今や日本映画界に欠かせない名優・西田敏行。数多くの受賞経歴に加え、今年11月には紫綬褒章を受賞。長年磨き上げられ、幅広さと洗練度を持ち合わせた高度な演技で追随を許さない名優が遂にハリウッド作品初進出!

脚本に惚れ込んだ『シン・シティ』(05年)のブリタニー・マーフィーが出演と共に製作で参加。東京で独りぼっちになった若いアメリカ人女性が、ラーメン屋の気難しいおやじの下に弟子入りし、完璧なラーメンを作る秘訣を学ぼうと奮闘する、あたたかでボーダーレスなハートウォーミングドラマとなった。

今回は世界の演劇シーンで活躍し、日本でも数多くの舞台を演出。日本に精通しているロバート・アラン・アッカーマン監督にお話を伺うことにしよう。




この作品は、日本滞在経験のある脚本家ベッカ・トポルさんの経験が元になったと聞いていますが、監督自身も日本に滞在することが多いと聞いています。監督自身の経験はどれくらい反映されているんでしょうか?

異文化の中で暮らす女性ということで、もちろん彼女の経験がアビーに反映されてはいるんですけど、どちらかというと、私の経験の方がより多く入っているんじゃないですかね。

監督は日本で、日本人俳優に芝居の演出をされていますよね。

日本で日本のキャストに向かって演出するときに、私はアメリカの戯曲ということで、日本人キャストにアメリカのスタイルを押しつけてしまうことがあるんです。そういう意味では自分が体験したカルチャーギャップの経験もかなり入っているんじゃないかと思ってます。

日本人のキャストはどのように決められたのでしょうか?

ブリタニー(・マーフィー)は、私がアメリカで会って決めました。西田(敏行)さんは最初は存じ上げなかったんですが、奈良橋(陽子=『ラストサムライ』『BABEL』などを手がけたキャスティングディレクター)さんから紹介してもらいました。余(貴美子)さんは前に一緒に芝居をしたことがあるんで、それでお願いしたということです。

山崎努さんは伊丹十三作品の「タンポポ」ですよね。

言うまでもなく、この映画は「タンポポ」へのオマージュですからね。

西田さんとブリタニーさん、ふたりの俳優の科学反応がこの映画の肝ですよね。

ふたりはすごく愉快な人たちですからね。ブリタニーは西田さんを尊敬していました。それでいて、彼女は物怖じしないんですよ。だからふたりとも譲らない(笑)。「バカヤロー、てめぇ」みたいな感じで、アドリブでどんどん台詞を付け加えていったんです。それがあの映画の中で活かされてましたね。だから初めはふたりとも本気で腹を立ててるんですよ。でも最後の方になると楽しそうにしてましたね、まさに映画と同じように(笑)。

師匠と弟子というふたりの関係性を描くにあたって心がけたことは?

弟子に対してギブアップしないということですね。それは私が演出家として心がけていることでもあるんですが、もし自分が若い俳優に限界を観てしまったら、それ以上は伸びないんですよ。私自身がもっと先をと見てあげることが、その俳優が伸びるということなんです。だから私は俳優に対してギブアップしません。この映画を観ていただければ分かると思うんですけど、西田さんは一度もギブアップしてないんですよ。怒ってはいますけど(笑)。だから彼女は一日ずつ良くなっているんです。それがまさに私が心がけていることですね。

深いですね。

この映画はラーメンだけの話じゃないですからね(笑)。ラーメンのスープというのは宇宙ですから。それだけの深さがあるということなんでしょうね(笑)。

最後に監督がこの映画に込めたテーマは?

自分の文化を押しつけてばかりで、他の文化を学ぼうともしないということは駄目じゃないかと。アメリカがやってることとはまさにそうなんです。だからアメリカ人よ、心を開きなさい、と言いたいわけなんです。もちろんアビーだって最初は気づいていないんです。でもちょっとしたきっかけで異文化の良さが見えてくるようになる。私が描きたかったのは、心を開けばいろんなことが見えてくるよ、ということなのです。

執筆者

壬生 智裕

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