても、その物語をしっかりと紡いでくれる俳優を見つけなければなりません。複数いれば当然相性などといったことも大切になってくる。そういった意味でも完璧なキャスティングだったと思いますし、この二人がいることによって、ユニークで新しいものに仕上がっていると感じました。すごく存在感を信じられる二人だったと思うんですね。これは監督に求められる資質のうちのひとつでもあって、俳優が役を演じていて、それを観ている者がその演技を信じられるということは、やはり最高のことだと思います。二人は自分にとって真実味のあるキャラクターでしたし、実際に観たときは英語字幕版で観たのですが、字幕をみる必要がないほどに何か伝わってくるもの、響くものがあって、非常に良かったのではと思います。
——作中の音楽が非常に好評ですが、プロデューサーからみて本作の音楽についてどう感じましたか。
もちろん私も気に入りました。マイケル・アリアス監督とお会いした際も、すごくスコアが良かった、心が無になれたと、すごく気に入っているという話をしたんです。
アンジェラ・アキさんの最後のカバーもすごく良かったと思うし、敢えて日本語で歌うというのもとても良い選択だったと思います。
やはり、音楽も含めてマイケル・アリアス監督がいかにこの映画を形にしてきたか、そこが大きいと思いますね。
——リメイクされるにあたり、何かこの点だけは変えて欲しくない等の要望は出されたんでしょうか。
そういうリクエストは全く出していません。むしろ、監督がどんな作品に仕上げるのかという興味の方が大きかったです。2年間という期間がかかったのですが、その間プロデューサーさんや、アスミック・エースの国際部の方などと連絡をずっと取り続けて、ダイアログリスト、台本、写真、あるいは私の製作当時の色々なお話をさせて頂きました。最初、日本は島国なので、海はあまりにも近いということで雪を見に行くという設定に変えるという話を聞いていて、それも面白いかもしれないと思ったのですが、元に戻して良かったと思いますね。画的にいっても、水の方がダイナミックで、雪を前に太陽が沈んで・・・っていうのはあまり描きにくい、面白くないかなっていうのもありました。
そもそも作品を気に入って頂き、リメイクをしたいと言われるだけでも大変誇らしく、光栄と思う気持ちがありました。日本に設定を置き換えるといっても、僕達は日本の文化を全く知らないわけなので、むしろどういうものになるんだろうっていう興味の方が楽しみでしたね。
また映画というものは、リメイクをする場合、オリジナルの要素をどれだけ伝えたいと思っても、やはり新しい要素をもたらさなければならないと感じます。ですから、その新しい要素がどんなものになるのかっていうのは、非常に楽しみでしたね。実際に観た後も本当に気に入りました。
——今回本作を観てオリジナル版も見返すとてもいい機会にもなったのですが、今後観て頂く日本のファン、もしくは世界のファンにメッセージがありましたらお願いします。
自分達の作ったオリジナルは、ドイツ人やヨーロッパの観客にとって、今回の作品に比べればよりエンターテインメント的で、コメディ的な要素が強かったかと思いますが、『ヘブンズ・ドア』は、人生の中でも何が本当に大切なのかを訴えています。結構意外な展開もあり、ヨーロッパ人としてみても、日々小さなことに囚われうまくいかず落ち込むこともあるけれど、もう少し引いて大きくみれば人生というのはいかに大きくて美しいものだというメッセージが見受けられると思います。そういったものを感じ取ることができ、また自分達の作品に比べてよりエモーショナルな作品だと思うので、この感動作を、友人、ガールフレンド、家族みんなで是非行ってください。
執筆者
井上 緑