不安定な現代の大人たちへ向けた「大人の青春映画」 『Breath Less ブレス・レス』忍成修吾単独インタビュー
言葉では伝わらない、
肝心なことには到達しないけれど、
そこに近づく何かはある—————。
女性へのナンパ言葉も哲学的な人生論も気取らずに口にする、警察官らしくない主人公、徹(筒井道隆)。徹とは対照的に寡黙な同僚中野。抽象画を描くのが好きで、今のデザイン事務所での仕事に疑問を持ち始めている恵美子(清水美那)。
人と関わりたいと欲しながら上手く関わることが出来ない現代の人間像を、やわらかな言葉のキャッチボールと、浮遊感あふれる瑞々しい映像で描き出している映画『Breath Less』。
原作は1980年代に発表された小説「ハロー・マイ・ラブ」。1986年に監督デビューした渡辺寿監督の第二作目として一度企画されるも、当時は映画化には至らなかったが、曖昧模糊とした現代こそ面白いものができるのでは。と、時代設定を現在に移して遂に映画『Breath Less』は完成した。
映画では、70年代後半に起こった今日的とも言える事件を基にしたエピソードも付け足されている。その事件と関わりのある、映画オリジナルの登場人物である中野。監督は、この役には彼しかいないと早い段階から決めていたのが、忍成修吾さんだ。
映画『ローレライ』『リリィシュシュのすべて』や、ドラマ「伝説の教師」「ヤンキー母校に帰る」など、TV、映画、CMで多岐に渡って活躍中の忍成さんに作品や、演じた役について話してもらった。
★2006年4月22日よりポレポレ東中野にてレイトロードショー
——『Breath Less』を観た感想は
「約2年前に撮影をして、完成までに時間が経っていたので、どのように演じたかという記憶が薄れていて、映画自体を一観客として観ることが出来ました。撮影時は、ストーリーが華やかではないので、どのような感じになるのかと思っていましたが、音楽が格好よくて、渋い映画になっていたので、意外でした。最後の盛り上がりの部分が、“希望”を表現している感じで好きです」
—— 監督は、早い段階で中野役は忍成さんに決めていたようですが、抜擢された感想は
「若干、複雑ですね。(笑)でも、見込まれて選ばれたのは光栄ですし、面白い役でした。一つ一つのキャラクターの背景を創り上げている監督なので、それを説明して貰っていたので、演じやすかったです」
—— 中野は、割と寡黙な人物で、喫茶店からぼーっと下を眺めているシーンなど、何を考えているのかよく分からなかったのですが、何を考えていたと思いますか
「僕も何を考えているか分かりません。(笑)監督の『こうやって見てて』という演出に従っていて、頭の中はほぼ空の状態でした。何かを考えているとそれが出てしまうと思うので、分からないようにするために何も考えていませんでした(笑)」
—— 中野役については監督からはどのように聞いていましたか
「特別に狂気じみたことがあったわけではない普通の少年だけど、ある流れに乗ってしまい、事件を起こしてしまう。周囲の人にインタビューしたとしすれば『いい子だったのに』と言われるような、大人しくて、とてもそんなことをしそうにもない子だと言われました」
—— 忍成さん自身は、中野という人物をどのように思いましたか
「不器用な子だなと思います。周囲の人から支えられて生きているけど、その愛情の受け取り方がよくわからない。普通だけど、不器用な人だと思います」
—— 中野との共通点はありますか
「映画の中では直接そのようなシーンはないですが、多分中野は人見知りだと思うので(笑)、そこが似ていると思います」
—— 忍成さんが警官役を演じたのが意外でしたが、警官役はどうでしたか
「制服が邪魔だなと思いました。実際の拳銃などは付けていなかったんですが、実際に付けたら犯人を追いかけるのに不なんじゃないかと思います。(笑)」
—— 撮影現場時の思い出は
「淡々とした現場で、特に波乱もなく。自転車に乗るシーンで坂道がキツクてはあはあ言ってたのが思い出に残ってます」
—— 今までは、同世代の人との作品が多かったと思いますが、『Breath Less』では共演者とはどうでしたか
「現場では、『どこで遊ぶの?』など普通に世間話をしてました。(笑)別の作品で渋谷で撮影していた時に、筒井さんがたまたま通りかかって、「おう!」と言われたので、「ああ、どうも」と挨拶したことがありますが、筒井さんは本当に素朴な部分をお持ちの方だなという印象です」
—— これから挑戦したい役などはありますか
「挑戦したいというよりも、今は役を与えられたいと思っています。色々な役に挑戦して、得意なものを作ったり、苦手なものを克服したいです。自分の幅を広げたいので、役を選んで道を狭めたくないと思っています」
—— どのような役が得意だと感じていますか
「暗い役をやるイメージがあっていると思います。(笑)もともと、陰のある役をやりたいと思っていたので、そのような役は好きです」
—— 普段どのような映画を観ていますか
「影のある役をやりたいと思っていた時は、ミステリー作品やサスペンスを良く観ていました。今は色々な役に挑戦したいと思っているので、ジャンルを問わずに観ています。好きな作品は『グランブルー』とか。最近観て一番充実したのは『ミリオン・ダラー・ベイビー』です。ラストは暗いですが、凄く見応えのある作品で、観た次の日にレモンパイを食べました。(笑)」
—— 好きな役者はいますか
「役者はその作品によって変わるので、特には居ません。脚本家だと『マルコビッチの穴』『エターナルサンシャイン』など、ちょっとぶっ飛んだストーリーを書く、チャーリー・カウフマンの作品は好きでずっと観ています」
—— では、最後に『Breath Less』を観る人へのメッセージを
「個人的には最後のシーンが好きで、男性に観てもらいたいです。音楽がカッコよくて、空気感のある作品なので、そのへんを楽しんで観て下さい」
執筆者
t.szuki