「いま、会いにゆきます」の市川拓司原作のロングセラー小説が待望の映画化。若手きっての実力派、長澤まさみ、山田孝之、塚本高史のトライアングルが織りなす純愛物語。

目に見えない力で繋がっている人々のめぐり逢いの物語を、繊細で温かい映像が優しく彩るファンタジーである。

今回は、山田孝之主演のドラマ版「世界の中心で、愛をさけぶ」、そして長澤まさみ主演の連続ドラマ「セーラー服と機関銃」などを演出し、本作が映画監督デビュー作となった平川雄一朗監督にお話を伺った。







平川監督はこれまでテレビドラマで多くの作品を手がけてきて、今回が映画初挑戦ということになります。映画ということで、意識してテレビと違うようにしようと心がけたところはありますか?

「映画ということで最初は違うようにしようと心がけていたんです。でも、けっきょく撮るときになると関係ないというか、それじゃ駄目だろうなと思って。
 途中からは、僕が面白いと思えるものを作らなければいけないんだと割り切りましたね。でないと僕がやる意味はないですから」

平川監督がやる意味というと、テレビの良さを活かしたドラマ作りというところが挙げられますよね。

「そうですね。よく映画は考えさせる間が必要だと言います。でも僕の場合、役者さんの寄りの画面(クローズアップなど)を撮ることが異様に多いんですよ。そこから伝わることの方が多いと思っているんです。
 自分がベストだと思う役者さんの表情を切りとって、お客さんに分かってもらえるような画面作りを心がけています」

最近ではテレビのディレクター出身の映画監督が増えてきました。視聴率と戦ってきた方々だけに、そういう方の映画には、物語をきっちりと観客に伝えるんだ、という意志が感じられます。

「確かにそうですね。ただ、そうだからといって、お客さんが万事こちらの思惑通りにそれを受けとめるかといったら、そうでもないんですよ。だから最低限、自分が楽しめるものを作らなければいけないとは思いますね」

原作は市川拓司さんの小説です。読んだ時の感想は?

「市川さん独特の優しい世界がありますよね。それをうまく引き継げないかなと思いました。
 お父さんが自分の息子に『愛していた』というくだりがあるんですけど、3回言うんですよ。それがものすごく自分の中に響いたんですよね。おととしに自分の父が亡くなったのもあって。
 ですからこれを映画化するにあたって、そこのくだりは絶対に入れたかったところでしたね」

すると、父親役の小日向文世さんの演出にも力が入ったのではないですか?

「そうですね。小日向さんはすごい役者さんです。ものすごい微妙なニュアンスの表情が出せるし、いろいろな役をこなせますからね。
 映画に出てくる病気についても、下手したらそんなのありえないよ、と思う人はいると思うんですよ。でも、小日向さんがあそこまで真剣に言っていると、思わず納得させられてしまうところはありますよね」

嘘に説得力を持たせるということですね。

「観客に気持ちを伝えればいいんですからね。事実よりも気持ちが伝わればオッケーだなと思っているんですよ」

それはファンタジーとは何ぞや、というところにつながってくると思うんですが。

「ファンタジーって気持ちを伝える手段なんじゃないですかね。
 たぶん僕がさっき共感したところも、やっぱり父と息子が直接、面と向かって愛していると言うよりも、それが他の第三者によって、言えなかった言葉が当事者に伝えられるというところが素敵だと思うんですよね」

ファンタジーということもあると思いますが、特に回想シーンでの光が、温かく、そして柔らかく感じられて印象的でした。意識はしましたか?

「もちろん意識はしましたね。夢を見せてくれるような輝かしい過去を表現しようと思ってああなりました」

逆に現代がブルーというか、水槽の中を思わせるような画面作りだったような気がします。

「そうですね。水にはちょっとこだわりました。この映画の色は青だね、というところから始まってますからね。撮影期間が冬だったので、必然的に緑が少なかった。ただ水槽の中には緑がありますし、癒される空間を作りたかったんですよ」

始まりはブルーのイメージからだったんですね。

「車もブルーですし。主人公の店「トラッシュ」のイメージカラーはブルーだったんですよ。水だったり、自然を感じさせてくれる、癒される空間、癒される色って何だろうと思って」

そこらへんは美術さんと相談したわけですよね。

「夢を見られる空間というのは意識しました。こんなお店だったら自分もやりたいと思ってもらえるような」

現代のおしゃれなアクアの画面の対比として、過去の回想シーンはゴミ捨て場のようなところが舞台ですね。

「やっぱりファンタジーにしなくてはいけないので、そのゴミも汚くしないようにしました。美術さんがシャンデリアとかをキラキラと飾ってくれました。うまいですよね」

この映画は作る上で、参考にしたものはありますか?

「もちろん『いま、会いにゆきます』ですね」

あの森のセットとかですか?

「そう。それと家の中のセットも、よく見るとおしゃれなんですよ。
 知りあいの女の人が『あれはセンスがいいよね』と言っていたんですよ。男は物語を見てますけど、女の人っていろんなものを見てるんですね。小物だったりとか。そういうところに気を使おうと思いました。
 あとは竹中直人監督の『東京日和』。あれも何気におしゃれなんですよ。花が飾ってあったりとか、小物だったりとか。そういうところを意識すると、これはやはり女の人に優しい映画じゃないといけないなと思ったんですよ」

長澤さんや、山田さんなどとは、一緒にドラマをやっていますが、彼らの良さを教えてください。

「若い俳優さんの中でも、長澤さんや山田君、そして塚本君なんかもそうですけども、気持ちでお芝居ができるんですよね。さっきの小日向さんとも重複すると思いますけど、芝居に嘘がないというか、信憑性を持った演技をしてくれる。そこが恵まれているし、助けられたなと思います」

具体的にこのシーンで助けられたな、みたいなエピソードはありますか?

「もう全部です。全部が全部助けられましたよね。何だろうな…。山田君って何か持っているんですよね」

不思議な人ですよね。

「そうなんですよね。何も言わなくてもそこにいるだけで、何かあるんだろうなと思ってしまう。
 長澤さんにしても、別に何も言わないんですよね。それでも何か彼女なりのものを膨らませて芝居をしてくれるし。だからすごいなと思いますよね。
 たとえば山田君と長澤さんがカレーを食べるシーンがあるんですが、普通は恥ずかしいじゃないですか。美味しいと言ってニコニコするなんて。でも、それが恥ずかしくない。それどころかそこにふたりの歴史が感じられる。久しぶりに会った幼馴染みがそこにいたんですよね。それを見て、自分はこういう映画を作るんだと逆に教えられるところもありますからね。
 だからこの人と組みたいと思うのかもしれない。それが嘘に見えちゃったら、映画が壊れちゃいますからね」

執筆者

壬生智裕

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