幕府に背いてイギリスに向かった5人の若者たち『長州ファイブ』三浦アキフミ、独占インタビュー
幕末、江戸幕府に開国を迫る諸外国の脅威に揺れ動いていた時代。吉田松陰の教えに発奮し、敵を知るために国禁を犯してイギリスに渡った5人の長州の若者たちがいた。伊藤俊輔(伊藤博文)、野村弥吉(井上勝)、山尾庸三、遠藤謹助、志道聞多(井上馨)の5人は、日本との技術力の違いに愕然としながらも、やがてその技術に興奮するようになる…。『地雷を踏んだらサヨウナラ』の五十嵐匠監督の最新作は、新しい時代を夢見て、激動の時代を生きた5人の姿を描いた熱い青春映画となった。ロンドン、ルーマニアで撮影されたスケールの大きな物語にも注目である。
そこで今回は、伊藤博文を演じた俳優、三浦アキフミさんにお話を伺うことにした。
今回、実在の人物を演じるにあたって、どのようなことを心がけましたか?
「実在の人物を演じるのが初めてだったんで、すごく難しかったんです。最初は役に対してもすごく漠然としていたんで、制作の方から資料をたくさんいただいたんですが、5人の中でも伊藤博文が一番資料が多かったんですよ。おかげで人間味溢れる伊藤博文像が見えてきましたね。撮影中もそういった部分を表現できればいいなと考えていました。自分自身、興味を持って演じることが出来ましたし、実在の人物をやることの面白さも感じました」
資料というのは?
「いろいろですよね。小さな雑誌から教本まで。一冊、読み終わったと思ったらまた送られてくるんですよ(笑)。伊藤博文の青年期、いわゆる伊藤俊輔の小説があったんですが、それが700ページ以上もあって。でもそれが面白くてどんどん読み進めてしまったんです。もちろん分からないこともたくさん出てくるんですけど。ただ彼を理解した上での時代背景なども見えてきましたし、いろいろな資料にあたれたことはすごくよかったですね。ただすっと図書館通いで大変でしたけど(笑)」
5人のアンサンブルの中で、三浦さんはどういう位置を心がけましたか?
「結局、普段の自分が出ているところがあるんですよね。それが伊藤俊輔の部分でもあったわけなんですが。要するにあまり表に出ないんですよね。ポスターの写真でもそうなんですけど、どこか一歩下がっている部分があるんですよ。だけど、心の中では、天下をとってやろうという気持ちがものすごく強いんです」
確かに上昇指向が強い感じはしますね。
「もともとは身分の低かった方ですからね。結局、この時代に中心になっていた偉い方って、みんなどうしても志なかばでみんな殺されてしまうんですよ。でも彼はそれを分かっていたのか、常に強い人の側近にいても、一番にはならない。
たとえば他の4人が熱くなったとしても、ひとりだけ温度差があって、どこか冷めているところがあるんですよ。でも心の中には、ものすごく熱いものを持っているんですけども。だから、自然にそうなるよう心がけましたね」
五十嵐匠監督の指示で印象に残っているものはありますか?
「監督自身がとてもストレートで熱い方なんです。こと細かに動作を指示するタイプではなく。だから監督には、変な小細工をせずに、不器用でもいいから、気持ちでぶつかっていかなければいけないんですよ。力いっぱい演じることに没頭しなきゃいけないような状況を作ってくださったので、僕自身いい経験になりましたね。監督自身が武士のような方なんですよ」
この映画にはそういった熱さが充満していたと思うんですが、監督が引きだしていたわけなんですね。
「そうですね。海外に行った時、僕らもどこか欧米的な空気に飲まれていたのかもしれないんですよ。それで撮影初日に、僕らが監督から『そんなんじゃないんだよ』と、お叱りを受けたんです。でもああいう形で言ってもらえたからこそ、僕らも武士なんだということを常に頭の片隅に置いていけたと思うんです」
『長州ファイブ』って不思議なタイトルですよね。
「長州小力さん? とか、戦隊もの? なんて僕の友だちは言ってましたが(笑)。でも、タイトルを聞いたときもあまり違和感はなかったですね。実際日本では、長州五傑とか呼ばれていたんですよ。でも、長州五傑じゃ今の時代、誰も振り向かないですからね。実際にロンドンでは彼らを”Choshu-five”と呼んでいたわけですからね。ジャパンでなくて、長州と呼んでくれることがすごく誇りになりますよね。最初は戦隊物? と思っても、それで耳に馴染んでくれればいいですね。段々かっこよく感じてくると思うんですよ」
海外に留学する役ということで、英語を使いこなさなければいけないわけでしたが、どうでしたか?
「たまたま野村弥吉(後の井上勝)はしゃべれたんですけど、その他の4人はは独学もいいところですよね。辞書だって間違ってますから。そんな中でイギリスに乗りこんでいくんですから。行ったこともすごいですけど、その中でやってきたこともすごいと思うんですよね。必死だからこそ覚えられるんだろうなと思って。あの環境下の中で。僕らなんか恵まれているのに、やってないんだから、僕らも彼らから学ばなきゃいけないですよね」
イギリス、ルーマニアなど、海外ロケが多かったですね。大変ではなかったですか?
「言葉が通じないなりに楽しかったですね。コミュニケーションはもどかしかったですけど、あっちの人はしゃべり好きですからね。僕自身も一生懸命英語を使って喋ってみて。だから日本にいる時よりも伝えようという気持ちが強くなりますよね。あっちの人はお構いなしで英語でバンバンしゃべってきますけど(笑)。
お互いに言葉が違うからこそ、伝えようという気持ちが強くなったんで、親しみやすかったですね。それはイギリスにしろルーマニアにしろ、同じでした。だから言葉のいらない部分で分かりあえた部分もあります。
ルーマニアのスタッフなんて、最後の日に制作担当の人がわざわざホテルまで来てくれたんですよ。泣いてましたからね。それを見て、僕らも泣いたりして。そういうのがすごく良かったですよね。すごく貴重な経験でした」
最後にこれから映画を観る人にメッセージをお願いします。
「今の日本は、不安な部分が強くて、動くに動けない部分がありますよね。でも、幕末では、今の日本よりもさらに動きづらいし、しがらみも多かったと思うんです。でもそんな状況でも、この5人は命をかけて海外を目指したんですよね。そういう中で具体的に僕らが学ぶべきこともあると思うんですよ。熱い思いがあったからこそ、この5人は踏みだしていったんですよね。
だから考える前にチャンスがあるなら動こうと。動いてみて、その結果失敗したとしても、それはそれでいい経験ですし、そこでまた強くなると思います。とりあえず考える前に動こうというのが僕自身感じ取ったことですし、そういうのが皆さんに伝わればいいなと思います」
執筆者
壬生智裕