いつも一緒にツルんでいる高校3年生の仲良し3人組、ナツ、ココ、マリネ。3人とも片親という共通点はあるものの、性格はバラバラ。好みの男性のタイプや、今抱えている恋愛事情、家族の問題、将来の夢や悩み、不安もまちまち。そうして時には苛立ったり喧嘩したりしながらも、互いに支えあい励ましあって、大人への第1歩を踏み出す危うく多感な時期を一生懸命に生きている。そんな彼女たちの等身大の姿を、ユーモアを交えてヴィヴィッドに描き出した、さわやかな青春ラブ・ストーリー。

出演は『ハチミツとクローバー』の関めぐみ、『スウィングガールズ』の貫地谷しほり、そして『フラガール』の徳永えりと、注目の若手女優が共演。そしてメガホンをとったのは、弱冠28歳の新鋭・飯塚健。22歳で自主制作映画『サマーヌード』を発表し、目下脚本家としても活躍中。本作では自ら原作も執筆している。数々のヒット曲をふんだんに取り入れ、音楽とドラマが巧みに絡み合い情感を盛り上げる独自のスタイルで、若々しい感性と才気を見せてくれる。

そんな飯塚監督に映画について話を伺った。





『彩恋』とは変わったタイトルですが、このタイトルに込められた意味は?

「字面が美しい日本語で、文学的なタイトルをつけたかったんです。こういう映画なので、恋という字を入れたかったし、縦にして見たときにスッキリと見えますよね。それから片仮名にするとサイレンで、鳴り響くようなイメージがあります。その名の通り、恋を彩る、という意味もありますからね」

宣伝では3人の女子高生の物語ということになっていますけど、基本的には群像劇ですよね。

「そうですね」

群像劇ということで気をつけた部分は?

「群像劇って尺長になる可能性が非常にあると思うんです。でも、それはしたくなかった。だから絶対に100分以内にしようと思ってました。
 それでいて混乱しないように。ひとりひとりのエピソードをとにかく分かりやすくしなければいけない。やはり若い人にも見てもらいたい作品ですからね。ひとりひとり違うシーンが出てきても、誰だかちゃんと分かるようにしなければいけないし、そういう物語の整合性というのは気をつけました」

女子高生の話というのは違和感なく?

「最初に女子高生の話ということで話が来たとき、『そんなにネタはないですよ』とは言ったんですけど。前作が女子高生の話だったんで、違う切り口をし探さなくちゃと思ったんです。
 それで女子高生についての話を書くと考えるのをやめたんですよ。こういうキャラクターの女の子を作ろうというときに、たまたまこの子の職業が女子高生だったという。
 僕の映画は、よくセリフが特徴的だと言っていただけるんですけど、それは彼女が18歳だから使っている言葉ではなくて、10年後にもこの言葉を使っていて欲しいと思って書いたからかもしれませんね」

これまでの飯塚監督の作品にはある種の流れがあると思います。青春ものだったり、群像劇だったり。ご自身は自分のスタイルをどのように感じていますか?

「群像劇が好きなんですよ。見るのも書くのも。映画って、作るのにとんでもない労力や時間がかかるじゃないですか。それで少ない人数を描くのはもったいないと思ってしまうんですよね。なるべく多くの人を描きたいというか。貧乏症なのかもしれないですけど(笑)。
 もちろん群像劇しかやらないんだという妙なこだわりはないですけど。自然にオリジナルを書いていると、自然に群像劇に寄ってしまうというか。習性に近いですね」

たとえば群像劇というと、ロバート・アルトマンなどを思い浮かべる人も多いと思います。影響を受けた作品や監督などはありますか?

「そういえばデビュー作の『サマーヌード』のときに、『○○版ショートカッツ』という紹介のされ方で、アルトマンの名前を出した方がいらっしゃいましたね」

もの書きの心理として、アルトマンの名前を出したくなる気持ちは分かります。

「実はそれまでアルトマンの作品ってまともに観たことがなかったんですよ。作るようになってからいろいろな映画を観始めるようになったので。
 それまでは映画を幅広く観るタイプではなくて。好きな映画だけを10回でも20回でも観るタイプだったんですよ。ただ、『マグノリア』はとても好きでしたけど」

あれもアルトマンの影響下にある映画ですからね。

「でも、最近気付いたことがあるんです。あるとき地球パニックムービーが流行ったときがありましたよね」

『アルマゲドン』とか『ディープ・インパクト』とか。

「『ディープ・インパクト』って、いろいろ言う人がいますけど、僕は秀作だと思うんですよ」

僕も『ディープ・インパクト』派ですね。

「あれは群像劇じゃないですか。群像劇ってリトマス試験紙だと思うんです。ひとつの出来事に登場人物を落としこんだときに、どう反応するかということだと思うんですよ。
 たとえばこの3人が帰り道に500円玉が落ちているのを見つけたとしますよね。拾う人間なのか拾わない人間なのか。もしくは拾うんだけど、使うのが目的か警察に届けるのが目的か。そこからどんどん広がっていきますよね。警察に届けようと思うんだけど、そのまま忘れちゃう人間なのか。その足で警察まで行くタイプなのか。
 そういうものが『ディープ・インパクト』にはあった気がして。もしかしたらあれには影響を受けているかもしれない(笑)。出来あがった映画のジャンルからは納得できない人もいるかもしれないですけど」


人間の描き方ということですよね。

「ただ、ためらいはありましたよ。この『彩恋』という企画をやるにあたって。あんだけ音楽をバンバン入れたら、酷評する人たちがいるのは分かってましたし、それを承知の上でやった面もありましたから」

そんなモンですかね。

「そんなもんですよ。音楽をあれだけ入れた時点で、映画じゃないという意見も出てきますし。でもそういうのはどうでもいいですけどね」

映画じゃないとは思わないですけどね。

「難しいところなんですよね。ありものの曲を使うのは、ベストなマッチングってなかなかないと思うんですよ。やっぱり必要のない歌詞の情報が入ることもありますし、逆にそれが非常にマッチして、いい場合もありますし。
 言ってて思いだしましたけど、影響を受けた監督いました(笑)。キャメロン・クロウは好きですね」

彼も映像と音楽と相当こだわってますからね。

「『あの頃ペニー・レインと』もそうですし、世間では酷評された『エリザベスタウン』も意外に好きですしね」

『エリザベスタウン』も音楽とのマッチングがテーマとしてありましたからね。飯塚監督の作風として分かる気がします。

「たぶん『ディープ・インパクト』よりかは納得してもらえるかもしれないですね(笑)」

音楽をガンガン使っちゃおうよ、というのはプロデューサー側の意見も大きいんですか?

「最初に、歌をバンバン使える感じにしたいんだよね、と言われたんですよ。8曲も入れられるんだろうかと思いながらも、入るように撮らなきゃいけないだろうと。本来ならここで入らないだろうという使い方もしているんですけど、そういうのも面白かったですね」

ところで、この映画の登場人物たちはみんな片親ですよね。そのせいもあるかもしれませんが、基本的にハッピーな映画にも関わらず、どことなく哀しさが漂っている気がします。

「ネガティブな部分はネガティブなままで描いてますからね」

でも、みんな寄り添っているといったような温かさがあります。

「登場人物たちが継ぎ合わせるというか、埋め合わせるといった関係性はあるかもしれませんね」

だから映画全体が優しい感じがするんですね。それでは最後にこれから映画をご覧になる観客の皆さんにメッセージをお願いします。

「元気が出る映画だと思うので、映画がやっている90分ばかりは現実を忘れて見ていただければ幸せですね」

執筆者

壬生智裕

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