10歳の少年アリとその家族の長い夏休みを描いたトルコ映画『夏休みの宿題』が第21回東京国際映画祭アジアの風部門に出品された。

口数が少なくてシャイだが、内に熱を秘めるアリ。物語の冒頭で、学校でしか支給されない宿題帳をクラスメイトに奪われるが、代わりに長い夏休みの中で様々な体験をすることになる。

日常の中でそれぞれが抱える問題や悩み。長い夏休みはそれと正面から向き合うのにふさわしい時間を与えてくれる。アリ少年の家族がそれぞれに抱える個人的な問題に向き合う中で、父が倒れ…。
物語はテンポよく進むが、静かに淡々と日常を描いた人間ドラマだ。

アリを演じたタイフン・ギュナイが見事にシャイな男の子を演じきった。この作品でリアリティを感じる重要な要素となっている。

セイフィ・テオマン監督に、彼を主役に選んだいきさつなどを語ってもらった。







アリ少年の夏休みのできごとを描いた作品ですが、宿題と題名につけたのは何か意図があるのですか?

メタファーのようなものです。子供が夏休みを過ごす中で本当は本から色々人生について学ぶことを期待されているのかもしれないけれど、アリはその本である宿題帳を失ってしまいます。そして自分の人生を生きることから学ぶことになります。

本作をつくるきっかけは?

私が知っている人生、つまり、私自身の人生を描こうと思いました。それが、映画を作るにつれて、だんだん複雑になっていき、いろいろ社会問題なども含めていきました。しかし、元になったものは自分の子供時代です。自分の子供時代を思うとちょっと落ち着かない気持ちになります。完璧なものではありませんでしたから。

アリ少年を演じた子役(タイフン・ギュナイ)がとても魅力的でしたね。シャイで、何かを訴えるような目力がありました。彼を抜擢したいきさつを教えてください。

ロケをした小さな町の学校から許可を得て、その学校の子供達1000人以上を見ました。あの子が来てくれたのは大きな幸運でした。二番手の子は比べ物にならなかったですからね。演技経験はおろか、映画を見たこともない子でしたが、演じることにとても才能のある子供でした。あの子が映画館で最初に見た映画が自分の主演している映画になりましたね。

本当に才能がある子で大人のような賢さがあり、と同時に子供らしさも失わない子でした。途中でスパイダーマンのゲームをやるから待っていてと言われて、僕たち大人が待つこともありました。その一方で、まるで大人の役者のように自分の演技をモニターでチェックして見ることもありました。

決め手は顔を見て、この子だと思いました。こちらを見るまなざしも印象的でした。それから、あの役柄は内向的で、実際のあの子も内向的。内向的な子は往々にしてエネルギーを内に秘めるタイプです。それを僕は感じました。

子供の演技指導は難しいのではと思いますが、どんな演技指導をしましたか?

この映画を成功させるには良い子役を見つけるのがもっとも大事だと思っていました。子供に、全く別のものになれというのは難しいので、その子自身として演じてもらうことが成功につながると思いました。どういう演技指導をしたかと言えば、全然しなかった。適切な子を見つければ、演技指導なんて必要ないのです。そうじゃないと、良い作品は作れません。あの子に言ったのは、「これからこういうことが起きて、こうなるよ。」と。それだけです。例えば「今君はこういう気持ちで、こういう背景で、」ということを言ってしまうと、大人が子供の体を借りて演技しているようになってしまうからです。それは避けたかったですね。

すばらしい子役との接し方ですね。次回作はどのような作品を取っていきたいと思いますか。

現在撮っているものは同じ女の人を愛してしまう二人の男の話です。他にも二、三本アイディアがあるのですが、子役は出てこないです。

個人的にはまた子役を使った作品を期待したいです。今日はありがとうございました。

執筆者

Hiromi Kato

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第21回東京国際映画祭