映画界にキック・オフ!!『オフサイド・ガールズ』ジャファル・パナヒ監督IV
映画『オフサイド・ガールズ』は女性が男性スポーツを観戦することを禁止としている国、イランを舞台にした物語。
しかしイラン国民は男性だけでなく、もちろん女性もサッカー大好き。
「スタジアムでサッカーの試合を観たいっ!」
という思いを強く抱えた少女たちが考えたのはなんと、男装してスタジアムに潜り込む作戦!
応援したくなるような彼女たちをリアルな視点で、ユーモアたっぷりに捉えた作品だ。
もしもあなたがどの映画を観るか迷ったなら、是非この映画を観て欲しい。
きっと他の映画では味わえない感覚を楽しめるから。
今回はジャファル・パナヒ監督に話を伺ってみました。
監督が映画で社会的な問題を取り上げられるのは、どうしてですか?
「初めて映画に興味を持ったのは12歳の時なんだ。僕が書いた小説が地域の文化センターで取り上げられて、それを使って子供たちで映画作りをすることになったんだ。それからしばらくして写真に興味を持つようになった。カメラを手にたくさんの写真を撮ったよ。でも大人になって、僕が表現したいものは映画というメディアを使うのが一番だと気づいたんだ。だから映画監督になったんだよ。」
どうして映画が一番だと思ったんですか?
「映画で何かを表現するのは難しいと思うよ。だけど自分には一番いいと思えたんだ。映画を観てより現実を感じることもあるだろうし、音と動きが一緒になることで人の関心を惹きやすくなると思うんだ。それに、映画は全ての芸術を使うことができるからね。もし僕がこの時代の人間じゃなかったら、別のものを使っていたかもしれないけど(笑)。自分が本当に何かに関心を持つとき、そこに理由はないんだと思うよ。」
この映画を観て、「なぜ女性だけが禁止されるのか」と多くの人が疑問を感じると思います。観客にそういう影響を与えたいという気持ちはあるのですか?
「社会派の監督としてありたいという気持ちはあるんだ。社会で起こっている問題って、実は人間に一番身近な問題でもあるんだよ。そして観客は現実的に撮らないと信じてくれないから、僕は人に一番近い目線で撮ってるんだ。僕は、映画を観て現実に問題と向き合って欲しいと思ってるよ。」
ドキュメンタリーは撮ってないんですね。
「演出を勉強した後はドキュメンタリーを撮ってたんだ。だから今映画を撮ってて、何があってもすぐにその場で自分で決められて演出できるのは当時の経験のおかげだと思ってるよ。今でも覚えてるのは人形劇のメイキングと、伝統的なお祭りの儀式のドキュメンタリーだね。ドキュメンタリーを撮った時は編集を考えながらやってたよ。それに何が起きるか、常に周りに関心を持たなくちゃならなかった。それも今すごく役に立っているよ。」
本作の少女たちのように、どうしてもやりたかったことってありますか?
「やっぱりこの映画を撮ることかな(笑)。すごく粘りましたね。」
この映画を撮っていて一番大きなアクシデントは何でしたか?
「クランクアップ5日前に撮影を中断されたんだけど、全部やり通したよ(笑)。」
10分に1つアクシデントを起こすというのは、ドキュメンタリー経験で学んだことなんですか?
「それは全ての作品に言えることじゃないんだよ。この映画ではそういうリズムが必要だったんだ。前の作品では違うリズムだった。これはテーマが必要としているリズム次第なんだよ。」
ここで取り上げた問題は娘さんが実際にぶつかった問題でもあったそうですね。娘さんへのメッセージもあるんですか?
「もちろん影響はあるよ。実際自分たちが生きている社会で得た題材をテーマに作品を撮るということは、必ず家族や友人といった周りにいる人間の影響を必ず受けているんだと思うよ。」
今までの監督の作品はイラン本国では上映されていませんね。それでも作品を作り続ける力はどこからくるんですか?
「性格上、手に入れたいものは絶対手に入れるんだ。若かったなら諦めることもあったかもしれない。でも僕は現実に自分の立場をしっかり守ってる。この位置にいることと性格がやる気を生み出してるんだと思うよ。状況を読んで上手く自分の為に使って、目標のものを手に入れるっていうのは大事だと思うんだ。」
イランは宗教が人々の生き方や法律に影響していますね。一イラン人としてそういう社会をどう思いますか?
「今は宗教的な体制だから、そういうこともあるね。でも6年前はそうじゃなかった。国の体制がそうでも、必ずどこかに圧力をかけている状況はあるんだ。これは昔を振り返ってみればヨーロッパでも中国でも、旧ソビエトでもみられたことだ。イデオロギー的な体制が国を仕切れば、全てのことに対して1つの考えを押し付けるようになる。そうするとそのうち『これは違うんじゃないか』って思うことも出てくる。そしてその中から独裁者が出てきたりするんだ。」
執筆者
Tomoko Umemoto