「単純に楽しんでもらいたいんです!」
映画『陽気なギャングが世界を回す』について前田哲監督はこう語る。

伊坂幸太郎原作の同名タイトルの小説を映画化した本作は、ご存知の通りちょっと風変わりな4人のギャングが銀行強盗をする物語。嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、そして正確な体内時計を持つ女が繰り広げる痛快エンターテインメントだ。

そう、この映画の魅力はなんと言っても”思いっきり楽しめる”こと。
「毎日つまんない」なんてぼやきを、かっこいいギャング達があっという間に吹き飛ばしてくれるのだ。
ハラハラしたり笑ったり、はたまた突っ込んでみたり。
”何でもアリ!”なこの映画を観た後に残るのは、最近では珍しいほどの爽快感だ。

また、大沢たかお、鈴木京香、佐藤浩市、松田翔太という豪華実力派俳優陣がこれほどまでに魅力を発揮させている映画もそうそうないだろう。それぞれが個性的なキャラクターを演じ、みるみるうちに観客を映画の世界に惹き込んでいく。
まさに映画を余すところなく味わえる邦画なのである。

今の日本人が忘れてしまった映画の見方をも提示してくれた前田監督にインタビュー。






——製作はスムーズに進んだんですか?
「脚本には結構時間をかけました。脚本家の方を含めて3人で脚本を作ったんです。キャストの方とスケジュール合せをしている間に脚本をどんどん直していって、結局半年近くかけましたね。」

——エンターテインメント性抜群の映画ですが、CGの使い方など、アイデアは監督のものなんですか?
「車のシーンを全編通してCGで撮るというのはプロデューサーの方の最初のコンセプトでした。日本ではカーアクションは難しいし、できないのならCGでやろうということだったんです。”5センチ浮いた映画にする”というのがコンセプトで、そういう風に脚本も作っていきました。作り手としては、その”浮いてる感”をどれだけ弾けさせるかが課題でしたね。こっちが楽しんでやっていることをお客さんに面白がって見てもらえれば良かったんです。あとは美術や衣裳、音楽にこだわって作るということを最初に決めてました。」

——完成したものから結構変更されたりもしました?
「黒幕を誰にするのかということには迷いがありました。完成版の設定で少し気になることがあったからなんですが、結局最後の最後で考えが変わり、急遽脚本家を集めて今の設定に戻しました。この映画では誰も死んでないので、もしパート2があれば黒焦げになった彼が復讐しに出てくるというアイデアも出来てあるんです。」

——原作モノですが、映像化する際に気をつけられたところは何だったんですか?
「やっぱり伊坂さんのテイストをいかに映像で見せるか、でした。時間を考えることも含めて、原作と同じことをしてもやはり映画は違うものですから。伊坂さんの独特な感じを映画としてどう落とし込むのが一番いいのかを考えてました。あとは遊び心を感じさせることですね。」

——ラストの海外ロケは最初から考えられてたんですか?
「最初はなかったです。あのカットは”Get away”ていう意味なんです。ギャング映画の最後はああじゃなきゃ!って思ってたので。バカバカしくておもしろいんじゃないかとプロデューサーからも言われました。あれはCGじゃないですからね! 『え、そのために行ったの?バカじゃない??』って言われるために行きましたから。」

——キャストが本当に豪華ですよね!皆さん楽しかったとおっしゃってますが、現場はどんな感じでしたか?
「現場ではもう彼らがこの作品の空気感を作ってくれていました。楽しい現場でしたよ。特に佐藤浩市さんと松田翔太くんの掛け合いが面白かったですね。2人で考えたことをやってもらったり、アドリブもそのまま撮ったりしたんですが、言うまでもなく面白かったです!最終日の夜にメイキングのインタビュー撮りをしていた時、翔太くんが撮影のことを思い出して涙を見せてくれたことには感動しました。キャスト全員で中華料理を囲んでたんですが、浩市さんもそれを見てほだされて。彼も二世俳優として映画に出た頃を思い出したのかもしれませんね。」

——松田さんは本当にこの映画に参加できたことが嬉しかったみたいですね。
「今回の映画のキャストとして参加できたことで翔太くんの中では大きかったと思います。僕は翔太くんが中学生の頃から知ってたんですが、彼の映画デビューの作品を撮りたいと思ってました。それまでにデビューの話もたくさんあったみたいですが、本当にこの映画に出てもらえて良かったと思います。」

——キャスティングは早くから決まってたんですか?
「僕が入った時点では大沢さんが成瀬を演られるということが決まっていただけで、その他のキャスティングは難航しました。翔太くんと同じ年齢の子にもオーディションで会いましたが、ずっと僕の心の中には久遠には翔太くんのイメージがあったのでプロデューサーに一度会ってもらったんです。プロデューサーが翔太くんを見た途端、決まりでしたね。」

——キャスティングが決まってから俳優さんに合わせるためにシナリオを変えた、ということはなかったんですか?
「大筋は変えてませんが、やはり若干変えましたね。響野の演説のシーンは浩市さんと一緒に考えたていろいろ決めました。浩市さんのアイデアを受けて、返してということを繰り返しました。浩市さんは一分だったら本当に一分キッチリに収めてくれて、凄いのは何回撮り直してしても一分で収まるんです。彼こそ体内時計があるんじゃないかと言われるほどキッチリ仕上げてきてくれたんです。完璧に作り上げてくる人なので、10秒伸ばすように頼むとすごく怒られましたね。彼を中心にいろんな撮りかたができたので本当に助かりました。」

——この作品は90分ですが、ちょうどいい時間ですね。
「気軽に楽しんで観てもらうために、90分で作ることにこだわったんです。時間つぶしにもちょうどいいし。今は時間が長い日本映画が多いですけど。誰かと一緒に観て、観終わったら楽しく話ができる映画になればいいと思ってました。ある有名な脚本家の方が”映画の見方を知らない客が多すぎる”と言ってましたが、この映画は単純に楽しむだけの映画なので、本当にただ楽しんでもらえればいいと思ってます。読んで捨てるフリーペーパーがあれば、ずっと本棚に置いておくような本もありますよね。映画もそのようなものだと思うので、いろんな人に手に取ってもらえれば嬉しいです。」

——エンターテイメント性を求めた、単純に楽しめる映画が少ないからこそ『陽気なギャング〜』みたいな映画は貴重ですね。
「こういう映画が日本の映画として受け入れられていないというのは非常に感じますね。感動させなきゃいけないとか、泣かせなきゃいけない、だとか皆思ってるみたいで。この映画を作る時には”パッと楽しめて、観てる間は何もかも忘れさせる映画にしよう!”というのが一番にあったんです。」

——見所はいっぱいあると思いますが、監督が見て欲しいところはどこですか?
「4人の銀行強盗の話でもあるんですが、実はこの映画は成瀬と雪子のラブストーリーとしてのつくりをしているんです。不器用な男と女がどうやって結ばれるのかというのは人間ドラマとして脚本家の方達と作り上げたので、DVDではそういう視点でも見て欲しいですね。それに繊細な2人の芝居を見てください。あとはCGで車が斜めになるシーンで滑り台が置いてあるんですが、そこに”慎一”という名前が書いてあるのでDVDで確かめて欲しいですね。そういう細かい仕掛けがちょこちょこしてあるので、映画ですでに見た人でもきっと分からなかったかもしれませんので、探して見てください!」

執筆者

Umemoto

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